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二級魔術師のギン  作者: 騎士星水波
第3章 シューム編
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第42話アイリス

奴隷屋から出て少し経った町の会話。


「おいっ! 探せっ!」


 「曲者が入ったぞ!」


 「魔術師だ! ぶち殺せ」


 俺が何とかして探しだした物陰に隠れた時には周りはすでに俺、いや俺達を探す闇の住人の怒号というか恐ろしいような会話が聞こえてきた。その闇の住人達はこちらの俺達のことには気づかないでどこかへ走っていった。ちなみにというか俺達というのは先ほど奴隷屋に売られかけていた少女のこともさしている。


 「あの、ありがとうございます」


 その少女は涙目でお礼を言ってきた。ただ、俺との距離はまだ少し遠い。完全に信頼してくれたわけではないようだ。


 「ああ、当然のことをしたまでだ。俺の名前はギン。魔術師だ。よろしくな、えぇーと」


 「わ、私はアイリスといいます。本当にありがとうございました」


 もう一度礼をする。俺はあわててもう大丈夫だからと制止する。もちろん、堅苦しいのが嫌いというのもあるがそれ以上に女の子が土下座やら深々と礼をするのが耐えられないというのが大きい。これはピーチェの時もレイの時も同じだ。


 「とりあえず、今は危険じゃなさそうだから落ち着いてくれ。どうするか考えるから」


 俺はアイリスを落ち着かせるためにこのような言葉を言っておく。これでアイリスも少しは不安を和らげてくれるだろう。アイリスも俺の意図を察してかはわからないが少し興奮したというか不安そうに見られた顔色は良くなっていた。

 さて、俺はそんなことより考えなければならないことがある。それは、ここからどうやって脱出していくかということだ。俺1人ですら大変なのにさらに1人アイリスが加わった。ただ、これはアイリスが邪魔ということではないぞ。アイリスを連れてきたのは俺自身だしアイリスには責任というものは決してない。ここでアイリスに責任を押し付けたら最悪の野郎だ。だからアイリスと共に逃げてみせる。

 逃げてみせると考えていた俺はその一方で任務中でもあったためむしろここで逮捕はできなくても壊滅させることはできるような気はした。俺一人ではきついかもしれないが応援してくれるやつがいるなら何だってできる気がする。アイリスのためにもそうするしかない。俺の覚悟は固まってきた。

 打倒、闇商人。


 「よし、アイリス。動くぞ」


 「ど、どうするのですか?」


 アイリスは当然のように聞いてきた。これは予想通りだ。俺は答える。


 「闇商人を、闇商人のボスを倒すぞ」


 俺はそう言った。もちろんアイリスは驚いていた。今、俺はボスを倒すといったがまったくの当てがないというわけではない。ある程度ここに入った時に目星はつけておいたのである。そして、俺が一番怪しいと目星をつけていたのはこの地下闇市場の中央に位置する豪華な外装の建物であった。闇商人からは権威の城と呼ばれていると聞いた。権威の城。まさしくボスがいるような場所だ。そこに行けばいるだろう。

 アイリスに動けるかと聞くと「だ、大丈夫です」と帰ってきたので俺たちはずっと隠れていた場所から動くことにした。外に出たら俺たちを探している連中がいるからそれには十分気をつけなけエバならない。だから俺はある魔法を発動した。


 「メタモルフォーゼ」


 そう魔法を唱えると俺とアイリスの姿は一瞬で別のものへと変わった。俺はもう少しオヤジくさいいかにも闇の住人な黒いビジネススーツに黒いサングラス。アイリスはもともとの茶髪とは違う金髪のビッチに見えるギャルの姿である。

 この姿ならこの市場にあっているため怪しまれない。


 「どうだ、これなら大丈夫だろ」


 俺はアイリスに問いかける。アイリスは最初は戸惑っていたが次第には顔色もよくなりうきうきしてくれているように見えた。


 「すごいです! 魔法ってこんなことができるのですね」


 「すごいだろ」


 俺は珍しく自慢をした。アイリスが元気になってくれてよかった。奴隷といわれると本当に奴隷屋にこき使われて暗い、ボロボロといった負のイメージがあってどうやって元気にさせようか困っていたところであったがこの様子を見る限り元々は元気な子だったのかと思わせられる。こんな明るい子を奴隷にするなんて許さない。同時にそんことも考えた。


 「では、行くか」


 「はいっ!」


 俺とアイリスは権威の城に向かって隠れていた物陰から周りの様子を確認してから出て一気に駆けていった。

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