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第14話 「勇者アヘ顔ダブルピース、聖剣を手に入れる」

 ガツン、という重厚な音が遺跡内に響き渡った。


 ゴーレムの胸の水晶に、リディアの剣が深く突き刺さる。


「やったか!?」


 俺は思わず、テンプレみたいなセリフを言ってしまった。こういう状況で「やったか!?」なんて発言してしまうと、なんやかんや敵が復活して逆転負けを喫するというのはフィクションではお決まりの展開だが――どうやら今回は、ちゃんと「やった」ようだ。


 雷のなるような轟音と共に、ゴーレムの体が勢いよくばらばらに爆ぜた。


「ふぅ……なんとか倒せたな」


 俺は辺りに散らばったゴーレムの破片を眺めながら呟く。


「さあ、とっとと次に進みましょう!」


 剣を鞘に納め、勇ましく言うリディア。


「ああ、そうだな」


 そして俺達は、遺跡の上へと続く螺旋階段に足を踏み入れた。


 おそらく、この先にも様々な罠が待ち受けているに違いない。


 気を引き締めなくては。











 結論から言うと、罠は何もなかった。


「着きましたね」


「……着いたな」


 俺達は、螺旋階段を上って最上階のフロアへと難なく到達したのだ。


 どうやらこの遺跡での戦闘は、あのゴーレムだけだったようである。なんとも拍子抜けだ。


「たぶん、あの中に入っているのが聖剣ですね」


 リディアは、フロア中央に堂々と置かれた巨大な宝箱を指さして言った。


「よし、早速開けてみるか!」


 俺は宝箱の元へ行くと、躊躇なくその蓋を開けた。もしかしたらこの宝箱自体が何かの罠かも知れない――ふと一瞬そんな考えがよぎったが、考えるだけ無駄だ。


 仮にこれがミミックのような魔物だったとしても、俺なら触れただけで倒せるので何の心配もいらないわけだし。


 箱を開けてみると、中には予想通り一本の剣が収められていた。


「あった、これか……キレイでかっこいいな」


 俺は、剣をゆっくりと拾い上げた。


 ずっしりと重いそれを両手で丁寧に掲げ、隅々まで観察してみる。


 年代物であることを感じさせる独特の装飾や金のグリップが目を引くが、ブレードは一切さび付いていないのでしっかり武器として機能しそうだ。


「やりましたね、アヘ顔ダブルピース様! 聖剣を手に入れました!」


「ああ、そうだな! それじゃあ……こいつはお前に預けるよ」


 俺はそう言って、左手でリディアに剣を渡した。彼女が呆けた顔をする。


「……え? なぜ私が?」


「なんでって……俺は魔術師なんだから、剣はいらないだろ」


 むしろ即死チートを持っている俺が剣なんか使ったら、弱体化してしまうぞ。


「そ、それもそうですね……それじゃあ遠慮なく……!」


 そう言って、リディアは聖剣を受け取った。そしてキラキラした瞳で剣を見つめる。


「凄い……これがドワーフ族の残した、聖なる剣なんですね……!」


「ああ、そうだ。そいつがあれば、魔王の城に入ることができるんだろ?」


「はい、そうです!」


 リディアは元気に頷いた。











 俺が今いるこのゲームの世界――すなわち“フェニックスワールド”の世界は、確かに凄いクオリティだ。ゲーマーにとってはまさに夢のような空間である。


 だが自由にゲームの世界から出られないとなると、話は別だ。


 だから俺としては、一刻も早くここから抜け出し、現実に戻りたいと思っている。


 というわけでドワーフの遺跡を出た俺達は、街に戻ることなく速攻で北の魔王城へ進み始めた。


 普通なら一旦街に戻り、装備の強化や回復アイテムの補充なんかをするところかもしれない。だが俺には右手の即死チートがある。


 これで魔王を倒し、一刻も早くこのゲームをクリアしてやるのだ。


 そんな野望を抱えながら道を歩いていると、目の前に薄暗い森が現れた。


「アヘダブ様。魔王の城へ向かうには、この森を突っ切るしかありません」


「そうなのか……なんか嫌な雰囲気の森だな」


 恐らく、この森も一種のダンジョンになっているのだろう。中には強力な魔物がうじゃうじゃと待ち構えているに違いない。


「大丈夫ですよアヘダブ様。今の私達には聖剣があります。これがあれば、低レベルの魔物なんて相手になりません!」


 リディアは自信満々にそう言って、腰の鞘に納められた聖剣を指さした。


「たしかに、それもそうだな」


 そう言えば、このゲームはRPGなのに明確なレベルの概念がない。


 以前コウテツモグラと戦った時に“こいつはかなりレベルの高いモンスターだな”と直感的に感じたことがあったが、とはいえ数字として可視化されているわけではないのだ。


 まあ即死チートを持っている現状からすれば、レベルにそこまで意味があるとは思えない。どんなに強いモンスターが相手でも、触れれば一発で倒せるわけだし。


「さあ、森に入りましょう」


「ああ」


 こうして俺とリディアは、薄暗い森に足を踏み入れた。通路は完全にけもの道になっていて足場が悪いので、細心の注意を払って進む必要がありそうだ。











 森を進み始めて、5分が過ぎた。


 ここまで魔物とは一度も出会っていない。だがどこまで行っても木、木、木。周りの景色が一切変わらないので、まっすぐ歩いているにもかかわらず本当に前に進めているのか不安になってきた。


「なあ、リディア……俺達ちゃんと前に進めてるのか?」


「どうなんでしょうね」


 リディアはポケットから雑草を取り出し、それをかじりながら適当に答えた。どんだけ雑草好きなんだよ。


「はぁ……足場は悪いし視界も悪いし、なんか歩いてるだけで嫌な気分になってくる森だな……」


 俺がそう言ってため息をついた、その瞬間。


「とぉーーーっ!!!」


 草むらから1人の男が飛び出し、目の前に現れた。


「!?」


 突然の不意打ちに驚いた俺は、息を詰まらせながら足を止めた。


「び、びっくりした……誰だよアンタ……」


 突如現れた男は、見るからに人間ではなかった。シルエット自体は人間のそれと同じだが、肌の色が紫なのだ。


 全身に銀の鎧をまとっており、目鼻立ちのくっきりとした整った顔立ちをしている。


 髪は緑のロングヘアーで、両手には鋼鉄製の鋭いかぎづめが装備されていた。


「俺の名はダークネス・タイガー! 略してD・T!! 魔王様の親衛隊に所属している者だ!!!」


 ダークネス・タイガー……略してD・Tは、そう言ってファイティングポーズを取った。


「気を付けてくださいアヘダブ様! この肌の色……こいつは魔族です!」


「お、おう……そうなのか……」


 そんなことよりも、俺としてはこいつの名前が“D・T”であるということの方が気になる。

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