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第3話 「勇者アヘ顔ダブルピース、即死チートを得る」

 俺――勇者アヘ顔ダブルピースとリディアは、村を出てひたすら西へ歩き続けた。その間、俺はリディアに彼女自身のことについて色々と質問をした。


 それで分かったところによると、彼女はあの宿屋「ホワイトリバー」の一人娘で、年齢は22歳らしい。趣味は絵を描くこと。


 幼い頃に母親を病で無くし、それからは父親のレイルさんと2人で宿屋を切り盛りしてきたそうだ。


 ちなみにレイルさんからは護身術として剣の扱い方も一通り習っているので、ある程度なら戦えると言っていた。頼もしいかぎりである。


「見えてきました、あそこです」


 そう言って前方を指さすリディア。その先には、山の岩肌にぽっかりと口を開けた洞窟があった。


「きっとあそこに、宿の金を盗んだ盗賊団がいるはずです」


 今の彼女は、白いローブの上から赤いマントを羽織っていた。腰には鞘に納められた片手剣があり、いつでも臨戦態勢に入ることができる。


 しかし問題は俺の方だ。


 俺はまだこの世界で一度も戦ったことがない。どんな魔法を使えるのかも分からないのだ。


 と、その時。


 俺の脳内に直接、機械的な女性の声が響いてきた。そう、天の声だ。


『それでは勇者アヘ顔ダブルピース様には、今からチート能力を選んでいただきます』


 チート能力を……選ぶ?


『このゲームでは、3つのチート能力の中から1つを選んでいただくことができます。後から選び直すことはできないので、私の説明をよく聞いて、慎重に選んでください』


 なるほど、そういうシステムなのか。


 するとリディアが、立ち止まって考え込んでいた俺に話しかけてくる。


「勇者アヘ顔ダブルピース様? 行かないんですか?」


「え? ああ、ちょっと待っててくれ。ほら、心の準備とかあるじゃんか」


「は、はあ……」


 さて、一体どんなチート能力が用意されているのだろうか。


『まず1つ目は、“手から電撃が放てるようになる”というチート能力です。一見地味なようですが、電撃は攻撃の速度・威力共に高水準であり、低レベルのモンスターならものの数秒で倒すことができます』


 なるほど、電撃か。中々かっこいいじゃないか。


『次に2つ目のチート能力。これは、“無限に回復ポーションを生成できる”というものです。回復ポーションは街でも購入できますが、この能力があれば口から無限にポーション液を吐き出せるようになります。買い物の手間が省けますし、お金も節約できて便利です』


 いらねぇよ。確かに“無限ポーション”自体はチートだと思うけど、口から吐き出したくねぇよ。ダサいとか通り越してもはやグロいだろ。


『そして最後、3つ目のチート能力。これは“触れたものの命を一瞬で奪い取る、即死魔法が使えるようになる”というものです。このゲームにはレベルの概念があり、高ければ高いほど強くなります。が、この即死魔法があればレベルに関係なく振れた対象の命を奪います』


 ……クソゲーか?


 開発チームはあほなのか?


 ゲームバランス崩壊にもほどがあるだろ。他の2つの能力に比べても明らかに抜きんでて強いじゃないか、このチートは。


 間違いない、どう考えてもこの能力を取得すべきだ。


「よし、即死チートをくれ」


「え、なんですか?」


 リディアは首をかしげた。


「すまん、独り言だ」


 この天の声は、俺にしか聞こえていない。だから俺が天の声と会話すると、周りからは独り言をぶつぶつ言っていると思われるようだ。


 まあ、しょうがない。


『分かりました。それでは、あなたに即死チートを授けます』


 そして次の瞬間、“ピロリーン”と軽快な音楽が脳内に響き渡った。


 ……と言っても、体になにか変わりがあったわけではない。本当にこれで、即死チートを手に入れたのだろうか。


『今のあなたは、即死チート能力者です。右手で触れたものを問答無用で殺します』


 物騒だな。だがかなり強力だ。


 よし、これで戦う準備は整った。


「待たせたな、リディア。それじゃあ洞窟に入ろう」


「はい!」


 リディアは元気に頷いた。











 洞窟内は薄暗く、思ったよりも広々としていた。手に煌々と輝くランタンを持ったリディアが先導する形で、俺達は先に進んだ。


 どこに盗賊が隠れているのかわからないので、足音を立てないように慎重に歩く。


「リディア……盗賊団の大体の人数とか、分かっているのか?」


 俺は小さな声で尋ねた。すると彼女も小さな声で返してくる。


「正確には分かりません。ですが確実に、3人以上はいるはずです……」


 それにしてもこの洞窟、やけに通路が入り組んでいるな。おそらく盗賊団の奴らがアジトにするために掘り進めたんだろう。


 当然、そこら中にわなを仕掛けている可能性も高い。気を付けなくては。


 ――なんてことを考えていた、まさにその瞬間だった。


「キャッ!」


 前を歩いていたリディアが、足元に仕掛けられていた細くて白いワイヤーに足をからめとられ、転倒した。


 彼女の短い悲鳴と転倒音が、洞窟内にこだまする。


「おい、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です!」


 リディアはそう言いながら立ち上がった。


 まずいな。今の音で、確実に奥にいるであろう盗賊たちにばれてしまったはずだ。


 その時、後ろの通路から足音が聞こえてきた。


「!?」


 俺は慌てて振り向く。


 するとそこには、右手にナイフを持った筋骨隆々の男が立っていた。


「ククク、まずいところに足を踏み入れちまったみたいだなぁ……」


「お前……盗賊だな!」


「その通りだぜ! さあ、ここで死になぁ!」


 そう言うと盗賊の男はナイフを振り上げ、俺に向かってきた。


「来い!」


 さあ、この世界での初めての戦闘だ。俺は少し緊張しながらも腰を低く落とし、右手を突き出した。

そして“はっけい”の要領で、迫ってくる盗賊の胸にどすんと右手の平を当てる。


「……どうだ!?」


 右手で触れただけで敵が即死するなんてにわかには信じがたい話だが、本当にうまくいくのだろうか?


「……あがっ!」


 すると盗賊の男はその場でビクンと体を硬直させ、ぐるりと白目をむいた。大きく開かれた口元から、よだれが垂れる。


「え? アヘ顔?」


 思わず呆けた声が出てしまった。こいつ、俺が触れただけでいきなり絶頂してアヘりやがったぞ。どうなっているんだ?


 いや、違う。


 こいつ、まさか――






 ドサリ。






 盗賊の男は、ナイフを握りしめたままアヘ顔で地面に倒れた。


 そう、こいつはもう既に……死んでいる。


「す、すごい……」


 一部始終を目の当たりにしていたリディアが、感嘆の声を上げた。

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