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一章 その弐

 戸を開けて入って来たのは幼い姉妹と、楽器を持った三人の旅芸人の男女。横笛の男性とつづみの女性が姉妹の両親で、三味線を担当するのは祖母に当たる。彼らはあと数人とで一座を作り、郷内を回っている途中に看板を見つけてやって来た。親たちの演奏に合わせ、少女たちが舞い始める。

 少女たちの対面には、屋敷の主であるミツアキとアユミが座っていた。側近のテツヤやアユミの側仕えたちも近くに控えていて、姉妹のたどたどしさを残した舞いを、目を細めて見守っている。

 ミツアキは隣の妻に視線をやった。両手を合わせて指先だけで手拍子し、真剣な眼差しで可愛らしい舞いを見つめている。飽きているようには感じられないが、その表情に変化はない。予想はしていたがやはり落胆は隠しきれずにため息をついた。

 拍手の音が聞こえ、慌ててミツアキが正面に顔を戻すと、姉妹が舞いを終えて頭を下げているところだった。姉妹は満足げだが、アユミの方を見ている大人たちの表情は冴えない。

「褒美は続きの間で渡す。今日はご苦労であった」

 テツヤに促され、一座は出て行った。アユミは小さな声で側仕えを呼び寄せる。

「反物を三反ほど渡してあげて。あと、あの子たちには何かお菓子とかんざしを」

 ミツアキはもちろん、芸人たちにいくらかの金を持たせて帰している。しかし、自分のために頑張ってくれているのに笑うことができないのが申し訳ないのか、アユミは自分の持ち物を必ず分け与える。

「アユミ、褒美はわたしが渡している。君までそんなことをする必要は無い」

「いえ、ミツアキ様。わたしのために皆さんはわざわざ来てくれているのですから。それに、お渡ししているのはこの町の皆さんが懸命に働いてくれているお陰で手に入れられたものです。わたしはただ、それをお返ししているのです」

 一つ長いため息をついてミツアキはアユミの頬に手を伸ばすが、ぴくりともせずに自分を見つめる妻の目を見ていられなくなって、触れる直前で腕を下ろす。そんな心の動きをごまかすように、自分の一番の側近に振り返る。

「今日はもう終わりか?」

 テツヤは手元の書類をさっと確認し、それを床に置いた。

「次で最後です」

「どんな芸なんだ?」

「獣を意のままに操るそうです」

 これまでも、動物を操ると言った人間は沢山来た。そのどれも芸としては素晴らしいものだったが、アユミの心は掴めなかった。ミツアキは半ば諦めながら、テツヤに芸人を呼び込ませる。


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