三章 その弐
「それで、どれだけ食べたんですかコハク」
立ち上がったコハクの腹はいつもよりも膨らんでいる。
「肉と魚は食べ尽くしてやったよ。それだけだとあたしが一番に疑われるから、野菜や果実も忘れずにね」
食品庫の騒動の犯人はコハクだった。
屋敷滞在の初日、サツキは庭師に庭の隅にコハクが用を足せる場所を作ってもらっていた。そして、コハクは女中や側仕えたちの前で一人で用を足しに行って部屋に戻る姿を故意に何度か見せていた。その結果、芸を披露し終えたコハクが一人で庭に行っても誰も疑わず、サツキがアユミの話し相手になっている間に食品庫の食料を食べてしまったのだ。
「最初は疑ったとしても、誰も犬が掛け金を開け閉めできるとは思いませんよ」
食品庫の扉に鍵は無いが、風などで開かないようにと掛け金が付いている。鼻先で何度も触っていれば外すことは偶然できるかもしれない。だが、食料を荒らした犬が戸をきちんと閉めて掛け金をまた掛けるなど誰も思わないだろう。これは、人の姿に変化できるコハクだから可能なことだ。
「まぁ、そうだね。食品庫の中も食べ物が無くなったこと以外は変化がないようにしたしね。箱も壺も笊も動かしてないよ」
得意げな顔をするコハクの首元の毛をサツキは撫でてやった。
「そろそろですかね」
「そうだね」
今朝から姿が見えなかった薄緑色の小鳥が縁側から飛び込んできた。そのクチバシには畳んだ紙切れがくわえられていた。
「サツキ、それを広げてくれるかい」
言われたとおりに小鳥が運んできた紙を広げたサツキは、自分では見ずにコハクの前に差し出す。そこに書かれた文字を見たコハクの目が細められた。
「ちょうど良い。あの子がお使いから戻ったよ」




