第8話 「勇者アヘ顔ダブルピース、不死鳥に会う」
巨大ガエルをなんとか倒した俺とリディアは、更に山を登った。
斜面が急で所々けもの道になっており、転ばぬように気を付けながら黙々と進み続ける。
周りは鬱屈とした森林地帯なので、道から少しでも外れたら完全に迷子になってしまいそうだ。
そんなわけで30分後。俺達は、白い石で造られた鳥居のある場所に着いた。
「この鳥居、山の入り口にもあったな……」
「ということは、ここを抜けると不死鳥の住処、ということでしょうか?」
「かも知れないな。よし、行ってみよう」
冷静に考えてみたら、中世ヨーロッパ風の世界なのに鳥居があるのはおかしくないか。
まあ、ゲーム開発者の趣味ってことなんだろうな。
鳥居を抜けて先に進むと、木々に囲まれた空間の中央に黒い祠がポツンとあった。
石を削って作ったと思われる1メートル四方の四角い物体で、随分長いこと放置されていたのかあちこちに苔が生えている。
「……祠、ですね……」
「祠だな……」
一体ここからどうすればいいんだ?
「……とりあえず、触ってみますか?」
リディアはそう言いながら一歩前へ進み出て、おずおずと祠に触れた。
と、その時。祠がかすかに震えたかと思うと、突如としてまばゆい光を放ち始める。
「「!?」」
俺とリディアは、思わず目を閉じた。
「……なんなんだ、いきなり……?」
数秒後、目を開けてみるとそこには……1人の女の子が、祠の隣に立っていた。
「え?」
身長140センチほどの小柄な女の子で、12歳ぐらいに見える。長くてきれいな黒髪と日本人形のように白い肌が特徴的だ。
しかも全身にはザ・和風といった感じの巫女服をまとっており、いよいよ世界観が滅茶苦茶である。
「よう!」
女の子は、可愛らしい声で元気に挨拶をした。
「ど、どうも……」
とりあえず俺は、ペコリと頭を下げる。そして率直な疑問を投げかけてみた。
「えーっと……どちら様ですか?」
「わしか? わしはな……不死鳥じゃ!」
「……え?」
俺は呆けた声を上げた。隣のリディアも、不審そうな目で巫女服の女の子を見つめている。
「あなたが……不死鳥、ですか?」
「そうじゃ!」
リディアの問いかけに威勢よく返事をする自称不死鳥の女の子。
「アヘダブ様……こんな幼い子供が不死鳥だなんて、何かの間違いなんじゃ……」
彼女は不安感をあらわにしながら俺に尋ねてきた。
すると女の子はムッとして、
「失礼な! わしはこう見えても1200歳の大ベテランなんじゃぞ! おぬしのような小娘とは比べ物にならんくらい生きてきたんじゃ!」
と言った。
「せ、1200歳……?」
驚きに目を丸くするリディア。
普通だったら、一見12歳の女の子の実年齢が1200歳だった……なんて、到底ありえない話だ。
だがゲームの世界において“こういうキャラ”は定番と言えば定番である。
俗に言うロリババアってやつだな。
「分かりました、信じましょう。それで、あなたのことはなんとお呼びすれば?」
俺が丁寧な口調で聞いてみると、女の子は胸を張って口を開いた。
「フェニックスの“ふぇにちゃん”と呼べ!」
「ふぇにちゃん……ですか?」
「うむ! かわいいじゃろ!」
1200歳にもなってそんな呼び方をされたら、普通はイラつかないだろうか。
まあいい。目の前にいる“1200歳の不死鳥の女の子”というのはあくまでもゲームデザイナーが考えたキャラクターに過ぎないわけだから、深く考えるだけ無駄だ。
「おぬしたちの名前はなんというのじゃ?」
「俺の名前は勇者アヘ顔ダブルピースです」
「私はリディアです」
俺達は口々に名前を名乗った。
「勇者アヘ顔ダブルピースに、リディアか……女の方はともかく、男の方は変な名前じゃな」
俺もそう思う。
「それでは本題に入りましょう、ふぇにちゃん。不躾で申し訳ありませんが、俺の望みを1つ聞いてください」
「うむ、なんじゃ?」
「“不死鳥の羽根”を、1つください」
それを聞いたふぇにちゃんは、偉そうにふんぞり返りながら腕を組んだ。
「ここに来るものは皆わしの羽根狙いばかりじゃからな、そう言うであろうことは大体わかっておったわ。おぬしも人を生き返らせたいのか?」
「はい、そうです」
「なるほどな。じゃが、わしの羽根は人の生命を操る莫大な力を秘めたもの。そうやすやすと渡せるわけではない」
まあ、そうだよな。
人を自由に生き返らせることができるアイテムなんて、もしも現実にあったら悪用する奴が続出しそうだ。簡単に渡せなくて当然である。
「だから羽根を渡す前に1つだけ、わしの“頼み事”を聞いてくれ」
「頼み事……ですか?」
「うむ」
コクリと頷くふぇにちゃん。なかなか可愛らしい仕草だ。
「この山を下りて北に少し進んだところに、鉱山がある。そこでとれるダイヤを、わしのところまで持ってこい。ダイヤと羽根をこうかんじゃ」
それを聞いたリディアが、首をかしげながら会話に入ってきた。
「なぜ、ダイヤが必要なんですか?」
「特に深い理由はない! まあしいて言うなら、ダイヤはキラキラしててキレイじゃからな! わしの宝物コレクションに加えたいんじゃよ!」
1200歳にしては幼稚だな。このふぇにちゃんを作り上げたゲームデザイナーは、そういうギャップのあるキャラが好きだったんだろうか。
「分かりました、それじゃあ早速行ってきます」
「うむ! 頑張って来いよ!」
やれやれ、フェニックスの羽根を貰えるかと思ったらいきなりお使いを頼まれてしまった。
RPGでお使いクエストは王道の流れとは言え、“山を下りてダイヤを取って来い”とはなんともめんどくさいお願いだ。