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ある不安な日の日記

作者: 草津杏樹

風邪をひきかけている。

喉の不快感と咳と耳鳴り。しかし熱はない。


お風呂に入って汗をかけば治るだろう、と入ってみたが、心臓がドキドキして耳鳴りが激しくなって、あぁ、なんて息苦しいのだろう。



明日は月曜日。また学校が始まる、とはいってもどうせ講義はない。

単位だけは真面目にとってきたから。

もう四年生だから。


周りの内定率はまだまだ低い、と自分を慰めて早二ヶ月。

私を残してほとんどの友達が内定を獲得し、バイトに卒論にと精を出している。



先ほど届いたメールには全く温度を感じられない

「お祈りしております。」

の文字。


早くから対策したはずなのに。

結局自分を甘やかしてただなんとなく就活をしてたのかな。


今日は風邪だから、マイナス思考なのかな。

喉元を軽く締め付けられているような、そんな息苦しさ。首を捻ると余計に苦しくなるから、これは精神的なものではなく単に喉が腫れているだけなのだろう。

きっとそうだ。


みんな今何してるのかな。

Twitterでも見てみるか。私は今朝呟いた。



「久々の風邪、このタイミングでひくなんて本当についてないなぁ。」



仲のいい友達はいるし、深い話ができる友達もいる。

その子が風邪をひいたら、家が遠くてもお見舞いを買って届ける。金額なんて気にしない。


見返りを求めてやってるわけじゃない。

早く元気になって、そしてまた遊びたいからだ。


そう思っていたけれど、いざ私が風邪をひいたらなんでお見舞いしてくれないのかな。せめてメールの一つでもくれれば、この心は救われた気持ちになるのに。


って、本当に嫌なやつ。

もう自分が嫌だ。嫌いだ。


素直に助けを求めたらいいのに。

風邪薬、お金払うから買ってきてって頼めばいいのに。

察して精神は嫌いだから、なるべく声を上げることにしてるのに、自分の弱みを見せたくないって思ってる。

だけど、ほんの小さな心遣いがもらえたらって、あぁ、なんて浅ましいのだろう。



「フッ軽連中で遊園地なう」


「推しのライブが尊くて……

まだまだバイトも頑張れるー」


「今日は久々にみきちゃんと東京デート! ラーメンうま!」



私なんて、家で志望理由考えてたよ。動画サイトでゲーム実況見て、てきとうなお昼食べて、またES書いて、休んで……


もうすぐ7月。

本当に、本当に私は就職できるのかな。


まだ頑張りきれてないんだ。

もっと本気出して頑張れよ。まだ息切れしてる場合じゃないって、自分で自分のケツ叩いてみてももうとっくにエネルギー切れてるんだ。多分。


一回休んだほうがいいって、この選考が落ちたらとりあえず一回休憩しようって思っても、怖くて怖くて次の説明会の予約をしてしまう。


そんないたちごっこをもう一ヶ月は続けている。



ーかんちゃん大丈夫?何か欲しいものあったら言って?届けるよ?



一番仲のいいミカから返信が来た。Twitterから。



ーありがとう!だけど明日学校行かなきゃいけないから、その時に自分で買う!気遣いありがとー



だから、助けを求めろよ。お願いしてもいい?ってその一言がどうして言えないの。

と、自分が言う。


明日学校行かなきゃいけないのは事実だから、外出できるくせにってちょっと後ろめたいんだろ?

しかも、わざわざTwitterから返信せず、LINEくれればいいだろ。なんだよ、他の人に「私優しいです」アピール?そんなものに私を利用しないで。

と、トゲトゲしたもう1人の自分が言う。



あぁ、本当に嫌な考え方だ。もう、早く寝よう。


夏物のパジャマでは寒いので、室温23度の中、秋物のパジャマにフリースを羽織る。首までしっかり毛布にくるまって眠りに就く午後10時。



…だめだ、寝られない。悪寒が増していく。寒くて仕方がない。熱を測れば37.5度。

保冷剤を枕に敷き詰めて、もう一度目を閉じる。保冷剤からほんのり香る干物の匂いに包まれて眠る、午前1時。


喉が痛くて呼吸が苦しい。頭がガンガンして寝られない。目を開けるとさっきからまだ1時間も経っていない。こんな長い夜は久方ぶりだ。熱を測れば38.5度。


38度台なんて出たことほとんどないから、つい感心してしまった。私でもここまで熱が上がることってあるんだって。


苦しくて、悲しくて、苦しくて、寂しくて、苦しくて、辛い。

これはなんの辛さなのか。こんな精神状態ってなんなのか。

明後日は2社の面接がある。現在選考が進んでいる企業たち。これが落ちれば、7月は振り出しから。


苦しい、苦しい、辛い。


熱でぼうっとする頭で、明日の朝から学校へ行くことを考えて、また少しだけ悲しくなった。


なんで悲しくなるんだろう。なんで落ちたんだろう。なんで「大丈夫?」って個人的に心配してくれなかったんだろう。

私はだめな人間なのか。結局、見返りを求めて人に優しくしてるだけな人間なのか。親のすねかじりまくって、骨の髄までしゃぶって、金だけ浪費する嫌な娘なのか。


ぐるぐるぐるぐると目が回り、目を閉じても回転が治らない。

もう無理に寝なくていいから、目だけ閉じていよう。

そんなことを思って深呼吸した、午前2時20分。


明日の自分、あとは頼んだぞ。


無責任な今日の私は責任放棄して意識を失った。


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