第11話 「勇者アヘ顔ダブルピース、生き返らせる」
鉱山での戦いを終えた後、俺とリディアは再び“不死鳥の霊山”を登った。
こうも急な坂道を何度も登ったり下りたりさせられるのは、かなりのストレスである。だが、残念ながらこのゲームにファストトラベルというものは無いらしい。やっぱりクソゲーだ。
「……あ、カエルの死体、まだありますね」
「本当だな。いつ消えるんだろ」
俺達は、通路にグデンと寝っ転がる巨大ガエルの死体を横切りながら話した。
この道を通るたびに巨大なカエルの死体を横切らなくてはならないと考えると、なんだか億劫になってしまう。
それからさらに数分後。純白の鳥居を抜け、俺達は“ふぇにちゃん”のいる場所に着いた。
「おお! はやかったのぅ!」
巫女服に身を包んだ彼女は、祠の隣で無邪気に手を振った。
「どうじゃ? ダイヤは手に入ったか?」
「はい、なんとか」
俺はそう言って、懐からダイヤの鉱石が詰まった袋を取り出す。
重量はおよそ0.5キロくらいだろうか。かなりずっしりとくるその袋を、俺はふぇにちゃんに差し出した。
もちろん、またロランさんのような事件があってはいけないので、“左手”で手渡す。
……いや、でもこのふぇにちゃんは不死鳥なんだから、俺の即死チートをくらっても死なないんじゃないか?
まあ流石に検証するつもりはないが。
「よしよし、ご苦労であった!」
ふぇにちゃんは満足気な表情で俺から袋を受け取った。
そして中身を確認し、満面の笑みで
「おおぉ! キラキラじゃ!」
と叫んだ。
とても1200歳とは思えないリアクションである。
「それではふぇにちゃん、約束の物をお願いします!」
リディアがそう言うと、ふぇにちゃんはダイヤのつまった袋を巫女服の懐に収める。
そして代わりにそこから、1枚の羽根を取り出した。
全長50センチはありそうな、大きくて赤い鳥の羽根だ。
「凄い、こんな大きな羽根見た事ないぞ……」
俺は思わず感嘆の声を上げた。
「これが、おぬしの求める“不死鳥の羽根”じゃ! まあ平たく言うと、わしの体から毟り取った羽根、ということになるな!」
そうは言うが、パッと見る限り彼女の体に赤い羽根が生えている部分はない。
するとふぇにちゃんは、俺の心を見透かしたかのように口を開いた。
「今の姿はわしの仮の姿じゃ。本来の体では、おぬしら人間と会話するには不向きじゃからな」
「なるほど」
そして俺は、彼女から念願の“不死鳥の羽根”を受け取った。
……もちろん、左手で。
「ありがとうございます、ふぇにちゃん。それじゃあ俺達は、街に帰ります」
「うむ! また来るがいいぞ! 勇者アヘ顔ダブルピースとリディアよ!」
「はい!」
リディアは元気に返事をした。
また間違って誰かを殺してしまったら、ここに来よう。
王都モルゲンに戻った俺達は、早速ロランさんの家に戻った。
研究資料の束に埋もれた彼の死体を発掘し、額に“不死鳥の羽根”をポンと置いた。
「頼むぞ、生き返ってくれ……!」
俺は祈るようにロランさんの死体を見つめる。
すると数秒後。
「……お?」
赤い羽根が、淡い光を放ち始めた。そして塵となり、さらさらと空気中に流れて消えていく。
一瞬何が起こったのかよく分からなかったが――その時、ロランさんがパチリと目を覚ました。
「……ん? ここは……?」
茫然とした表情で起き上がり、辺りを見渡す。
「……ど、どういうことだ……?」
「良かった! 目を覚ましたんですね!」
リディアはそう言いながら、笑顔で彼に歩み寄った。
「おお、リディアちゃん。えーっと……どうしてここに?」
「もう、何も覚えていないんですか? 昨日私とアヘ顔ダブルピース様とでロランさんの家を訪ねたら、いきなり倒れだすからびっくりしましたよ!」
「きっと連日の研究でお疲れだったんでしょうね。僕と握手をした途端、突然気を失ってしまったんですよ」
俺は平然とした顔で、リディアと事前に打ち合わせていた筋書きを彼に説明した。
「ああ、そうかそうか。思い出した……アヘ顔ダブルピース君と握手をしたら、気を失ってしまったんだ……」
まあ正確には死んでいたわけだが、ここは“連日の研究の疲れから眠ってしまった”ということで彼には納得してもらうとしよう。
数分後。完全に体調を回復したロランさんに、俺は早速例の石板を(もちろん左手で)渡した。
「ふむ……」
彼は神妙な面持ちでその石板を一通り眺めると、
「なるほど、これは確かに古代ドワーフの言語だね」
と言った。
「ちょっと待っていてくれ。今この石板になんと書かれているのか解読するよ」
「はい、お願いします」
ロランさんは早速、部屋の本棚から一冊の分厚い本を取り出した。どうやら古代ドワーフの言語について書いてある辞書のようなものらしい。
テーブルに座り、辞書をパラパラとめくりながらページと石板とを交互に見比べるロランさん。
そして、きっかり10分後。彼は少し興奮した面持ちで口を開いた。
「凄いぞ……この石板は、ただの石板じゃない! 伝説の聖剣を手に入れるための“鍵”なんだ……!」