第128話ランの気持ち
「それは無理なお願いだね」
私達はランのその予想もしていなかった言葉に絶句してしまったのであった。
「どうして!」
私は、ランの言葉に飛びつく。どうしてランはギンさんを助けようとしないのか。この人だったギンさんを助けたいはずじゃなかったのか。どうして。
私は先ほどの言葉があまりにも衝撃すぎて頭が回っていなかった。ただ、やみくもにどうしてと言い続けていただけであった。
「落ち着きなさい」
そこでランはあまりにも冷たい声で私達を制止する。
私達は思わずその声におびえてしまい黙りました。
「「「……」」」
……。
誰も声を出すような真似をしなかった。しばらくの間私達の間で沈黙の時間が漂った。
「あ、あの」
ようやくレイが私達3人を代表して沈黙を破った。レイはおそるおそるおびえながらもランに質問を投げかける。
「何?」
「ひぃ、ああ、あのどうして無理なお願いなんですか?」
何というたった一言ですら圧倒された私達であったが、レイはそれを何とかして乗り越えて質問をした。
私達はレイの質問に答えるランのことばをじっくり黙って待っていた。
「それは無理なお願い。どうしてかというと、もう私はギンにとっての大切な存在であると言い切れないからよ」
「そ、それは嘘だ!」
アイリスが今のランの言葉に食って掛かる。私とレイも実を言うとアイリスのように感情に任せてランに怒鳴りたかった。
どうしてランがギンさんにとって大切な存在でないと言い切れるのか。そんなことありえない。ギンさんはずっとランのことを思っている。ランを今でも愛し信じ続けている。それだというのにどうしてギンさんのその気持ちを裏切るかのような言葉を言うの。私には信じられないような行為なのに。
「嘘って……私は本当のことを言っているまでよ。それとあなた達は大きな勘違いをしているわ。別に私はギンが私のことをどう思っているのかを疑っているわけじゃないし、私自身もギンのことは好きであり大好きであり愛しているわよ」
好き、大好き、愛している。言葉の重さが徐々に重くなっている。それはランが紛れもなくギンのことを思っている証拠である。そして、ランもギンさんが今どう思っておるのか疑っていないと言っていた。じゃあ、何でギンさんを救おうとしないんだよ。私はそのことを知ったからこそランのことが気に食わないと思っていく。
それは、隣にいるレイ、そしてアイリスも同じであった、2人ともランの言葉に納得がいくことのない様子であった。顔色がとてもこわばっていた。
「じゃあ、どうして!」
「そうだよ、どうしてそこまでギンのことを思っているのに助けようともしないんだよ!」
レイの批判にアイリスがのっかかり非難する。
「そうね……まずあなた達は何か勘違いしているんじゃないの。別に私はギンを助けたくないとは思ってもいないんだけど。むしろ、ギンを助けるために今まで暗躍してきたぐらいなのだから」
暗躍。不気味な単語が出てきましたが、私はあえてスルーさせてもらうことにします。しかし、暗躍してまで助けようとしているのに今はどうして私達の提案を拒否するのか。
私達はランの次の言葉を黙って待つことにしました。
「まず、あなた達にはきつい言葉だけど私はあなた達より強いわ。だからこそ今この状況でギンにかまっている暇がないの。漆黒のモンスターはギンだけじゃない。ほかに数体いる。神に選ばれし13人が数人いてもやはりきついものなのよ。だから私はその援軍として戦わなければならない。だから、私はギンを助けるという提案を断ったの」
……確かにそうだ。私達はランよりも明らかに弱い。今この状況では1人でも多くの強い魔術師が漆黒のモンスターと戦う必要がある。だからこその判断というわけなのか。
私達はどうやら状況を把握することができていなかったらしい。いや、できていなかった。
今までランを感情のまま避難していたことが本当に恥ずかしく思われる。
「「「……」」」
私達3人の間の中で沈黙が漂った。
その空気はとても重苦しい者であった。誰1人として口を開こうとはしない。そんな嫌な空気が私達の間にどれぐらいの時間であっただろうかわからないけど流れた。そして、その空気にいよいよ我慢が出来なくなったのかランが口を開いた。
「……いい、そんな口を閉じていないであなた達はやるべきことをやりなさい。それにギンにとってあなた達もかけがえのない存在なのだから自信を持ちなさい。そんなにギンのことが好きだというのであれば諦めていないで私から奪うぐらいの気力を持ちなさい!」
ランに叱責されてしまった。
しかし、その言葉は私達3人の胸に刺さった。とても痛い大使い言葉であった。そして、私達を勇気づける言葉でもあった。
そうだ。私達はずっと諦めていた。ギンさんは私達よりもランのことが好きである。だから私達はギンさんの言葉をあきらめなければならない。そう信じ込んでいた。しかし、そうよね。恋愛というのは引いていてばかりじゃダメなんだよね。
私達からギンさんに積極的に絡んでいきそして、いつかはランにも勝てるぐらいの恋敵にならなければいけない。
だから、ギンさんを助けるのは……
「「「私よ」」」
3人の言葉がかぶった。
レイもアイリスも私と同じことをどうやら考えていたみたいだ。でも、それで今だけはいいと思った。恋敵になる存在は多くいる。ギンさんのことを好いている人がたくさんいる。そのことを何としてもギンさんに伝えなければ。
「レイ、アイリス」
私は2人に声をかける。
2人は私の言葉を聞いて頷く。私が考えていることはもう伝わっているみたいだった。しかし、それでも私はあえて言葉に出して伝えようとする。
「ギンさんを助けよう、私達3人で」
「ええ」
「うん」
私の言葉にレイが落ち着いていながらもいつも以上の笑顔で答える。
アイリスもいつもの元気に増して大きな声で私の言葉に同意する。
さあ、私達の目的はギンさんを救い出すこと。
ギンさんを元の姿に戻すために戦わなければ。
私達はギンさんのもとへと走って向かう。
ギンさんはまだ暴れている。苦しんでいる。
禍々しい真っ黒な漆黒のモンスターのギンさんはとても巨大なのでかなりの距離がここからあるはずなのに目立つ。
早く何とかしなければ。
急ぐ。
私達はギンさんを助けるために作戦を始めたのであった。




