三章 その壱
「今度は食品庫みたいよ」
屋敷内がにわかに慌ただしくなった。今日もアユミに芸を披露し、サツキたちは与えられた客間で茶を飲みながらくつろいでいた。戸の向こうから女中たちが話している声が聞こえる。
このところ、黒真珠卿の屋敷では騒動が多発している。一つ一つは子供の悪戯のような小さなものだが、それも立て続けに起こると屋敷内の空気はかなり落ち着かない。
一番最初は、塀の外から投げ込まれた爆竹だった。その次は、庭の花の花びらが全てちぎり取られ、その後は女中が物置に閉じこめられたり、廊下に油が塗られたり。
当然、よそ者であるサツキたちが一番に疑われた。しかし、騒ぎが起きたときには彼らは必ず、アユミや屋敷の人間と一緒にいた。疑いは完全に晴れていないだろうが、屋敷から追い出されるような気配もない。
「失礼します。寝台の敷布の交換に参りました」
両腕に白い敷布を抱えて部屋付きの女中が入って来た。
「すみません、お願いします」
サツキの言葉は無視し、女中は作業を始める。敷布を替えながらも、彼女の視線は落ち着かない。サツキは密かに苦笑する。
「また何かあったようですけど、何があったんですか?」
女中の肩がぴくりと揺れた。
「……大したことではございません。食品庫の中身が多少無くなったようで、料理人が大袈裟に騒いだだけです」
彼女はサツキたちの部屋に無くなった食料が隠されていないかを確認しに来たのだ。敷布は通常、サツキたちが部屋にいない間に交換される。こんなにも分かりやすく捜索に来たのは、恐らく彼女の独断行動だろう。
サツキがいる畳の間の縁側で丸くなっていたコハクがうなり声を上げた。女中は急いで作業を終えると、そそくさと部屋を出ていった。




