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二級魔術師のギン  作者: 騎士星水波
最終章 漆黒のモンスター編
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第131話彼女たちの友情

 「ん、ううん」


 私がキスをした後にギンさんはゆっくりと重たく閉じていた目を開けていきました。


 「ギンさん!」


 私はゆっくりと目を開けていくギンさんに悪いようですが、感極まって大きな声で名前を呼んでしまいます。

 だって、だって私はずっと心配していました。だから、ギンさんが無事に目を開けてくれただけで本当にうれしいのです。

 そんなことを考えていたら自然と目から涙があふれてしまいました。涙で視界がどんどんとかすんでいきギンさんの顔をまともに移すこともできません。そして、そんな顔をギンさんに見せたくないとそっぽを向きます。


 「ピ、ピーチェ? 何で泣いているんだ?」


 ギンさんは私にそんな問いをかけてきます。

 この人は何もわかっていない。どんだけ私が心配したのかということを。ひどい、ひどすぎます。

 私はギンさんの薄情……もとい、鈍感さ加減に呆れて物言えません。でも、それと同時にこれこそがギンさんだなあと思ってしまっている私も心の奥底にはいたのです。


 「……ばか」


 私はギンさんに聞こえるか聞こえないかの声でぼそっとつぶやきます。


 「ばか、か。そうだな、俺は確かにバカだ」


 「え!? ギンさん聞こえていたの?」


 私はギンさんが普通に返事をしたことに驚いてしまい、つい聞き返してしまった。


 「まあな、実はいろんなこと聞こえていたさ。でも、ピーチェ、俺はとても弱い。俺の弱点というか心の闇について見てしまったよな」


 ギンさんに言われて私は隠そうかと考えましたが、ここで隠しては何にもなりません。素直に私は首をこくりとして頷きます。

 ギンさんは私の表情を見てあちゃーやってしまったという顔をしました。


 「そうか、知ってしまったか。でも、さっき俺は夢の中でピーチェに救われた。ピーチェの声が眠っていたはずの俺の奥底にまで届いたんだ。その言葉で俺は目覚めた。はっとさせられた。もう、俺は立ち止まってはいけないんだと。だから、ピーチェ。俺は決着をつけに行くよ」


 ギンさんは私にそう言いました。

 ギンさんの瞳はぎらぎらとしていました。活気ある目です。ああ、今のギンさんにならば託していける。アカネ王妃との決着もつくことだろうし、ランとの件、キンさんとの件どれもが解決するぐらいの勢いはある。

 本当ならばここから先に行かせなければならない。それがギンさんの意志であるから。しかし、ランとの件が片付いてしまったら……いいや、そんなことやっぱり考えちゃだめだよね。

 私は笑顔でギンさんを送り出さないと。


 「行ってらっしゃい。ギンさん」


 私は無理してでも今までで一番という笑顔でギンさんをお送りします。

 ギンさんも私の本心を知っているのか、最初ぎこちない表情をしましたが、すぐに私と同じように笑顔になって言いました。


 「言ってくる」


 その言葉と同時にギンさんは光をまとったと思うとすぐにその場から姿を消しました。


 「……行っちゃった」


 私は誰もいなくなった泉の前でぼそっとつぶやきます。

 誰もいないのでそんな私の言葉は誰にも届くなんてことはないのに……


 「「ピーチェ」」


 後ろから名前が呼ばれます。

 私は後ろを振り向きます。そこにはレイとアイリスがいました。


 「レイ、アイリス何でここにいるの?」


 「ピーチェ、忘れたの? 私たちも一緒に漆黒のモンスターの邪悪な瘴気に飲み込まれたでしょ。それでずっと誰かと合流しようと思っていたところにアイリスと合流し、さらに歩いていたらギンさんとピーチェが泉で何か話しているからタイミングを見計らってずっと黙って話を聞いていたの。それでね……」


 「ごめんね、ピーチェ。一番嫌な役割をさせてしまって」


 レイの言葉に続けてアイリスが言う。

 アイリスの言っている一番嫌な役──それはギンさんを笑顔で送り出すこと、です。

 私にその役目を押し付けてしまったことについて2人は申し訳なく思っているみたいです。

 しかし、今の私にはそんなことどうでもよかった。私は私の心配をしてくれるこの2人の大親友がいることを心の奥底から感謝しています。


 「ありがと2人とも」


 私は笑顔で言おうと思いました。しかし、この言葉を発しようとした瞬間に2人の私を思ってくれる思いに対する感動なのか、それともギンさんを笑顔でお送り出したこと、完全に降られてしまったことに対しての悲しみなのかどっちなのかはっきりとしませんが涙があふれてきました。それで言葉がキチンと言えたかどうか定かではありません。


 「ピーチェ、我慢しなくてもいいんだよ」


 「そうだよ、ピーチェには私達が付いているんだから」


 レイとアイリスの2人が私に近づいてきます。

 その言葉だけでも私には本当にうれしいです。どこか心に残った不安というかしこりというものが消えてなくなるような自然とした安心感を得ることができます。


 「2人とも。ううん」


 私はやはり我慢できなかった。

 2人に慰められたことによりさらに泣きじゃくってしまいました。

 それに合わせてレイ、アイリスの2人も泣き始めます。もらい泣きさせて少し悪かったなんて思ってももう遅いです。


 その後、私達の周りにギンさんと同じように光がまとっていき元の世界に戻る前の間、私達はずっと抱きかかえあうように泣き続けていました。

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