第15話 「勇者アヘ顔ダブルピースvsD・T」
「俺の名はダークネス・タイガー! 略してD・T!! お前たちを殺す!!!」
ダークネス・タイガー……略してD・Tは、そう言ってファイティングポーズを取った。
「なんで俺達を殺すんだ? 俺達は何もしてないぞ」
「この森は魔王軍の敷地! 故に、ここに踏み込んだ者は1人として返さん!」
なるほど、だからこいつは俺達の前に現れたのか。
ということはどうやら、俺達が聖剣を手に入れたということはまだ知らないようだ。
「さあ、覚悟するがいい!」
そう言うとD・Tは、両腕のかぎづめを構えて素早く踏み込んできた。
「は、はやい!」
驚きの声を上げるリディア。
たしかに、奴の動きは今までのモンスターとはスピードも迫力も段違いだ。
やはり魔王軍の親衛隊に所属しているというだけはある。
……が、だからといってやることは変わらない。
「うるせえ!」
俺は右腕を振り上げ、迫ってくるD・Tの頬を思いっきりビンタした。
「ふぐぅっ!?」
情けない声を出すD・T。
そしてグルリと白目をむくと、そのまま力なく地面に倒れた。
「……え、終わりですか?」
「ああ、終わりだ」
なんともあっけない幕引きである。
こうして俺は、無事に魔王軍の親衛隊メンバーを倒した。
それから30分後。
森を抜けた俺とリディアは、今度は逆に草が少しも生えていない閑散とした荒野に出た。
「……なんか寂しい場所だな」
「そうですね。でも、あれを見てください」
そう言って前方を指さすリディア。
そこには、まがまがしい紫のオーラで覆われた大きな建物が見えた。
「もしかして……あれが魔王の城か?」
「はい、そうです」
コクリと勢いよく頷くリディア。
よし、とうとうここまで来たか。
長く面倒な道のりだったが、ゲームの終わりはもう目と鼻の先だ。
「よし、行こう!」
「はい!」
こうして俺達は、空っ風が吹く荒野のフィールドに足を踏み入れた。
――と、その時。
「まてまてーい!」
目の前に、茶色い肌をした豚面の魔物が姿を現した。
身長は2メートル程とかなりの巨体で、手には武骨な棍棒を握っている。
そう、こいつはRPG定番のモンスター、オークだ。
「俺の名はオーク一郎! 魔王軍四天王の1人!」
「オーク一郎……?」
どんな名前だよ。
「気を付けてくださいアヘダブ様! 魔王軍四天王と言えば、この世界のモンスターの中でもトップクラスの実力を持った存在ですよ!」
「そ、そうなのか……?」
そうは言われても、即死チートを持っているのでそこまで危機感みたいなものは感じないな。実際、さっきのD・Tとかいう奴も瞬殺だったし。
「油断してはいけません! こいつからは、さっきのD・Tなんかとは比べ物にならない程のパワーを感じます!」
「フハハハハ! 賢いお嬢ちゃんだ! 死にたくなければ、とっとと尻尾を巻いて逃げるんだなぁ!」
「そうはいかないぞ! 俺はアンタを倒して、魔王城に向かう!」
「だったら力づくでやってみろ!」
言うが早いか、オーク一郎は棍棒を振り上げて迫ってきた。
確かに、その動きはさっきのD・Tよりも速い。
……だが、どんな強敵が相手だろうと、やることは変わらない。
「うせろっ!」
バチーーーン!!!
俺は勢いよく、オーク一郎の頬をビンタした。
「ぐにょわぁ!?」
目を見開き、よく分からない喘ぎ声をあげる一郎。
そして――彼は、力なく地面に突っ伏した。
「……え、終わりですか?」
「ああ、終わりだ」
なんともあっけない幕引きである。
こうして俺は、無事に魔王軍四天王の1人目を倒した。
何もない荒野をひたすら突き進むこと5分。
またしても俺達の前に、謎の人影が現れた。
「待ちたまえ! 君たち!」
目の前に飛び出してきたのは――全長1.8メートルの半魚人であった。
じめっと湿った緑色の肌に、ぎょろりと飛び出した目玉と分厚い唇。
首元にはひれが、手には水かきがついている。
「うわっ、気持ちわるッ!」
俺は思わず本音を叫んでしまった。それを聞いた半魚人が憤る。
「いきなり気持ち悪いだと!? なんて失礼な奴だ! 俺の名はマーマン二郎! 誇り高き半魚人であり、魔王軍四天王の2人目!!」
顔を真っ赤にしながら名乗るマーマン二郎。
ちなみに“マーマン”は英語で半魚人を意味する。
「悪いが、君たちを魔王城に近づけさせるわけにはいかない! どうしても進みたいのであれば、この俺様を倒してから行くんだな!」
「どうやらやるしかないみたいです、アヘダブ様!」
「ああ、そうだな!」
俺はそう言ってファイティングポーズをとった。
それにしても半魚人なんかと戦うのは初めてだ。一体どんな攻撃を仕掛けてくるのだろうか。
「さあ、いくぞ!」
そしてマーマン二郎は、力強く大地を蹴って前に飛び出した。
――だが。
モタモタ……モタモタ……
その動きは、あまりにも鈍重だった。小学生でももっと早く走れるだろうというくらいだ。
「……は?」
「ま、待て! 俺は半魚人だから海では素早く動けるんだが、陸上じゃ上手く走れないんだ!」
スローモーションのような動きでこちらに迫りながら言う二郎。
「じゃあなんでここに居るんだよ」
「いや、だって魔王様に“ここでスタンバっておけ”って命令されたから仕方なく……」
「そこはしっかり反抗しておけよ」
「でも、ここで下手に反抗して“なんだこの半魚人、扱いづらいやつだな。命令なんだから大人しく従っておけよ”って思われるの嫌だし……」
「ナイーブかよ」
「しょうがないだろ! そもそも魔王城周辺に海とかないし! だから荒野でスタンバるしかないんだよ!」
魔王軍の四天王にも、色々と苦悩があるようだ。