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煩悩な日々  作者:
3/6

決まりごと

「ゆうちゃん、おはよう!」



通勤通学ラッシュで人が多いこの時間帯の駅の改札。

この駅は特にこの国でも五指に入る乗降客の多さだから、うまく場所を選んで立っていないともみくちゃにされてしまう。


朝から憂鬱な顔をしている人たちばかりだが、今かけよってくる俺の彼女の笑顔は今日も弾けんばかりだ。

きっと、俺の顔もにやけてしまりがないに違いない。



「おまたせ!来てくれてありがとね」

「いやいや、俺はじんわり幸せを噛みしめているから気にしないでくれ。毎日でもいいくらいだ」

「だめだめ!週一回の約束だよ」



そう、俺と彼女の間には決まりごとがある。


ひとつ、週一回、手作り弁当

ひとつ、週一回、一緒に登校

ひとつ、週一回、一緒に下校

ひとつ、月一回、デートする



俺と彼女は冷めているわけではない。むしろ熱々だ。



ではなぜこんな決まりごとがあるのかというと、俺の彼女は真面目で優等生でそこも可愛い、ということなのだ。



勉強はもちろん、部活、委員会、行事のクラス参加。

これらのことに手を抜いたら、絶対後々後悔する。

そして、その後悔をお互いのせいにはしたくない。


ずっとゆうちゃんといたいから。

だから、お互いの私生活を大事にする。



そう宣言した彼女を誰が責めるだろうか、いや誰も責めない。


それって二股かけられてんじゃねえの?なんて抜かしたヤツは軽く投げておいた。


実際問題俺も彼女も部活で忙しいし、なんと彼女は兼部ならぬ兼委員会をしている。

あと、一応進学校なので勉強もそれなりに大変だし。





「ゆうちゃん、英単語の問題だして!」



回想に浸っていると、目の前に開いたテキストが差し出されていた。

それを受け取ろうとすると、電車がちょうどカーブに入ったのか、グラリと揺れる。


その揺れにバランスを崩した彼女の腰をとっさに抱き寄せると、俺より頭ひとつ分小さい彼女はスッポリと腕の中に収まった。



「ゆ、ゆゆゆうちゃん、ごめんね、ありがとう!」



顔を真っ赤にして慌ててつり革を掴みなおす彼女を愛でたいのもそこそこに、彼女が落とした単語帳をサッと視線で探して拾う。


彼女のスカートは短い。

無防備にこんなところで屈ませて、野郎共の視線にさらしたくはないのだ。



「10課のとこだったっけ」

「うん!和訳英訳まぜこぜでお願いします!」



まだほんのり赤い顔を手でパタパタあおぎつつも、俺から出される問題に真剣に答えていく。



「おお、全問正解」

「わーい、やったね」


えらいえらい、と頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。

彼女の髪はサラサラで撫で心地がよく、いつまでも触っていたくなる。しかも、シャンプーだろうか、良い匂いがするからたまらない。



「このまま連れ去りたくなっちゃうなあ」

「だめよう、せっかく勉強したんだから小テスト受けないと!」

「それもそうだ」




最寄りの駅に着いて電車を降りると、学校まで少し歩く。

裏道に入ればほとんど人がおらず、ちょっとしたデートのような気分だ。


デートは月一回という決まりは、あってなきがごとしである。俺にとって彼女と一緒なら、いつでもどこでもどんなに短時間でもデートみたいなものだ。



学校が見えてきたところで、彼女が口を尖らせて言う。


「暁ばかり憂きものはなし、だー」

「若干ちがくないか?」

「いいの、別れが辛いってことだから」



俺と彼女にとっては、ただの登校だって週に一回の大事な逢瀬イベントである。



付き合いはじめて一年たってもそんな風に思えるのはきっとあの決まりごとのお陰で。

やっぱり俺の彼女は今日も可愛い。

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