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私と背後霊  作者: 涼森花進
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どう見えてるの?

退職歴というものに翻弄されている親友が社会で感じたものは?

私はそれをどう見たのか、どう感じたのか。

各々の見方の違い。

何かが変だ……。

私がこの会社に入って半年。



「もう限界だ。」



私の思い描いていた理想とは大きく離れていた。何が社員思いだ、少数意見の尊重だ、社員一丸だ。そんな表だけの言葉なんてくそくらえだ。



「ダメだ。」


「やり直し。」


「君、ヤル気ある?」



日課であった上からの罵声。私みたいな新入社員の発案なんて真っ向から否定。確かに私の至らなさってのもあったのかもしれないが、だとしてもあれは酷すぎる。アドバイスの一つくらいくれてもいいじゃないか。あぁ、甘えてたんだ。



「あいつがか?」


「後から問題が起きなきゃいいな。」


「お色気作戦でも使ったのか?はははは。」



取引先との商談に成功した時はこうだった。



「私に望んでいるのは成功ではないんですか?」



そう聞きたかった。けどその時の私は無理矢理笑うことしか出来なかった。笑い声の中には同僚の姿もあった。空気を読んで笑っている様には見え無かった。むしろ嘲笑っているように見えた。資料を持つ私の手は、プレス機の様に、自分の成功を握り潰すかの様に硬くなっていた。


「あぁ、私の理想ってどこに行ってしまったんだろう。学生の頃から寝坊助だからって悪夢は見たくないよ。私は半年間も眠り続けていたくないよ。目覚めさせてよ。お願いだから。」


「ふふっ。」


「ははははははっ」


今でも聞こえてきそうな笑い声だ。



私の切な願いは彼らの笑い声によってパンドラの箱にしまわれてしまう。

希望とは何なのか。

絶望とは何なのか。

善とは何なのか。

悪とは何なのか。

私の切な願い、世の中の希望は箱の底にこびり付き、鍵のかかった箱からは出ることを許されない。

彼らの笑い声、世の中の悪と災いは拡散し雨となり

地上を潤し、生物を育み、生きることを許される。






んと、馬鹿げてるよね・・・。






会社でのストレスを発散する所は専ら親友の家だ。会社の仲間がいない私にとっても大切な存在だ。今思えばよく毎週の様に私の愚痴を聞いてくれていたなと思う。私なら今日は宇宙人と舞踏会に参加するとか言って逃げるだろう。むろん小学生でも使わな様なウソはつかないだろうが。この時の親友の家は私にとってのオアシスだったことに違いはない。そこにサソリを放って帰るのはおいておくことにする。大抵親友の家へ行く時はストレスの貯蓄タンクが満タンになっている。一週間で満タンになる様な容量の少ないのを買い換えればいいのだがそんな余裕があるはずもない。むしろ一週間で溢れさせる上司の口数を減らして欲しいものだ。


確かこの日もストレスがタンクから溢れ出して頭を侵食していた。夏の暑さが私の彼らに対する怒りよりおさまってきた頃だ。いや、暑い。単に私の怒りが基準値を超えているだけかもしれない。怒りで気温を上げているのか?そんなことがあるわけがない。本当は真昼間だからというのが正解だ。親友にご飯をご馳走になるがために、いつもこの時間に尋ねる。オアシスの水まで飲み干して行くのだから親友にしてみればサソリとラクダが一遍に部屋にはいいてくるのだから、迷惑なのは言うまでもない。こういうことが出来るのも親友だからだよ!そう割り切っていた。



「ほんっっっっとにムカつくんだよ。」



私の愚痴物語はいつもこのセリフからと決まっていた。勢い余って米粒が口から二、三粒と鮭フレークが息を吹き返して飛び出していく。親友はお決まりのパターンがきたと言わんばかりの表情をみせ、左の頬をピクピクさせる。これもお決まりのパターンだ。そしておかずに手を伸ばしながら言う。


「その会社辞めて新しい所探したら?仕事見つかってない私がいうのも何だけど・・」


「辞めてやろうかなあんな会社。半年だし、20代ならまだまだ仕事見つかるよね?う〜ん、とっても悩む。就職で1〜2年ダブることだってザラにあるみたいだしね。」


会社ではあの有様だか親友の前での私はこんな感じなのである。親友は大学卒業後就職に失敗のでこの一年にかけているらしい。そんな時に邪魔をしにきている私をとやかく言わないのが親友とはいえ不思議だった。社会について色々聞かせてもらってるから、と親友は言うのだが果たしてアドバイスになっているのかと不安なのは私だけなのだろうか。悪い一面だけを見せているのではと私ながら考えたこともあったという事実だけは伝えておく。だがその様な考えはものの数分で消えてしまった。と言うより親友が羨ましかった。



〜こんなことならいっそ失敗してたほうが良かったのかな〜



「とりあえず就職」という考えであの会社に入社した私に問いかける。そんな簡単に答えが出てくるのなら悩みなんかせず辞職願を出すているはずだ。だが会社員というものにしがみついていたい自分もいる。むしろ自分より見かけにこだわっていたいのだろうか。


「新入社員とか、若いOLさんとか見てたら何やってるんだろ自分ってなるよね。立派な会社員だもんね。」


親友は子猫の柄のマグを両手で持って言う。果たして親友は私の本当の姿を見て言えるのか気になった。マグから立つ湯気が親友の心の不安を表している様でならなかった。私のマグから湯気は立っていなかった。私が家から持ち込んだユニオンジャックの柄のマグだ。いつも親友がいれてくれるルイボスティーに似合うと言って家に置いてもらっている。決してその柄が好きというわけではなく、ルイボスティーが外国っぽいという感じで選んだだけだ。実際入れてみるとしっくりくるので気に入っている。私はこの暑さなら冷たい麦茶をガブガブ飲みたい性分のだが、親友は熱い方が良いとこればかりは譲らなかった。意見をそこまで押し通すことは滅多にないので理由を聞いたのだがはっきりしなかった。


「会社員なんて色々だよ?」


私なんて・・・・そう続けようとしたが声にならなかった。


「社会人として社会に貢献してるんなら立派だよ。誰だってそうだよ。もちろん・・・」


そう言って私を見てたらニタっとする。普段感情を表に出さないので少し不気味に思えた。


「そう?社会に貢献かぁ〜!そう言われればかっこいいなぁ〜。」


親友の言葉に殴られた私の声はメゾピアノがついているかの様だった。まるで会社での私の様な話し方だった。とても変な感覚だった。デジャヴとジャメヴが同時に起こった様な感覚だった。親友の前では素の私が出てくる・・・。



〜あれ??なんか変な気がする・・〜



「がんばろ〜ってなるよ。社会を違った目線で見れるんだろうなぁ〜。羨ましいよ。」


親友の目が全てを見通している様で怖かった。私は急いでご飯をかき込んで食器を持って台所へ行こうと立ち上がった。


「さてと。」


話を切ろうと必死だった。これ以上この話を続けてはいけない、そう感じた。それは警告の様で自己弁護でもあった。


「あっ、そのままでいいのに。ていうかいつもそのままなのに・・・。大丈夫?」


「たまにはね〜。」


ありがとう、そう言ってクルっと机に向かい直って、食事に戻った親友の背中に笑われた気がした。








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