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三章 その捌

 ミツアキとテツヤの前には、いつもは下ろしている前髪を上げた白髪の男と、コクの姿があった。

「おまえはっ──な、何故生きている!」

 声を上擦らせたテツヤに、ミツアキは驚き向き直った。

「どういうことだ、彼を知っていたのか? ──もしかして、アユミの……」

 改めて白髪の男の顔をまじまじと見たミツアキが気が付いた。白髪の男──ソウスケはゆったりとした笑みを浮かべる。

「あの世から舞い戻って参りました。二年前は色々とお世話になりました」

「彼は事故で亡くなったのでないのか? 世話になったとはどういうことだ!」

 青白い顔をしながらも、テツヤは堂々と言い切った。

「この男を殺し、躯は海にでも捨てるようにと兵に指示をしました。事故は偽装です」

「何故、そんなことを──」

「ミツアキ様のためです! アユミ様との結婚は貴方が初めてご自身の我を通されたこと。わたしは貴方の願いを叶えて差し上げたかった。そのためにはこの男は邪魔だったのです!」

 テツヤはソウスケを睨み付けた。それでも笑みを崩さないソウスケを見ていたテツヤが気付く。

「一連の騒動は、やはりおまえたちの仕業か。──奥方様は今、どこにおられる!」

 部屋を出ていこうとしたテツヤに、コクが低い姿勢でうなり声を上げる。剥き出しになった鋭い犬歯に、テツヤのみならずミツアキも気圧された。

「今日はお願いに参りました。この二年間、ぼくはアユミのことだけを考えていました。あのとき連れて逃げてやれなかった自分を責め続けた。今、もしもアユミが幸せでないのなら、ぼくは今度こそアユミを連れて行きます」

「黙れ! ミツアキ様に嫁がれて、アユミ様は幸せに決まっている!」

 コクを忌々しげに睨みつけながら、テツヤは叫んだ。ため息をついたミツアキが視線で側近をたしなめる。

「テツヤ。少しの間黙っていてくれないか。わたしは、彼の話が聞きたい」

「っ!」

 テツヤは膝を折り、座り込んだ。床に着いた両手は強く握り込まれていた。

「……もしも、幸せならばどうするつもりなのだ?」

 ソウスケはミツアキの目を見据える。今、二人の間に身分の差は無く、アユミを想うただの男として向き合っていた。

「このたびの騒ぎは全てぼくが一人で起こしたものです。責任はぼくだけにあります。アユミが今まで通りにここにいることを選んだのなら、これまでと同じようにアユミを受け入れてやってください。そのときは、今度こそぼくを殺してくれても構いません」

「……それで良いのか?」

「アユミの幸せが、ぼくの幸せです」

 先程までとは違い、年相応の明るい笑顔を見せたソウスケを見て、ミツアキは目を伏せた。



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