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第17話 「勇者アヘ顔ダブルピース、魔王城へ」

「リディア! こうなったら聖剣を使おう!」


「はい!」


 俺の声にコクリと頷き、懐から勢いよく聖剣を引き抜くリディア。美しく磨き上げられた刀身が、太陽の日差しを反射して輝く。


「ム、そのツルギは……!」


 聖剣を見たサイボーグ四朗は、驚きに眉をひそめた。そうか、そういえば魔王軍の前で聖剣を使うのはこれが初めてだったな。


「オドロイタ、まさか聖剣をモッテいたとは……だが、オレはマケナイ!」


 彼はそう言って、リディア目がけて勢いよくタックルを仕掛けた。


「避けるんだ、リディア!」


 俺は思わず声を荒げた。それと同時に、彼女は横にジャンプして敵のタックルを躱す。


「ヤルナ……!」


 サイボーグ四朗はそう言うと素早く足を止め、方向転換してもう一度リディアにタックルした。


「くっ、キツイ……!」


 苦しげな表情で呟き、もう一度横に跳ぶリディア。ギリギリのところでなんとか攻撃は躱せたが、体力的に限界が近そうだ。


「リディア! 敵の弱点を狙うんだ!」


「はい!」


 リディアは頷き、聖剣を強く握りしめた。サイボーグ四朗はその名の通りサイボーグの肉体を持っており、俺の即死チート魔法は効かない。だから彼女の持つ聖剣だけが頼りだ。


「はぁっ!」


 リディアは素早い身のこなしで敵に近付くと、迷いのない動作で彼の胸をグサリと貫いた。


「ム……!」


 突然胸を刺され、驚いたような表情になるサイボーグ四朗。


「どうだ!?」


 いくらサイボーグとは言え、心臓を一突きされればひとたまりもないはずだ。


 俺がそう思いながら心の中でガッツポーズをした瞬間、四朗はニヤリと笑った。


「フフフ……無駄だ……」


「えっ!?」


 驚愕するリディア。すると彼女は急いで敵の胸から剣を引き抜き、後ろにジャンプした。


「ククククク……サイボーグとなったオレに、心臓はナイ……すなわち、オレに弱点はナイ!!」


 そんなのありかよ!


「リディア……オマエに、トドメをさしてヤル!!」


 彼はそう叫んで腰を低く落とし、アメフト選手のような構えをとった。


 そこから人間離れした凄まじい脚力で地面を蹴り、リディア目がけて猛烈な勢いで突進する。


「リディア、危ない!」


「……っ!」


 リディアは目を見開き、息をのんだ。


 とっさに後ろへさがろうとしたが――運悪く石につまずき、そのままバタリと転んでしまった。


「きゃあっ!」


「フハハハハ! これでジ・エンドだ!!」


「リディアーーー!!!」


 まあ場の流れで迫真の叫び声を上げたわけだが、冷静に考えてみればもしリディアがやられてももう一度フェニックスの女の子(ふぇにちゃん)の元へ行って、生き返らせてもらえばいいだけの話ではある。


 とはいえ、やはりここで彼女がやられてしまうのはまずい。俺1人だとこのサイボーグ野郎を倒せそうにないし。


 なんてことを色々と考えていると、事態は思わぬ方向に転んだ。


「――はうッッッ!!!」


 驚くべきことに、リディアまであと数センチというところまで迫ったところで、サイボーグ四朗はいきなり険しい顔になり足を止めた。


「……え?」


 俺が呆けた顔で状況をよく見てみると……四朗の股間に、“あるもの”が豪快にぶっ刺さっていた。


 それは、聖剣をおさめていた、鞘であった。


「ナン……ダト……!」


 リディアが石に(つまず)いて倒れたとき、腰に着けていた鞘が地面に刺さって止まった。そして大地に対して斜めに突き刺さっていたその鞘が、突進してくる四朗の股間に見事に直撃し、クリティカルダメージを与えたというわけだ。


「さ、サイボーグになっても、コカンはそのままナノダ……」


 彼は苦しそうにそう言うと、ヘナヘナと地面に崩れ落ちた。どうやら当分は起き上がれそうにそうにないらしい。


「や、やりましたね、勇者アヘ顔ダブルピース様……」


 少し困惑したような表情で言うリディア。


「お、おう……そうだな……」


 俺も苦虫を噛み潰したような顔で返した。


「……」


「……」


 股間を抑えてうずくまるサイボーグ四朗を見つめながら、終始無言になる俺とリディア。


 何はともあれ、これで魔王軍四天王は全員倒したことになる。


「……先へ、進むか」


「……はい」


 残るは、目の前にそびえ立つ魔王城の攻略のみだ。











 魔王軍四天王たちとのバトルを見事3話以内に収まるくらいのハイペースで終わらせた俺とリディアは、荒野を突き進んで遂に魔王城へとたどり着いた。


 中世ヨーロッパの立派な城をほうふつとさせる魔王の城は、しかし簡単に侵入することができないシステムになっている。


 理由は、城の周りを覆う巨大なバリアだ。紫色のまがまがしいオーラを放つこれが、魔王城に入らんとする者たちの行く手を阻む。


「おお、間近で見てみると中々面白いもんだな……!」


 俺は紫のバリアを見つめてポツリと呟いた。


 もしもこのバリアを、即死チートを持つ俺の右手で触れるとどうなるのだろうか?


 ……あまり試す気にはならない。


「さあ、勇者アヘ顔ダブルピース様! このバリアを突破しましょう!」


 美しい茶色の長髪を揺らしながら言うリディア。その顔は興奮からか赤く染まっていた。


「そうだな。突破しよう」


 俺がコクリと頷くと、彼女は腰の鞘からゆったりとした動作で聖剣を引き抜く。


 目の前のバリアが放つ紫の光を反射し、剣の刀身が怪しく(きら)めいた。魔王城のバリアを突破する唯一の方法が、この聖剣である。


「おお……!」


 聖剣の怪しい輝きに目を奪われた俺は、思わず息をのんだ。


 このゲームはシナリオ・システムその他諸々の点でクソゲーではあるのだが、グラフィックのクオリティは間違いなくピカイチだ。


 元号が「平成」から「異世界チート転生」に変わって数年たったが、近年のゲームグラフィックの発展は著しい。


 ……というか本当に今更だが、元号が「異世界チート転生」ってなんなんだよ。

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