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第7話 「勇者アヘ顔ダブルピース、隠ぺいする」

 少し落ち着きを取り戻した俺はまず、ロランさんの死体を床に寝かせた。


 そしてテーブルの上に大量に置かれた研究資料の紙を、数十枚ほどまとめて取る。


「……それをどうするんですか?」


「死体の隠ぺいに使う」


 俺はそう言いながら、ロランさんの死体を覆うように紙を何枚も覆いかぶせていく。焼き芋を作るときに、サツマイモに大量の落ち葉を覆いかぶせる、あの要領だ。


 そんな感じで研究資料の紙を死体が見えなくなるまでばらまく。


 よし、完成だ。


「……これで数日は時間が稼げるだろ」


「で、でもいいんですか? こんなことをして」


「大丈夫だ、ばれなきゃ犯罪にはならない」


 まさかこんな極悪な言葉を実際に使う日が来るとは思っていなかった。


 心配するな、ここはゲームの中。あくまでもフィクションの世界なのだ。


「……それで、これからどうするんですか?」


「俺達は今から、“不死鳥の霊山”というダンジョンに向かう」


 それを聞いたリディアが、目を丸くした。


「“不死鳥の霊山”……聞いた事があります、万物の生命を司る伝説の不死鳥が住む霊山のことですよね」


 俺はコクリと頷いた。


「そうだ。その不死鳥からもらえる羽根を使えば、死んだ人間を生き返らせることができる……だったよな?」


『はい、そうです』


 俺の頭の中で、天の声が返事をする。そう、“不死鳥の霊山”の情報をくれたのは他でもない、この天の声だ。


 先程天の声は、俺に『不死鳥の霊山へ向かえば死んだ人間を生き返らせるアイテムが手に入る』と教えてくれたのである。


 そう言えば、このゲームのタイトルは「フェニックス・ワールド」だ。タイトルにわざわざ “フェニックス”と冠しているのだから、このゲームにとって不死鳥はかなり重要な存在なのだろう。


「それじゃあ、早速向かいましょう。王都モルゲンから西に3時間も歩けば、不死鳥の霊山にたどり着きます」


「ああ、すぐに行こう。ロランさんの死体が第三者に発見される前に不死鳥の羽根で生き返らせて、罪を帳消しにするんだ」


 なんとしても、俺は無実にならなければならない。











 それから3時間、俺とリディアはひたすらに歩いて霊山へと向かった。


 途中でお腹が空いたので、道端に生えていた雑草を引っこ抜いてムシャムシャと食べたりもした。最初はかなり抵抗があった雑草だが、今となっては普通に食べられるようになっている。


 やはり、慣れと言うものは恐ろしい。


「着きました、ここが“不死鳥の霊山”です」


「よし……」


 俺達は、白い石で造られた鳥居のようなものの前に着いた。その先には木々に囲まれた坂道があり、この斜面を登っていけば不死鳥の住処まで行けそうだ。


「気を付けてください、アヘダブ様。聞いた話によると、この道の先には強力な守護者がいるらしいです」


「大丈夫だ、問題ない」


 そう言えば、リディアに“アヘダブ様”と呼ばれるのにもだいぶ慣れたな。


 “勇者アヘ顔ダブルピース”を略して“アヘダブ”なわけだが、なんだかお経みたいな響きで少し面白い。


 というわけで俺とリディアは、純白の鳥居をくぐって登山を開始した。











 30分後。雑草をムシャムシャとほおばりながら坂道を歩く俺たちの前に、“ソレ”は現れた。


「アヘダブ様……ムシャムシャ……あのモンスターが、先ほど言っていた“強力な守護者”です……モグモグ……」


 そう言いながら前方を指さすリディア。


「なんだ、ありゃあ……」


 俺は目を疑った。


 驚くべきことに、俺達の前には全長2メートルはありそうな巨大なカエルがいた。


 茶色い体色にぎょろりとした目がなんとも気味の悪い、大きな大きなガマガエルだ。


 漫画とかではよく忍者が忍法を使って大きなカエルを召喚したりするが、まさにそんなイメージ通りのカエルが目の前にいる。


「ここらへんじゃあ、ああいうデカいカエルって一般的なのか?」


 リディアは、雑草を咀嚼しながら首をブンブンと横に振った。


「そんなわけないじゃないですか……ムシャムシャ……」


 だよな。


 まあ、こんな緊迫した場面で雑草を食べ続けているリディアも普通ではないと思うが。


 ――と、その時。


 目の前の巨大ガエルが、いきなりあんぐりと口を開けた。


 さらに中からピンク色の太いムチのようなものが飛び出してくる。あれは“舌”だ。


 そしてその舌はビュン、という空を切り裂く音とともに素早く迫り、俺の右腕に激突した。






 バチィィンッッ!!






「いってぇぇぇ!!!」


 太くしなる鞭のような一撃をまともに受けた俺は、右腕を抑えながら地面に倒れた。痛みに悶えながらネイマールよろしく地面をゴロゴロと転がる。


 まあこの“痛み”もゲームが俺の脳にみせる幻覚なわけだが、それにしたって本当に痛い。ゲームなんだからもう少し軽い痛みでもいいだろ。


「だ、大丈夫ですかアヘダブ様!?」


「あ、ああ! 大丈夫だ!」


「任せてください、あのカエルは私が討伐してみせます!」


 リディアは威勢よく言い放ち、懐から剣を抜いた。


 だが。


「いや……その必要はない」


 俺は痛みに顔をゆがめながら、ゆっくりと立ち上がる。右腕を見てみると、赤くて太いミミズ腫れができていた。


 くそ、完全に腫れがひくまでに1日はかかりそうだな。


「そ、その必要はないってどういう意味ですか!?」


「ほら、見てみろよ」


 俺はそう言いながら目の前の巨大ガエルを左手で指さした。


 そこには、白目をむいて地面に倒れる巨大ガエルの姿があった。


「え……死んでる……?」


「ああ。さっきカエルが舌を使って俺の右腕に攻撃したとき、少しだけだが手のひらにも当たったんだ」


 俺の右の手のひらに触れた生物は、問答無用で命を失う。あまり検証していないので詳しくは分からない部分もあるが、たとえ一瞬しか触れていなくてもこの即死能力は発動するようだ。


「す、すごい……あの一瞬で、しかも攻撃をくらいながら即死魔法を発動させるなんて……流石は勇者アヘ顔ダブルピース様です! 一生ついて行きます!」


 リディアは、感激したような表情でそう言った。


 流石は“気軽に異世界チート転生が楽しめる”というコンセプトのもとで作られたゲームだ、手に入ったチート能力は本当にチート級だしヒロインはめちゃくちゃ褒めてくれる。

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