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一章 その玖

 龍玉国には太古、数多の龍が生息していた。しかし、現在では王城の奥にある森で眠りに就いているという、最後の龍が一頭のみ。その最後の龍──孤龍こりゅうは眠りに就くとき、二つの宝を建国王・啓揮ひろきに託した。

 一つ目は魂名たまな。これは、生まれたときから龍の魂にそれぞれ刻まれている名前で、この魂名を知るものはその龍を操り、命を奪うこともできる。そのため、龍は魂名を秘して唯一無二の伴侶にしか教えることはないという。

 二つ目は龍玉りゅうぎょく。龍の眉間の奥に隠されている薄水色の半球型の玉には龍族の歴史や個々の記憶、生命を維持するための生気が蓄えられていて、これを失うことは命を失うことに等しい。

 この二つを与えられるということは、孤龍の全幅の信頼を与えられたということだ。啓揮は孤龍の想いに応えるべく、龍玉が持つ不可思議な力を使って人々をまとめ、驚くほど短い時間で国を興した。そして、国としての形がある程度整ったところで龍玉を砕き、一番大きなものを王城内の雲居乃塔くもいのとうへ、その他の小さな欠片を国内に二百箇所近くに分けて安置した。

 最初は国の守護のために分散された龍玉だったが、いつからか民が安置された建物を龍の社と呼んで祈りを捧げるようになった。

 すると、社を参った人たちに奇妙な現象が起こり始めた。心の中に一つの名が浮かび、一分の疑いもなくそれが自分の名だと不思議と理解するのだ。その現象は国内で爆発的に広がり人々は混乱した。龍の呪いだと言い出す者も出始めた頃、国王の名で一つのお触れが出された。


「宮には一人で入ります」

 渋る側仕えと警護兵を外に残し、アユミは本宮に足を踏み入れた。側仕えから渡された肩掛けをきつく巻き付ける。空気が清浄なためか本宮の中は一年を通して室温が低めで、春でも長時間いる場合には防寒具が必要になる。

 入って直ぐの部屋には 壁に沿って椅子が数十脚並べてあり、中央は床を一段上げて畳が敷かれている。ここは参拝者の待合室になるのだが、今はアユミの他に誰もいなかった。風が無く、日差しの穏やかな今日のような日は外の方が気温は高く、赤子や妻に風邪をひかせぬようにと、男たちは外で待つことを選んだのだろう。

 アユミは壁際の椅子に腰掛けた。誰もいない部屋を見回して一つため息をつく。入り口の正面の壁には参拝の作法や龍の社の役割などが記された案内板が打ち付けられている。案内板の左右にそれぞれ一つずつある扉の向こうには奥の間へ続く渡り廊下があり、そこには警備の兵と巫女が控えていた。龍玉が安置されている奥の間には右の廊下から入って左から出るのだが、荷物の持ち込みも持ち出しも禁じられているため、行きも帰りも兵たちに厳しい身体検査がなされる。


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