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Zero[外伝]  作者: 山名シン
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プロローグ~武神の誕生~

剣山総督は子供の頃の記憶がない。


生まれた頃の話。総督は武神の生まれ変わりとして一族間で崇められていた。


総督が生まれる時、剣山一族には伝統の儀式があった。

それは将来その子がどういう人生を辿るのか、一種の占いだ。

筆、林檎、剣、金、本、と五つの物を赤ん坊に選んでもらい、始めに触った物がその子の人生を決める事になる。

筆を取れば、その子は学問に優れた子になる。

林檎を取れば、その子は食べ物に困る事はなくなる。

剣を取れば、その子はあらゆる武道を極め英雄になれる。

金を取れば、その子は裕福になり権力を握るようになる。

本を取れば、その子は学者になり教育者として成功する。

この様な占いの結果、一族結成以来初、総督は剣を選んだ事により、武神として崇められていた。


赤ん坊の総督が剣を手に取り、遊びの範疇でその剣を投げた。

投げた先に世話係りに来ていた女に当り、その女が死んだ。

普通ならそこで総督は処罰が下ったのかもしれない、が、総督の両親は一族の長でもあり、当時の全責任者であった。

そして剣山一族を作った当事者の1人でもあった為に処罰されずに済んだ、と言われている。


総督は一歳になり、大人達がやる武道の全てを一年間見ていた。

二歳になった頃、聞き語りで武道の基本を教わった。

三歳の頃に総督は剣道、空手、柔道、等々その他十数種類の武道を習い始めた。

そして、四歳になったある日、総督にとって初めて人を殺したのである(実際にはこれで二人目)。

武道の練習中に30年、歳の離れた者を殺した。

その男は戦争経験者で今までに数多くの危機を乗り越えた英雄だったが、たった四つの総督には敵わなかった。


総督に武道を教えていたのは、(りゅう)という男だった。

劉は当時は友好関係にあった龍牙家の者。

年は14。初代龍神の継承者でもある、あらゆる武道の達人。総督と出会ったのは、総督がまだ赤ん坊の頃だった。総督の父に世話係りとして新たに任命されていた(始めは女が選ばれたが例により殺された)。


