第132話最後の漆黒のモンスター
─王都カゲロウ─(ギン視点)
「俺もまだまだだな」
俺はどうやら先ほどまで漆黒のモンスターに飲まれていたみたいだ。それをピーチェに救われた。いや、ピーチェだけではないな。レイにもアイリスにもそしてそれ以外の人にも俺は救われた。散々迷惑をかけた。じゃあ、この仮はどうやって返すか。そんなの決まっている。
俺を漆黒のモンスターにした犯人、つまりは俺の母アカネ王妃をこの手で倒すことだ。
俺はゆっくりと閉じていた目を開ける。
そこは怪しい森の中の泉ではなくなっていた。俺が最後に意識を失った場所王都カゲロウにある王城の中であった。
周りは騒がしかった。多くの漆黒のモンスターが暴れているみたいだ。ここからでも漆黒のモンスター特有の邪悪な魔力、奇声が漂い聞こえてくる。
これがさっきまでの俺か。そう思えてくるとなかなかくるものがあるな。
俺は自虐的に思う。しかし、もう後ろを向いている暇はない。これからの俺はもっと前を向いて行かなければならない。
俺の戦い。はじめようか。
「どうやら元の状態に戻ったようね、愛しの息子ギン」
「あんたなんて俺の母親でもなんでもない!」
いつのまにかに俺の背後に合われたのか、アカネが俺に声をかけてきた。
俺は、怒りのこもった声で話す。
アカネは俺の怒り狂った顔を見て笑う。不気味な笑みで。
「ふふふ、かわいい子ね。私を見た瞬間にそこまで怒るって反抗期かな」
「誰が反抗期だ! このくそばばあ」
「ああ? 誰がくそばばあだって。ギン、あなたはお母さんを怒らせ過ぎよ」
「誰が俺の母親だ! お前なんて知らない! 風の舞!」
俺は不意打ちに風の舞を発動する。
風の舞は当たらない。俺は最初からそう思っていた。そして、事実当たらなかった。アカネはたやすく風の舞をよける。
アカネの魔法はわからない。しかし、魔法をいともたやすく避けることができた。その運動能力を見ただけでかなり強い、一筋縄ではいかないと思えた。そして、事実そうなることになる。
「風の舞!」
再び風の舞を発動する。
どうせ今度も避けられる。俺はそんなことを考えた上で魔法を発動する。俺の狙いはアカネの魔法が何であるかを見極めること……それにはアカネに魔法を発動せなければならない。
「このぐらい魔法を使わなくても十分よ。さあ、ギン。私にもっと成長したあなたの力を見せて頂戴」
アカネが俺を挑発してくる。
俺はそんな挑発には簡単に乗るつもりはない。アカネは強い。女だからとか王族だからとかいってなめたら痛い目に合う。俺は其れだけを肝に免じた。
「そんな挑発に乗るかよ! 風の舞!」
またしても風の舞を発動する。そして、展開はさっきと同じ。風の舞によって発生した風はアカネに当たる直前にかわされてしまう。
「風の舞、風の舞、風の舞」
風の舞を連続して発動する。それぞれ別方向から風を発生させてアカネに向かって同時に動き出す。そして、風の速さは自由自在に調節することができるので先ほどの風の舞よりも速い動きをさせる。
しかしどれも軽々と交わされてしまった。身のこなしがものすごかった。気持ち悪いぐらい体が右へ左へと動き間一髪というところで俺の攻撃のすべてをよけていた。
アカネは俺の母だそうだ。そして、王国の王妃である。しかし、この身のこなし用。ただものではないのは確かだ。このまま戦ってもらちが明かない。
何か、何かいい手が見つかればいいんだが……
「どうしての、ギン。そっちがいかないなら私の方から行っちゃうわよ」
挑発を仕掛けてくる。
くぅ、安い安すぎる。挑発を仕掛けるのであればもっとましなものを用意しておけよ。
だが、アカネの策にあえて乗った方がここはよいではないか。
今の俺は風の舞だけを発動して状況を理解しようとしている。しかし、風の舞だけ発動し続けていても状況は一切変化していない。そろそろほかの魔法でも発動してアカネの動きを見たほうがよいのではないか。そう思えてきた。
俺は、あえてアカネの挑発に乗ることを決める。何度かアカネの挑発に乗っておいた方がいいか……安いと言いながらどうして俺は挑発に乗っているのだろうか。でも、もう気にするな。あいつを俺は絶対にぶっ殺す。
俺は殺意を一気に出す。
「へぇ、やればできるじゃん」
俺の殺意に大満足したのかアカネはうれしそうな表情を作った。
やればできるとはどういう意味だ。あの女くるってやがる。ますますそう思えてきた。
俺はこの戦いを長引かせるつもりは一切ない。さっさとこの戦いを終わらせてやる。そう思いあの魔法を発動する。
「炎色の風!」
炎が混ざった風を発動する。簡単に言うと熱風である。ツウサンとの戦いを最後にこの魔法を発動していなかった。この魔法は風の舞よりも威力は高いうえに扱いが楽である。魔力を少し余分に寝ることにより攻撃する方向や追撃性、曲がったりするなど多くの追加効果を得ることができる。もちろん、俺は余分に魔力を練って発動する。
俺は発動したのは追撃性であった。先ほどから俺の攻撃はずっと避けられていた。下手な防御をされたことは一度もなかった。これから戦う際に最後の最後に隠していた防御技が出て斬る可能性もあるので今のうちに暴けるようなものは暴いておこうという算段だ。
食らえ!
俺は追撃を含めて攻撃をする。
もしも当たらなかったら……いや、そんなことはない。必ず当たるように仕向けた。もしも、当たらないとしたらそれは攻撃を完全に防いだ時だけである。さて、あいつはどうやって俺の攻撃を防ぐのか。
「……なるほどいい手だね」
アカネはそうつぶやくと右手を前に出した。
ん? 何をしているんだ。右手を前に出して何になるというのだ。
「……光の鉄槌」
アカネは魔法を発動する。すると、
「くぅ」
目の前が一瞬にして光に覆われた。光が強すぎて目を開けることすらできない。これでは周りを確認することも動くこともできない。アカネの行動を監視することすらもできない。
ここに来てこんなせこい魔法を発動するとは……
完全に俺は甘かった。目をつぶっている間ずっと考えていた。次の手のことを。
そして、光は弱くなっていく。
俺が目を開けた時には、目の前からアカネは消えていた。
「き、消えた!? いったいどこに行ったんだ?」
俺はあわてる。
目標を見失うとか最悪すぎる。
「ぎゃごおおおおおおおおおおおおおおおお」
そこにおぞましい声が聞こえる。
その声は後ろからしてきた。
後ろを恐る恐る見る。そこには……
「アカネいや、漆黒のモンスター!」
漆黒のモンスターと化したアカネが立っていたのであった。




