最後の王者ー悪魔編ー
ヒールタウンが悪魔に支配されていなかったら一体、どれ程の被害が及んだのだろう。
陸海空の衝撃によって大津波を起こしありとあらゆる物をこれでもかというぐらいに、ぶち壊していった。
当時のヒールタウンの人口は大陸全土でも合計1万人に満たなかったと言われている。
それほどまでに悪魔の支配は強かった。
そのカリスマ性でヒールの地をほぼ全て纏めあげたサタンの功績は敵ながらにして、歴史的に語り継がれている。
そうして現在の人々の心を知らず知らず蝕んでいった。
「この世は悪魔にとり憑かれた」
新たな海となった総督はしかし、先代の力を使えるようには恐らく決してないだろう。
それは当然だった。
何かを誰かが支配するとは、一朝一夕にいくはずがない。
何年、何十年かけてユピテル、ネプチューンは海や陸を支配したのだ。
そして完全に極めた紋章の力は恐ろしく強い。
ユピテルの場合は相手が悪かった。
接近戦が得意なユピテルにとって、総督はどちらでも(接近・遠距離)対応出来る力を持っていたからだ。
逆にネプチューンは相性は良かったものの、本来の力の10分の1以下の力でしか対応出来ない程、初めから弱っていた。
しかし、悪魔は違う。
冥界の民に「老い」と「衰え」という言葉は存在しない。
無論相性の有無あるが、悪魔の技は人間には到底真似できない異世界のモノだ。
生命力や身体能力も並大抵のものではない。
まさに「悪魔」だ。
総督が足を踏み入れた途端に広がる大地は、四方八方至る所に人知を越えた姿をしたものがいた。
冷静だった。
いたって冷静に、その本物の化け物を見つめていた。
町の雰囲気も欠片もない。
まるで最初からそうであったかのように、ここには建物の一つもない。
大地の一点張りだ。
実に見晴らしが良い。
「なんだぁ!てめぇ……」
鼻の長い男が数人現れた。
色は赤い、高下駄をはき葉をぶら下げている。
総督は問答無用に拳を構えて手前の男に拳打をお見舞いしてやった。
ドンッ‼
鈍い音が響き、仲間が一人倒れるのを見ると他の奴等が、武器であろう、葉を片手に思いきり振るう。
「てめぇ‼いきなり何しやがる‼」
「おめえらやっちまえぇ‼」
ブォォォン‼
即座に風の刃が総督を襲う。
だが避けようとはせず、ただひたすらに前にいる敵だけを拳で叩いていく。
総督には分かっていた。
空の紋章の持ち主の在処を、紋章の共鳴により体が勝手に反応していく。
他にも色々な悪魔が総督を襲っているが、そのほとんどを拳の一撃で切り裂いていく。
いたって冷静にいた。
こんな感覚はどこかで覚えがある。
自分が初めて王になったあの日。
両親が亡くなった時、家を飛び出しまだ見ぬどこかの海の果て、孤高の島に辿り着きそして、「王になった」
記憶はもうほとんどない。
だが、あの時に感じた妙に冷静だった自分を、今肌で感じている。
瞳の色は濃い緑色だが、その冷静な感情にいって、奇妙な静けさがあった。
最後の王者。
最強の悪魔。
二つの異名を持つ、空の紋章は冥界の象徴のようなものだ。
そこで生まれ育ったサタンとは一体何者なのか。
いや、今までも相手が何者かという事を知らずにいた。
長年戦ってきたユピテルでさえその真の素性を知らずにいた。
ネプチューンなど、最後の最後で名前だけ知っている程度で他の事など全くの無知。
しかし、だからこそ知りたかった。
サタンとは一体何者なのか、と。
総督が冷静である理由は相手を「知る」事につきているからだ。
その為に今は、重剣山越を抜かず、己の拳のみで前進する。
雑魚に興味は無かった。
迫ってくる悪魔。
天狗、吸血鬼、フランケン、狼男、その他にも悪鬼や堕天使もいる。
よくもこれ程多種類の悪魔を集めたものだ。
数は数え切れない程いる。
ユピテル率いる「武集」、ネプチューンの部下「シャーク一族」と「バハムート」、「リヴァイアサン」
そのどれもを上回る程の悪魔の軍団が、総督をいつまでも襲っていく。
休む暇もなく、悪魔どもが自身の得意とする技で応戦するも、総督にはこれといった一打にはならなかった。
息も乱さずただひたすらに、前へ進む総督の後ろ姿は悪魔でも息を呑む程の、異様な恐怖を覚えさせている。
荒れた大地で見晴らしが良い。
真っ直ぐ進むにはこれ程良い土地柄は無いだろう。
草木一本映えてはいない。
悪魔の入り口であろう、星形の建物が遠目に見える。
勿論正面から星形とは分からないが、直感でそうだと感じた。
そこは、2000年の歴史がある世界最強を決める大会。
「クライム・エンド・ファイト」のクライム会場があるだけだ。
まだまだクライム会場には遠い。




