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一章 その拾壱

 手の中の茶はだいぶ温くなっていた。アユミの隣の長椅子では、赤子を連れた夫婦が団子を頬張っていた。漏れ聞こえてくる会話から、夫婦はこれから役所に向かい、その後乗合馬車に乗って隣の村まで帰るのだと知れた。

 龍の社を訪れる者の目的のほとんどは、赤子に魂名を授けてもらうことと、夫婦になった二人が龍族の慣習に倣って魂名を交換することだ。

 本宮の奥の間には窓はなく、三畳ほどの室内は常に薄暗い。奥の壁一面の祭壇の中央には龍玉が収められているという漆塗りの宮形みやがたがあり、脇には沢山の草花と小さな灯籠が置かれていた。宮形の手前には両腕で輪を作ったくらいの大きな深めの水盤があり、八分目ほどまで水が入れられている。

 待合室にある案内板に書かれた参拝の作法によると、宮形に一礼してから水盤に手の指先を浸しながら祈るだけで良いのだという。そうすれば、赤子の魂と赤子と共に参拝した親の記憶に子の魂名が、夫婦になったばかりの二人の脳裏には相手の魂名が自然と刻まれるのだ。

 結婚と出産を役所に届け出ることは義務だが、魂名に関しては個人の自由だ。魂名が無くても何の支障はないし、交換をしなくても届け出さえすれば婚姻関係は認められる。しかし、国民のほとんどは当然のように結婚と出産時には龍の社を参拝する。

 アユミも二年前の結婚式の後、ミツアキとこの社を訪れた。結婚前に彼と会ったのは数回で、二人きりになったのは奥の間が初めてだった。水盤に入れようとしていた指先が震えているのを、どこか他人事のように見ていたのを覚えている。緊張で冷たくなったアユミの手を、ミツアキは優しく握って温めてくれた。その後に起こったことは、ミツアキとアユミはだけしか知らない。



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