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第18話 「勇者アヘ顔ダブルピースvs魔王軍十傑衆」

「いきますね……!」


 リディアは、目の前のまがまがしいオーラを放つ紫のバリアを見つめながら言った。その手には怪しく煌めく聖剣が握られており、彼女の表情は真剣そのものだ。


「ああ、頼む」


 このバリアは、魔王の住む城を丸ごと覆う巨大で強力な障壁だ。これがある限り俺達は先に進むことができない。


 それはすなわち、“ゲームをクリアできない”ということでもある。だからなんとしてもこのバリアを突破して、先にいる魔王を討伐しなくてはならない。


 そのために必要なのが、聖剣だ。高い技術力を誇るドワーフ族が作り上げたこの剣であれば、バリアを破壊できるらしい。


 その噂が真実なのかどうか、確かめる時が来た。


「それじゃあ……」


 慣れた手つきで剣を逆手に構えるリディア。そして腕を大きく振り上げた。


「えいっ!」






 ガキンッッッ!!!






 勢いよく腕を振り下ろし、バリアに聖剣を突き立てる。その瞬間金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が辺りに鳴り響き、鼓膜を震わせた。


 じわじわと、じわじわと剣がバリアを貫く。そのポイントを中心に微かな波紋が広がり、バリア全体に浸透していく。


 まさしく、壮観だった。


 天高く形成されたバリアが、徐々に揺らいで薄まっていく。


「すげぇ……」


 俺は感嘆の声を上げた。


「……!」


 顔に脂汗をにじませながら、剣を握りしめ続けるリディア。


 そして、永遠にも思えるような時間がついに終わりを告げた。






 ブオンッッ!!






 風が強く吹き抜けるような音がした。


 それと同時に、魔王城を覆う紫のバリアが、完全に消滅。跡形もなく消えたのだ。


「……やったな……」


 晴れ渡る青空と、無防備になった魔王城を眺めながら俺は言葉を絞り出す。


 それを聞いたリディアが、ゆっくりと首を縦に振った。


「やりましたね、勇者アヘ顔ダブルピース様」


 ついに、魔王と戦う時が来た。魔王さえ倒せば、俺はこのゲームの世界(フェニックスワールド)から抜け出せる。


「準備は良いか? リディア」


「はい!」


 リディアが元気よく返事をするのと同時に、眼前の魔王城の大扉がギギギ……と重々しい音を響かせながら開いた。


「どうしますかアヘダブ様? 扉が開きましたけど……罠かも知れません」


「かもな。ここは慎重に選ぶべきところだ」


 その時、俺の脳裏に天の声が聞こえてきた。


『勇者アヘ顔ダブルピース様。選択の時です。正面から堂々と入るか、あるいは回り道をして別の通路を探すか選択してください』


 なるほど、ゲーム定番のストーリー分岐か。面白くなってきた。


『正面から入った場合、待ち受ける強敵との戦闘は逃れられません。ですが、最も手っ取り早く魔王に近付けます。回り道をした場合強敵たちとの戦闘は避けられますが、かといって安全な道のりであるという保障はございません。どうしますか?』


 悩ましいところだ。だが俺には最強の即死チートが、リディアには聖剣がある。


 下手に回り道をして時間を食うより、正面から堂々と入った方が案外楽かもしれない。


「よし、正面から行くぞ」


「分かりました。アヘダブ様の決断ですから、私はそれに従います」


 そして俺とリディアは覚悟を決め、静かな足取りで城の中へと入っていった……。











 城の中に入ると、背後の大扉がひとりでに閉まった。どうやらもう後戻りはできないらしい。


 俺はとりあえず、目の前に広がる光景に集中する。


 城内は広々としたエントランスになっており、床に敷かれた深紅のじゅうたんや天井の華麗なシャンデリアが目を引いた。


 魔王城といえば荒廃した恐ろしい場所というイメージがあったが、むしろ真逆だ。ここは豪華絢爛で立派な城である。


『勇者アヘ顔ダブルピース様。魔王の城は、いわば“ボスラッシュ”のようなダンジョンになっています。現在あなたがいる場所が1階で、その上の2階~11階には、それぞれ1体ずつボスが待ち受けています。この総勢10体のボスたちは通称“十傑衆”と呼ばれ、ゲーム内でも屈指の高レベルモンスターです。心してお進みください』


 ちくしょう、ここにきてボスラッシュというわけか。こんなことなら回り道をするべきだったかもな。


 だが後悔していても何も始まらない。今はとにかく、ゲームクリアを目指して前に突き進むだけだ。


「いきましょう、アヘダブ様!」


「ああ!」


 俺は力強く頷き、リディアと共に上の階へと続く階段に足を踏み入れた。











 結論から言うと、この魔王城で待ち受けていた総勢10体のボスたち――通称“十傑衆”は、全員雑魚だった。


 俺の右手に宿った即死チート魔法で、驚くぐらいあっさりと倒せたのだ。


 しかも全員が鎧をまとったガイコツの姿をしており、違うのは鎧の色だけ……という引くほど大胆なキャラの使い回しをしてきた。


 最初のガイコツ騎士は赤の鎧、次のガイコツ騎士は青の鎧、といった感じだ。もう途中からどいつが何色の鎧だったか覚えていない。


 ちなみに攻撃モーションも全員一緒だった。そこまでしてボスラッシュダンジョンを作る必要はあったのだろうか。


 十傑衆というぐらいなのだから、あのゴーレムやサイボーグ四朗のように簡単には倒せないボスが出てくるのかと身構えていたのだが、とんだ拍子抜けである。


 ラストダンジョンだから開発もかなり息切れしていたのかもしれない。十傑衆たちとの戦いを終えた今、“ゲームを作るのってとても大変なんだろうな”という感想だけが俺の心に残った。


 というわけで俺とリディアは今、魔王城の最上階へとやって来ていた。


 目の前には豪華な装飾の施された白い大理石の廊下が長々と続いており、その先に木造の大きな扉が待ち構えている。


「間違いありません。あの扉の先からとてつもないほどの魔力を感じます。きっとあそこに、魔王がいますよ」


 眉間にしわをよせ、深刻な表情で言うリディア。


「よし、やっとここまで来たな。とっとと行くぞ」


 長かった。本当に長かった。この魔王さえ倒せば、念願のゲームクリアだ。


 俺達は黙々と大理石製の廊下を歩き、大扉の前へと到達した。


 そして俺はなんのためらいもなく、扉に手をかける。


 扉は思ったよりも軽く、あっさりと開いた。


 意を決して部屋の中に入ると……そこでは、魔王が部屋中央の玉座に座って待ちかまえていた。


「待ちわびたぞ、勇者よ……よくぞここまでたどり着いた! 我こそが魔王だ!」


 それは、若々しい少年の声であった。

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