総督は(りゅう)を尊敬し師匠と呼んでいた。

劉も総督の事を教え子として、そして武神として育てあげる為に全身全霊で総督を鍛え上げる。


総督が7歳の時に事件が起きた。

龍牙一族の長が剣山一族に仕えている龍牙の者を返せと言ってきたのだった。


「今すぐ龍牙を返さないと無警告で剣山を討つ」と警告してきた。

当時の龍牙一族、族長、阿呆(アポ)が言ってきた。

世に言う「阿呆の警告」である。

これに呆れた剣山は、この機に龍牙を討ち取ろうとするのである。

剣山と龍牙の初の戦争だ「阿呆合戦」。

勿論軍配は剣山に上がった。

しかし剣山は龍牙を討つ事はしなかった。

昔のよしみの様なものだ。

元々剣山と龍牙は友好的に振る舞ってきた、多くの死者を出してしまったが、代わりに今いる龍牙の者を一族に返してあげた。


この時初めて戦場に出た総督は初とは思えない程の成果をあげた。

大人達よりも成績が良かった。回りからはこう呼ばれていた。


「小さな鬼神」


約3日程で終わった戦争だが、それだけで十分名前を売るのに都合が良かったのだ。


3年後、総督10歳。劉24歳。

既に数々の戦争、戦闘を繰り返し、本来なら異例の元服の儀式が行われた。総督は大人として認められ、さらに過酷な戦にも参加していた。


ある日、劉は総督に卒業試験を言い張った。元服を終え、半年以上経った日だった。総督は劉と闘い、勝利した。

いや、勝利へと導かれたと言う方が正しいが 、無事に試験には合格し総督は一人立ちしようとした。


その直後に両親が死んだ。


総督は一族を飛び出し海を越え、ある島に上陸した。その島は現在に至るまで、その存在すら知られておらず、所在もはっきりしない伝説の様な島だった。

総督の日記によると、そこはあらゆる動物や鳥、生物は勿論その雌雄が対になり、生息していた。

現在では確認出来ない幻の生物も存在した。


ここで総督は五年間棲む。人間は勿論いない。全てが野生の世界。


そんな島に総督が上陸し、直ぐ、猿と出会った。

猿といっても現在確認出来る一般的な猿ではない。1mにもみたないが、頑丈で丈夫な肉体を持ち強いて言えばゴリラが近い。


総督の日記に何故かその猿の気持ちが描かれていた。


「猿は思っただろう、私を見て、この世の者とは思えない何かに驚嘆したはずだ。その何かは言葉では言い表せない。その猿はどこで覚えたかは知らぬ。私を見て、土下座した」


それから一年も満たずに、総督はその島の王になった。


五年後、総督が15歳の時。島の生き物は皆、植物でさえも「死んだ」。


岸辺に出たときに気付いた。自分の船がある。この船でここまでやってきたのだと、総督は思い出した。しかし気付いた時には全てが遅かったらしい。

全てが遅かったというのは、恐らく、総督自身も分からない。


この空白の五年間だけが、総督にとって何も無い虚無の世界だったに違いない、どう生きたかは現在の学者にもまだ判明してない。


それから総督は剣山一族へ戻り、今に至る剣山のシステムの全てを作り、総督が初代剣山家当主となる。


総督不在の五年間に剣山一族と龍牙一族では友好関係は途絶え、互いに憎しみ合う、敵となった。そして、奴隷として捕虜になってしまった剣山の者2万6千人を龍牙に奪われていた。その者達の優秀な奴だけ一年に一度、家族に手紙を書くことを許されていた。


その手紙を総督が見て憤怒に溺れた。怒りで狂いそうになり何度死にかけたか分からない。だが冷静さを欠いて龍牙に突っ込めば、無駄死にしてしまう。


総督はまず、兵力を確保するために他の諸一族をねじ伏せ服従させて徐々に剣山家の総力をあげていった。

しかしその戦力を使ったのは龍牙打倒の為ではなく、あくまでも剣山家の勢力をあげるににすぎなかった。


三年後、総督18歳の時に今まで集めた全戦力で龍牙に出向いた。


「剣龍合戦第一戦」

その勝負は意外にもあっさり終結してしまった。龍牙は元々自分達が至高の種族だと信じており、回りの傘下はただの、ついで、である。

剣山は征服していった諸一族を洗脳の様に剣山に服従させ打倒龍牙を徹底的に教え込んだ。

つまり士気の差の勝利とでも言おうか。圧倒的に龍牙家の方が兵力は上だったにも関わらず、あっさり負けたのだ。

一説には27万対3万5千とも云われ、また一説には50万8千対6万とも云われた「剣龍合戦」は、剣山の圧勝に終わった。


龍牙に奴隷として働かされた剣山の者達は無事に全員(これは奇跡とも言えよう)救出され、総督を讃えた。


しかし、総督の怒りはこれで収まらなかった。


二年後、総督20歳。この年を持って総督は剣山家を出ていく事になる。


総督は完全に龍牙を滅ぼす為、最後の戦いを始める。


龍牙の純血の兵隊3500人をたった1人で皆殺しにしたのだ。戦力では龍牙はたったの3500人しかいないのだ。それでも屈強の戦士達である龍牙の血統は強い。皆が皆、1人で10人分の働きをする。


龍牙の戦士は総督を嘲笑った。

それから12時間休みなく総督は1人ずつ龍牙の者を殺していった。人智を越えた戦いだった。

誰も総督を抑えられる者はいなかった。


かつて「小さな鬼神」と恐れられた総督は今はいない。


「武神」


かつて、総督はそう呼ばれていた。武神の生まれ変わりだと。

戦いの為に産まれ戦いの為に死ぬであろう。


そう願い生まれた子が総督だ。総督が強い理由はこれだけでいい。


父と母の想いはもう総督には無い、だが、自分の事は武神だと自覚していた。


12時間後、龍牙の戦士達の断末魔が消えた。

そこにはまるで湖でも出来たかのような、血の海が流れていた。

総督も血まみれでその血の池と区別が出来ぬほどだった。


総督は剣山の秘宝である「重剣(ちょうけん)山越(やまごえ)」を手に剣山家を出て、クールタウンですら出ていった。


総督が血まみれでクールタウンを出るとき、師匠、劉に会った。

劉は総督を待っていたかのように仁王立ちしていた。


総督の日記にはこの時の事に少しも触れていない。龍牙家の文献に詳細があったのだ。

劉は龍神の力を最大にして待ち受けていた。しかし総督は劉を遠目に見ていたが、視界に入ってたかどうかは怪しい。


劉が先手を打ち、総督に殴りかかったがそれを総督は軽くかわす。

劉がよろけ、首筋ががら空きになる、そこへ総督は重い手刀を喰らわす。その一撃に劉は気を失いかけるが何とか持ち越し、逆立ちのように手をつき反動で脚蹴りを喰らわそうとするが、またもかわされ、また首筋が空く。

総督は喉仏めがけ渾身の手刀を打ち、劉は宙を回転しながら首が折れた。


決着がついた。


「もう、貴方に、興味は無い」

そう捨て台詞を吐き、山越の能力で海を割り、総督はその足で、「始まりのタウン」と呼ばれた(当時は存在すら知られていなかったが)、ウォールタウンへ渡ったのだった。

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