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第4話 「勇者アヘ顔ダブルピース、謎の石板を手に入れる」

「す、すごい……」


 俺が襲い掛かってきた盗賊を瞬殺する様をみて、リディアは感嘆の声を上げた。


「勇者アヘ顔ダブルピース様……今の技は、一体……?」


「ん? ああ、今のは……そうだな、“即死魔法”ってやつだ」


「即死魔法……」


「そう。触れた相手から一瞬で命を奪うことができる」


 それを聞いたリディアが、目をキラキラと光らせる。


「凄すぎます、勇者アヘ顔ダブルピース様! まさか、そんな素晴らしい魔法が使えるだなんて!」


「お、おう。まあな」


 こう真正面から褒められると、中々恥ずかしいな。


 だが、即死魔法を使ってみて俺は少し心が痛んだ。


 いくらゲームの世界とは言え、テレビの画面越しに敵キャラを殺すのとはわけが違うのだ。この即死チートは、実際に相手に触れるリアルな感触がある。


 1人の人間が死んでいく様子を間近で見て、すがすがしい気持ちでいられるはずがない。相手が悪い盗賊であろうと、それは変わらないのだ。











 その後俺達は、洞窟の奥にある盗賊団のアジトに堂々と乗り込んだ。


 敵は4人。全員手にナイフを持って臨戦態勢だったが、もはや俺の敵ではなかった。俺は襲い掛かってくる盗賊たちにただそっと“触れる”だけで良かったのだから。


「さて、これで終わりか……」


 敵を全員倒し終わった俺は、死体を一か所にまとめた後にゆっくりと周りを見渡した。ここは洞窟の中でも一際広い空洞になっており、壁には松明が数本設置されているので明るい。隅には貧相な寝袋が6つと、リンゴや酒樽といった食糧の備蓄が置かれていた。


 やはり盗賊たちは、この場所で暮らしていたようだ。


 ……ん? 寝袋が6つ?


 おかしい。俺達がこの洞窟に入ってから遭遇した盗賊は、合計で5人だ。1人分多い。


 ――と、その時。


「アヘダブ様、後ろです!」


 リディアが早口で叫んできた。


「!?」


 俺は焦りながらバッと後ろを振り返る。


 そこには、今にもナイフを俺に投げつけようとする男がいた。どうやらこいつは、ずっと物陰に隠れてチャンスを伺っていたようだ。


「おら、しねぇぇぇ!!!」


 男は、野太い声をあげながらナイフを投げた。


 まずい、遠距離攻撃に対する対策は何もないぞ。


 すると俺と敵の間に、リディアが割って入ってきた。そして慣れた手つきで懐から剣を抜き、ナイフを弾き落とす。


「おお、やるな!」


 思わず声に出た。


 さらにリディアは一歩前に踏み込み、剣を構えつつ叫んだ。


「でやあぁぁ!!!」


「うおぉ!?」


 彼女は迷うことなく、敵の胸を剣で貫いた。ゲームの世界とは思えないほど血なまぐさい光景に、俺は目を背ける。


「はぁ……はぁ……危なかったですね、勇者アヘ顔ダブルピース様」


「あ、ああ……ありがとう、助けてくれて」


 華奢な体のリディアだが、剣を扱う技術はかなりのものらしい。


「さあ、早速盗まれたお金を探しましょう」


 リディアはポケットから布を取り出し、剣についた血をぬぐいながらそう言った。


「よし、そうだな。探そう」











 数分後。盗賊団のアジトを漁っていたリディアが唐突に声を上げた。


「勇者アヘ顔ダブルピース様! ありましたよ!」


「本当か?」


「はい、ここに!」


 リディアが指を差したのは、酒樽の隣に置かれていたきんちゃく袋であった。


 赤子ほどの大きさがある黄色い袋だ。


「中身は無事なのか?」


 俺が聞くと、彼女は袋を開けて中を調べた。そして満面の笑みで頷き、


「はい、大丈夫です!」


と答えた。よかった、これで一件落着だ。


「……ん?」


 その時、俺は“ある物”に気が付いた。きんちゃく袋の後ろに、なにやら大きな石板らしきものが置かれている。


「なあ、それは?」


 俺は指を差した。彼女も石板の存在に気付いたようだ。


「ん? これははたしてなんでしょう……?」


「怪しい石板だな」


 俺はその石板を手に取ってみた。


 横幅30センチ、縦の長さ40センチといった所だろうか。色は濃い茶色で、分厚く重い。


 表の面にはわけのわからない文字が黒いインクでびっしりと書き込まれており、非常に気味が悪かった。


「もしかしたら貴重なお宝かも知れません、持ち帰ってみましょう。お父さんなら何か知っているかも」


「そうだな」


 というわけで俺たちは、お金の入った袋と謎の石板を手に盗賊団のアジトを後にした。











 数時間後、俺とリディアは無事村の宿屋「ホワイトリバー」に到着した。


「リディア! 無事に帰ってきたか! 心配したぞ!」


 ドアを開け中に入ると、レイルさんが駆け足でやってきてリディアに抱き着いた。


「お、お父さん! やめてよ、勇者アヘ顔ダブルピース様の前で!」


「おお、すまんすまん」


 レイルさんは顔を赤らめながら娘から離れた。


「それで、お金の方は?」


「はい、ここに!」


 そう言ってお金の入ったきんちゃく袋を差し出すリディア。


「ああ、よかった……まさか、盗まれたお金が無事に戻って来るなんて……ありがとうな、リディア」


「お礼なら勇者アヘ顔ダブルピース様に言って。アヘダブ様、本当に凄かったのよ。武器を持った盗賊たちを、触っただけで瞬時に殺したんだから」


 それを聞いたレイルさんは目を丸くして驚いた。


「なんだって!? 触っただけで盗賊を!?」


 というか別に構わないんだけど、“アヘダブ様”っていう略し方で呼ばれるのはなんかきついな。


「勇者アヘ顔ダブルピース様、まさかあなたがそんなに凄いお方だったとは……」


 彼が尊敬のまなざしを俺に向けてきた。これで名前が“勇者アヘ顔ダブルピース”でさえなければ、それなりの優越感に浸ることができたんだろうな。


 なんでこんな名前にしてしまったんだ、俺は。

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