迷走と決断
東の果ての海に行く前に、剣山家が直ぐ近くにある。
皆、無事でいるだろうか?
捨てた家を心配するほど、総督は迷いがあった。
自分は果たして、これでいいのか?
一体、「剣山総督」という存在はなんなのか?
たった12年後に老衰で死ぬ。
何とも短い人生であろうか。
「……………」
海の王者ネプチューンと戦う直前の気持ちを、総督は後世に伝える為、日々書いていた日記に赤裸々に書き記していた。
「私は、妻を愛している。同時に剣山も愛している。敵である龍牙の血筋をほぼ根絶やしてしまった罪を償う為に、家を出、故郷を捨て、師を殺めた。
だが私は今、いや、これからも、罪を償い続けるだろうが、終わりはない。
陸の王者となり、海の王者にもなり、空の王者ともなった先にその答えは恐らくない。
戦いを求め戦いで死ぬ事を幼い時より強く望んでいた。
しかし、それなのに、私は妻ゲーラの未来と、剣山の未来とを重ね、後悔している。
継ぐ世代の者達にはどうか、私の想いは届かないで欲しいと思う。
私ほど[武神]であるものはいないのだから。」
崖が見えた時、先のシャークとは比べ物にならない数の鮫がうろついていた。
モルス、ミデア、ラージシャーク達総勢5000匹はいる。
完全に鮫の名残がある小柄なモルスシャーク、鼻が奇妙に長く見えるのは鮫の口を表している。
鱗が一枚一枚、遠くからでも分かる程の巨大な鱗があり、鮫の顔はしていないがそれでも人と呼ぶには程遠い奇妙さを兼ね備えているミデアシャークは、モルスより、一回りほど大きい体躯の持ち主だ。
ラージシャークは、一族の長ながらにして五年に一度必ず産まれるので族長とは名ばかりの武装集団のようなものだ。
モルス、ミデアよりも巨大で鱗も細かくだが、鋭く硬い、姿はより人間に近く鮫の目を持ち暗闇でも光を感じる事が出きる。
シャーク一族は其々に名前がなく、大きさや姿形によって名前を分けている。
小さければモルス、モルスより大きければミデア、ミデアより大きければラージ、と呼び名が変わってくるのだ。
紋章の力により、全身が緑色に染まっている総督は、しかし、目の前にいるシャーク一族と相手をしようとは思わなかった。
総督が相手にしているのは、部下ではなく、主だ。
海の王者さえ、叩ければそれ以外は関係ない。
それでも多少の犠牲は仕方無いかもしれない。
だが目を閉じれば分かる。
ネプチューンの居所が。
しかし、海の底から現れたのは、ネプチューンではなく伝説の二頭の魔物だった。
ー青い怪物青い魔物ー
ふいにノストルドムの予言が頭をよぎる。
青い怪物は目の前にいる5000ものネプチューンの部下。
青い魔物はその後ろにいる、巨大過ぎる二頭の伝説。
「リヴァイアサン」と「バハムート」だった。




