第1話 「勇者アヘ顔ダブルピース、爆誕」
若干見切り発車な感じで連載をスタートしました。とりあえず第6話までは毎日投稿でやっていきます。
時は世紀末から十数年後、2019年!
“小説家になろう”という小説投稿サイトで人気になった異世界転生物は、今や日本全土を席巻するほどの一大ブームとなっており、老若男女皆がこういった作品に熱を上げていた!
この事態を真摯に受け止めた日本政府は、国を挙げて異世界転生のジャンルを支援することを決定!
まず手始めに、日本の年号を「平成」から「異世界チート転生」に変更した!
故に、2019年は「異世界チート転生元年」である!
更に日本の有名ゲーム会社に“気軽に異世界チート転生が楽しめるVRゲームを開発せよ”と命令!!
制作チームは一丸となってこのゲームの開発に取り組んだ!!!
そして時は経ち、3年後!!! 2022年!!!
ついに制作チームは、“気軽に異世界チート転生が楽しめるVRゲーム”の発売にこぎつけた! そのゲームの名は「フェニックス・ワールド」である!!!
さあ、全国のゲームを愛する者たちよ! 今すぐこのゲームを手に入れ、思う存分チートで暴れられる異世界に飛び込むのだ!
このゲームは完全にオフラインなので、他のプレイヤーに邪魔されたりすることはない!
自分のペースで好きに冒険を進め、ハーレムを築き、独裁国家を作ることができる!!
このゲームで、君も異世界チート転生者になろう!!!
自己紹介をしよう。俺の名前は「勇者アヘ顔ダブルピース」。
日本に住むごく普通の大学2年生だ。
そして俺は今日、新発売のゲーム「フェニックス・ワールド」を購入した。VRヘッドセットを装着し、ゲームを起動。
すると「名前を入力してください」と出てきたので、ふざけて「勇者アヘ顔ダブルピース」と入力した。そこまでは覚えている。
で、気が付くと俺は草原に立っていた。どこまでも続く青空に、心地よく肌を撫でる風。……そう、風。風を感じる。
これはおかしい。ゲームの技術は年々向上しているとはいえ、五感までゲーム世界とリンクしているだなんて、そんな話は聞いた事がない。
そして問題はまだある。
本当の名前が、思い出せない。
このフェニックス・ワールドというゲームを起動して、名前を「勇者アヘ顔ダブルピース」にしたことは鮮明に覚えている。
だが俺の本当の名前が何だったのか、全く思い出せないのである。
「……」
ふと俺は、自分の全身に目を向けてみた。
今の俺の恰好は、白いYシャツに青いジーパンと言うラフな格好だ。体型は中肉中背。顔は分からないが……まあゲームの世界なのだから、現実よりかはそれなりにかっこよくなっているはずだ。
それにしても中々奇妙な感覚である。心地よいそよ風や、草原のみずみずしく爽やかなにおいを感じることができるとは。
と、その時。
自分の脳裏に、突然声が響いた。
『フェニックス・ワールドの世界へようこそ。勇者アヘ顔ダブルピース様』
それは、機械的で無機質な女性の音声であった。
『私はこの世界のナビゲーターを務めさせていただきます、「天の声」です。よろしくお願いします』
なるほど、まんまだな。天の声か。
『この世界について何か知りたいことがあれば、何でもおっしゃってください』
「それじゃ質問なんだけど」
『なんでしょう?』
「自分の本当の名前が思い出せない。どうしてなんだ?」
早速俺は、最大の疑問をぶつけてみた。
『勇者アヘ顔ダブルピース様、このゲームは「異世界チート転生を楽しむ」というコンセプトのもとにつくられたゲームです。異世界チート転生を楽しむにおいて、“本当の名前”の記憶はロールプレイの邪魔でしかありません。ですから、ゲームプレイ中はそういった記憶は消去しております』
馬鹿なのか?
『ゲームを終えると記憶は元に戻ります』
「それじゃあ、ゲームの終え方を教えてくれ」
『このゲームは、途中で終えることができません。ゲームのメインシナリオをクリアすることでのみ、ゲームを終えることができます』
大馬鹿なのか?
このゲームの企画を考えたクリエイターと、企画を通した上層部。全員そろいもそろってもれなく大馬鹿なのか?
「え、じゃあリアルの俺の体は今どうなってるんだ?」
『ご安心ください。ぐっすりと眠っています』
全然安心ではないだろ。
「じゃあ、今の俺に五感があるのは、なんでなんだよ」
『あなたは今、一種の“催眠状態”なのです。あなたがこの世界でご飯を食べれば“美味しい”と感じますし、攻撃を受ければ“痛い”と感じます。しかしそれは全て、脳の錯覚です』
なんという事だ。科学の進化はここまで来ていたのか。
『とりあえずあなたは、この草原をまっすぐ歩き続けてください。数分もすると、小さな村が見えてくるはずです。その村の宿屋に入ると、メインクエストが進行します』
「そうか……」
混乱していても仕方がない。
とにかく俺は、歩き出すことにした。途中退室の認められていない狂気のRPG、フェニックス・ワールド。上等だ、やってやる。
こうして、勇者アヘ顔ダブルピースの冒険は始まった。