第133話決着?
「な、何だと!?」
俺の目の前には漆黒のモンスターと化したアカネがいた。
漆黒のモンスター。今まで見てきたどの漆黒のモンスターともあては余ることもないタイプの姿であった。目は1つしかない。しかし、首が8つある。黒い瘴気を放っているがその量が尋常なものではない。
これが本当の化け物。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「くう」
漆黒のモンスター特有の叫び声により俺は後方へと飛ばされる。声の力によって飛ばされるほど力強い。
こいつに勝たなければならないのか。
俺にはできるのか?
自然とそんなことを考えてしまう。
現状、俺には勝ち目があるようには思えない。俺の漆黒のモンスター化は解けたがいつか再発する危険性もある。俺がこの戦いにおいて再び絶望をしてしまえばピーチェ、レイ、アイリスの努力は無駄になってしまう。そうなると、やはり俺はこの戦いに勝たなければならないな。
師匠として弟子には悪い顔を見せられねえ!
「行くぜ!」
俺は、勝負に出る。
一気にアカネとの距離を縮める。
「はあああああ」
手に魔法で出現させた刀を持つ。
その刀で思いっきり漆黒のモンスターの頭の部分を狙う。
カン
刀特有の甲高い音が響き渡る。
当たったか?
俺は一瞬そう思ったが、すぐに間違いであると気づかされる。甲高い音が起きた。それは刀と何かがぶつかった音であることに違いない。では、刀と何がぶつかったのか。それは、漆黒のモンスターの頭などでは決してなく手であった。
自身の手で俺の攻撃を防いだ。しかも、傷がついていない。いや、確かに傷はついている。しかし、それはかすり傷程度のものであった。そのかすり傷も漆黒のモンスター特有の禍々しい瘴気によっておおわれたかと思うと一瞬にして最初から傷がなかったかのようになってしまった。
せめて、せめて決定打になるような攻撃がほしい。
ヘタな攻撃をするよりも一気に行った方があいつにはダメージを与えることができる。出し惜しみをすることはできないのか。
しかし、あとにガス欠になったときのことを考えるとそう簡単にぶっ飛ばすわけにはいかない。
どうしたものか。
俺は悩む。悩んで悩みまくる。悩んでいる間にも向こうから攻撃が来る。
「ぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「くぅ」
漆黒のモンスターの咆哮。かなりのダメージになる。
体のどこかが持って行かれるかのような痛みが発生する。実際に体を見渡しても傷ついているだけだがどこかがなくなっていても不思議ではない。
「ちっ! 負けてたまるか! 風斬りの刃解放!」
俺は自身の手に握っている刀の真の能力を解放する。
俺の持っている刀には風斬りの刃というしっかりとした名前が存在している。名前付きの刀は名無しの刀に比べて魔力量が大幅に違う。刀にはもともと魔力が内蔵されている。俺が新たに魔力を供給することはよほどのことがない限りやらなくていい。これから持久戦になってしまうという可能性を考えてこの手で行くことにする。
「ぎゃおおおおおおおおお」
漆黒のモンスターが右手を思いっきり俺に向けてくる。このまま俺をつかもうと考えているのだろうか。だとしたら、これは避けるしかない。
俺は、右手の攻撃をよける。そこに今度は左手の攻撃が来る。
「これも避けるぜ」
俺は左手の攻撃も避ける。しかし、そこに待っていたのは右手でも左手でもなかった、目からビームが発せられた。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
俺は、至近距離からのビームをよけることができない。
「風の障壁!」
ドッガーン バン
ぎりぎりのタイミングで防御壁を作り出す。風の防御壁は無残にも一発の攻撃によって壊れる。
……危機一髪だった。化け物だ。俺は改めて思い知らされた。このまま出し惜しみをしていていいのか。それとも……
考えたい。しかし、そんな時間がない。
漆黒のモンスターの攻撃がまた来る。
右手の攻撃、左手の攻撃、ビーム。この3連続の攻撃パターンが何回か続く。相変わらず同じパターンばかり使われたのでそろそろ見切ってきた頃であった。
「斬!」
思いっきり右手に攻撃をする。魔力をもちろん刀に込めてだ。しかし、傷はつかない。威力不足と勢い不足といったところか。刀に含まれていた魔力で打つことのできる攻撃は後1発にまで追い詰められていた。
ここで、行くしかないのか。
漆黒のモンスターは動こうとはしていない。今がチャンスだ。
「強風潰《ブリーズ/スラッシュ》」
俺は刀を思いッきり両手で振り下ろす。
ガガガガガ
町が俺の剣劇によって壊される。剣圧が強いせいか周辺に強風が発生する。漆黒のモンスターまでまっすぐ一直線に俺の剣劇が向かっていく。そして、ぶつかる──
はずだった。
「ぐぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
漆黒のモンスターはここ一番の咆哮を放つ。すると、剣劇が咆哮によって打ち消されてしまった。
「う、ウソだろ!?」
信じられないものを見た。あれと同等の力を持っているということか。咆哮と俺の持つ最高の剣劇が同じ威力。ありえない。信じられない。再び絶望に駆られてしまう。これはさすがに落ち込むどころの話じゃないだろ。
もう、刀は使い物にならない。と、なるとやはり魔法で戦うしかないということか。手加減はもうできない。油断はできない。手加減をしていたつもりもなかったが、出し惜しみをしていた。もう、負けることだけは避けないといけない。だから、俺は使う。
そして、思いっきり自身の持つ魔力を使って魔法を発動する。
「吹雪終焉風」
吹雪終焉風
技ランクX 属性風・氷
能力 真冬の吹雪を起こし敵を凍らせる
俺の持つ魔法の中では異色のものだ。まず、技属性が最高値であるのかXというカウントされていないいわゆる限界魔法というものだ。これは技属性? とは違うものである。まず、技属性? は純粋な魔法のランクが定まっていないものが含まれる。古代系の魔法は基本的に実際に魔法のランクを定めている王国魔法技術院の審査官によるランク決めをされていないために含まれている。しかし、限界魔法はこれとは異なる。実際に王国魔法技術院から魔法のランク決めを受けた上で判明しなかった魔法が属しているのだ。
そして、この吹雪終焉風も判明することのなかった魔法だ。
俺の持つ最強の魔法。
これで、終わりにしてやる!
「食らええええええええええええええええええええええええ」
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
食らっている。今までとは明らかに違う叫び声が聞こえる。完全に苦しんでいる声だ。これはかなりのダメージを与えることに成功したのではないだろうか。
なら、よかった。
くう、視界が揺れる。
さっき魔力を使いすぎたからか。やばい。立つのもつらい。
俺の意識はそこで一回とぎれた───




