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第6話 「勇者アヘ顔ダブルピース、やらかす」

「着きましたよ、勇者アヘ顔ダブルピース様! ここが王都モルゲンです!」


「へえ、立派なところだなぁ……」


 俺は興奮に胸を躍らせながら、王都モルゲンの街並みを見渡した。


 情緒あふれる木造建築の家屋に、歩きやすく整備された石畳の通路。


 多くの人々や馬車が行き交い、活気づいた市場。


 白い女神像が配置された噴水広場や、色とりどりの出店の屋台。


 中世ヨーロッパ特有の異国感あふれる街並みが、俺の視界一杯に広がる。


「私も、ここに来るのは1年ぶりなので懐かしいです!」


「へぇ、そうなのか……お、あそこにある城はなんだ?」


 俺はそう言って、市場のずっと奥に見える巨大な建物を指さした。それは白いレンガを丁寧に積み上げて建造された、見事な宮殿であった。


「あれは、王都モルゲンの国王が住む宮殿です」


「なるほどな」


 まあ、今回の旅で行く事にはならないと思うが。


「それじゃあ早速、リディアのお父さんの友人に会いに行くか。えっと、その人の名前はなんだっけ?」


「ロランさんです」


「そうそう、ロランさんだ」


 レイルさんが言うところによると、歴史学者の旧友・ロランさんは市場から西にいった所にある集合住宅区に住んでいるらしい。


 俺とリディアは、異世界特有のよく分からない布や野菜が売られた屋台を眺めながら、目的の住宅区へと向かった。











「ここです、勇者アヘ顔ダブルピース様。ここにロランさんがいますよ」


 前方を指さしながら言うリディア。


 そこには、質素ながら頑丈なつくりをした木造建築の一軒家があった。中々(おもむき)があって良い家である。


「リディアは、ロランさんとは面識があるのか?」


「はい、何度か会ったことがありますよ」


「そうか、じゃあ先にリディアが挨拶をしてくれ」


「分かりました!」


 そして彼女は家の前に行き、ドアをトントンと2回叩いた。


「ロランさーん、いますか?」


 数秒後。扉がガチャリと空いて、中から1人の男性が出てきた。


 黒いローブに身を包んだ痩せ型の人物で、温厚そうな人相をしている。髪はきっちりと七三分けになっており、年齢は大体50ぐらいか。いかにも“学者”といった風貌だ。


「おお、リディアちゃんじゃないか! 久しぶりだね!」


 その男性――ロランさんは、笑顔でリディアとハグをした。


「お久しぶりです、ロランさん!」


「今日は一体何の用事でここに?」


 ロランさんが聞くと、リディアは俺のことを指さした。


「実は私は今、あちらにいらっしゃる勇者アヘ顔ダブルピース様と一緒に旅をしているんです」


「勇者……アヘ顔、ダブルピース……?」


 キョトンとした顔で首をかしげるロランさん。至極まっとうな反応だと思う。


 とりあえず俺は、彼に挨拶をすることにした。


「どうも初めまして、ロランさん。俺の名前は勇者アヘ顔ダブルピースです。職業は魔術師で、強い魔法の使い手となるために世界中を旅しています」


「おお、なるほどなるほど」


 相槌を打つように頷くロランさん。聞き上手だ。


「それで俺は先日、盗賊団のアジトでとある石板を手に入れたんです。その石板には謎の文字がたくさん書かれていたんですけど、リディアのお父さんによるとこれはドワーフの言語らしくて……」


「なるほど、それで歴史学者の私の所に来たというわけだね」


 流石は学者、理解が早い。


「とりあえず、私もちゃんと自己紹介をしておこう。私の名前はロラン、歴史学者だ。この王都モルゲンで古代言語について調査・研究を行っている」


 彼はそう言いながら、俺の方に歩み寄ってきた。そして温和な笑みを浮かべ、右手を差し出す。


「どうぞよろしくね」


 とても丁寧な対応をしてくれる人だな。こういうマナーをちゃんと心得ている人と会話をすると、とても気持ちが良い。


「どうも、よろしくお願いします」


 俺はにこりと笑って右手を出し、彼とがっしり握手をした。


 ――そう、“してしまった”。


「……あがっ!」


 その瞬間、ロランさんは短い叫び声をあげながらビクンと体を硬直させ、さらに白目をむいた。


「……あ」


 思わず呆けた声が出てしまう。


 そう、すっかり忘れていた。俺は、右手で触れた対象から問答無用で命を奪ってしまうのだ。


「……えーっと、ロランさん?」


 恐る恐る問いかけてみる。


 しかしロランさんは白目をむいたままだ。そしてガクリとうなだれると――右手を離して、ゆっくりと後ろに倒れた。











「どーーーーーするんですかアヘダブ様!」


「お、落ち着け!!!!!!!!!! 落ち着け!!!!!!!!!! 落ち着いてくれ!!!!!!!!!!」


 俺は半泣きで叫びながら、ロランさんの死体を担ぎ上げた。そしてとりあえず、彼の家に入る。中は結構雑多な感じになっていて、大量の研究資料の紙がテーブルの上に散らばっていた。


「と、ととととにかく……ロランさんの死体を、隠そう!!!!!!!!!!」


 俺はその場しのぎの解決策を提案する。


「だ、駄目ですよアヘダブ様! 罪をちゃんと償わないと……!」


 くそ、リディアの言う通りだ。俺は取り返しのつかないミスを犯してしまった。


 ゲームの中とは言え、無実で善良な一般市民を殺してしまったのだ。


 しかしまさか、俺の即死チート魔法がNPCにも発動するとは正直思っていなかった。普通、こういう即死魔法ってボス級のキャラとか戦闘に関係ないNPCとかには効かないもんだろ。


「おい! 天の声!」


『はい、なんでしょう』


 俺の脳内に無機質な女性の声がこだまする。


「俺の即死チート魔法って、一般市民にも発動するのか!?」


『当然です』


「クソゲーがッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」


 俺は自暴自棄になって叫んだ。


 そして今までの行動を振り返ってみる。レイルさんに謎の石板を手渡した時。レイルさんから報酬のお金を貰った時。リディアから雑草を受け取った時。


 これらの時は全部、幸運にも左手で相手に触れていた。本当にたまたまだ。だからレイルさんやリディアは、俺の即死チート魔法の効果を受けていない。


「アヘダブ様、一体誰としゃべっているんですか? まさか、人を殺してしまったショックで頭がおかしくなったんじゃ……!」


 口元を抑えながら言うリディア。違う、そうじゃないんだ。


『安心してください勇者アヘ顔ダブルピース様、このゲームに“ストーリー進行不能”という概念はありません。死んだ人間を生き返らせる方法がちゃんとあります』


「えっ、そうなのか!?」


 驚く俺。


「何がですか!?」


 驚くリディア。


「リディア、ちょっと静かにしていてくれ」


 くそ、天の声と会話をするのも一苦労だな。というかゲームなんだから、天の声との会話ぐらい周りに介入されないでできるようにしておけよ、開発。

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