第13話 「勇者アヘ顔ダブルピース、ゴーレムと戦う」
俺とリディアは王都モルゲンを出て、雑草を食べながら東へ向かった。
道中で野生のオオカミやスライムなどの雑魚モンスターと出くわしたが、どいつも右手でタッチするだけで死んだ。
そんなわけで3時間後。
俺達は、無事遺跡に到達した。
「ここか……」
ドワーフ族の遺跡を眺めながら、俺は呟く。
外観の第一印象は、小規模な塔といった感じだ。
オレンジ色のレンガを丁寧に積み上げて形作られた円筒形の建物で、全長は15メートル程と中々大きい。
「ドワーフ族の遺跡に来るのは初めてですけど、結構立派な建物ですね!」
「そうだな」
俺は頷いた。
この遺跡が何年前につくられたという設定なのかはわからないが、そこまでボロそうには見えない。
「よし、それじゃ中に入るか」
「はい!」
そして俺とリディアは、複雑な装飾が施された正面の大扉を開けて中へと入った。
いよいよ、このゲームの世界に来て初めての本格的なダンジョンだ。俺は心が躍った。
中に入ると、俺達の前に現れたのは広々としたエントランスであった。エントランス中央には瓦礫の山が積み上がっており、さらにその奥にはひたすら上へと続く螺旋階段が。
「どうやら、この螺旋階段を登っていくしかないみたいですね……」
眉間にしわを寄せながら言うリディア。
「うーん、そうみたいだな……」
かなりめんどくさそうだが、行くしかない。
そう思ってエントランスを進み始めた、まさにその時。
ゴゴゴ……!!
「……え?」
驚くべきことに、目の前の石の瓦礫が勝手にうごめき始めた。
石と石がこすれ合う、重々しい音が遺跡内にこだまする。
「な、なんだこれ……」
まるで石の一つ一つが意志を持っているかのように動き、集まり、形作り……そして気が付けば、先ほどまで瓦礫の山だったものが全長3メートル程の巨人へと姿を変えていた。
「驚きました……これは、ゴーレムです……!」
「ゴーレム……?」
俺が首をかしげるのと同時に、脳内にいつもの天の声が響いてきた。
『ゴーレムというのは、岩の体を持つ巨人のことです。特殊な魔法で活動しており、命というものを持っていません』
ゴーレム。これまたRPGでは定番の魔物だ。
「どうやら、この魔物を倒さないと先には行けないみたいだな……」
「やりましょう、アヘダブ様!」
リディアは威勢よくそう叫びながら、懐の剣を抜刀した。
「よし……やるか!」
言うが早いか、俺はバッと飛び出した。
全速力でゴーレムに近付き、そして――敵の左足に、ポンとタッチする。
「どうだ!?」
だが、これは完全に無駄な行動だった。ゴーレムは俺に触れられても一切活動を停止しない。
そしてやつは鈍重な動きで右腕を振り上げると、真下の俺目がけてパンチをはなってきた。
「うお!?」
俺はとっさに横へ跳び、ゴーレムの拳を避けた。
拳はそのまま床に激突し、激しい音と共に地面を揺らす。
「な、なんて威力だ……!」
俺は冷や汗をかきながら走り、ゴーレムと距離を取った。
あんな攻撃、当たったらひとたまりもない。
「やっぱり、あのゴーレムにアヘダブ様の魔法は効かないみたいですね……!」
リディアは、油断なく剣を構えながら呟いた。
そう。
先程天の声が教えてくれた通り、ゴーレムに命はない。あくまでも魔法の力で動いているだけの人形にすぎないのである。
恐らくドワーフ族の高度な魔法によって動いているのだろう。
「ど、どうすればいいんだ!?」
すると、再び天の声が俺の脳裏に響いてきた。
『ゴーレムの胸にある緑色の水晶が、力の源であり弱点でもあります。水晶を壊せばゴーレムは活動を停止します』
なるほど、これならいけそうだ。
俺は剣を構えるリディアに向かって、大声で叫んだ。
「リディア! 俺がゴーレムの気を引くから、その隙に敵の水晶を壊せ!」
「水晶……!? あの胸にある緑色の玉ですか!?」
「そうだ!」
「わかりました!」
コクリと頷くリディア。すかさず俺は駆け出し、ゴーレムの前に躍り出る。
「さあゴーレム! 俺に攻撃を当ててみろ! こいよ!」
すると敵は鈍重な動作で左腕を振り上げ、俺目がけてパンチしてきた。
「っ!」
反復横跳びの要領で右に跳び、ギリギリでゴーレムの拳を避ける。
当たるとダメージはデカそうだが、かなり動きが遅く予備動作も大きいので、避けること自体はそこまで難しくない。
「今だ、リディア!」
「はい!」
俺の背後でスタンバイしていたリディアが、一気に飛び出す。
そのまま軽快なステップでゴーレムに近付いていき、剣を振り上げながらぴょんと跳んだ。
彼女は陸上選手のような美しいジャンプのフォームでゴーレムに接近していき、そして――
ガツンッッッ!!!
ゴーレムの胸の水晶に、鋼鉄の剣を勢いよく突き立てた。