第122話母親
「私の目的は愛しき息子ギンをこの場に呼び寄せることなのだから」
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は? アカネ王妃は一体何を言っているんだ。愛しき息子? いったい何の話だ。俺には理解できない。理解することができない。訳が分からない。何なんだ。何が起こっているんだ。
俺の頭は大パニックに陥っていた。アカネ王妃のたった一言の言葉によってだ。そのたった一言は俺を完全に追い詰めた。理解できない。訳が分からない。俺の頭の中にはそのような言葉が感情が渦めいた。
「あ、あああ」
俺は、アカネ王妃に言葉の真意をただしたかったので何とかして説明を求めようと声を出そうとする。しかし、口に出そうとしていも口から出てくるのは”あ”という言葉か、息を出す音だけであった。言葉と言うものを発することができないぐらいに俺の頭はパニックに陥っていた。
「どうしたの、ギン。私があなたの母よ。母の前では子供は何をするのかわかってるの?」
母。母、この人がアカネ王妃が俺の母さん。俺の母さん。いや、違う。俺の母さんは死んだんだ。この人は俺の母さんでもなんでもない。嘘偽りだ。違う、違う、違う。
「違う! あなたは俺の母さんではないっ!」
俺は、認めない。俺はこいつの言っていることは嘘だ。
「そう。あなたは私の言葉を嘘だというのね。うまくいけばあなたを私側に引き寄せることができると思ったんだけど……まあ、仕方ないわね。こうなったら私としても強硬手段でに出るしかないじゃない」
きょ、強硬手段。
その言葉が俺に警戒心を一気に与えた。
アカネ王妃は一体何をしてくるのであろうか。そもそも、ここは王都の王城の中だ。すでに俺達の周りには敵しかいない。絶体絶命の状況である。ここでアカネ王妃の作戦に乗っておけばうまく逃げることもできたのかもしれない。しかし、俺がそれを断ってしまった。だから今更逃げるようなことはできない。じゃあ、この状況をどうにかすることができるのであるのか。
アカネ王妃の強硬手段がまだ何なのかわからないが、今の俺にはっきりわかったことは絶望的な状況であるということだけであった。
「いや、そんな脅しに俺は屈しないっ!」
俺は、覚悟を決めてこの状況をどうにか脱出するために魔法を発動する。
「風の舞!」
風の舞を発動する。小さな部屋に俺らはいるので風の舞ぐらいの威力の風を発生させることができれば十分である。
しかし、問題が発生した。
風の舞が発動しなかったのだ。
「ど、どうして!?」
俺は、慌ててもう一度風の舞を発動する。
「風の舞!」
しかし、風の舞はまたしても発動しなかった。
「風の舞、風の舞、風の舞!」
何度も何度も風の舞を発動しようと魔力をためて魔法名を唱える。しかし、何度言っても結果は同じであった。俺は、風の舞を一度として発動することができなかった。
どうしてだ。何が起こった。俺にはこの状況を理解することができなかった。訳が分からなかった。
「ふふふ、まったくギン。ここがどこだかわかっているの? ここは王城の中よ。侵入者がもしも入ってきたときに備えて壁には対魔法用の特別性の石を使用して作られているに決まっているでしょう。だから、あなたはここに入ってきた時点で私に従わなければならなかったの。それ以外にあなたの選択肢と言うものは存在していないのよ」
「そ、そんな……」
ミーサが思わず言葉を漏らしてしまう。そして、俺はあまりの事態に言葉を発することすらできなかった。
ここに入った時点で俺の負けが決まっていた。俺は、罠にはめられたのか。エボニーにあの時ついて行かなければ。何で俺はもっと疑わなかったんだ。
「ごめんね、お兄ちゃん」
エボニーが笑って俺に声をかける。俺はその無邪気な笑みにものすごい腹が立った。殺したいと思いっきり思ってしまうほどの感情を腹の底から感じた。
ドクン
今、心臓がものすごく振動した気がした。この感覚どこかで感じた気がした。しかし、どこであったか。
「さあ、ギン。私のもとに来なさい」
アカネ王妃は俺に手を差し伸べる。しかし、俺はその手を受け取るつもりはさらさらない。
「ギン、その人の言うことを聞いちゃだめだよ」
ミーサが俺に声をかける。
その通りだ。俺は、アカネ王妃の言葉を真に受けてはいけない。聞いてはいけないんだ。
「へー、私の言うこと聞かないんだ。じゃあ、あなたにとってものすごく利益になるようなこと言ってあげようと思ったのに」
「り、利益になること?」
利益になることとは一体何だ。この場において俺に利益になるようなことなど何もないじゃないか。それに俺にとっての利益とはエードを救うことに尽きる。だから、それ以外のことを言われたとしても利益になるようなことなどない。
「じゃあ、教えてあげるわ。あなたの父親キンは生きているわ。それに先ほどまであの人とは会話をしていたしね」
「え!?」
親父が生きている? しかもさっきまで会話をしていた。その意味はなんなんだ。
「まあ、あの人は私の敵になると言っていたけど、もう私は我慢できない。ギン、あなたには強制的に漆黒のモンスターになってもらいます。それが私の野望であり望みであるから」
俺を強制的に漆黒のモンスターにする。その言葉の真意がつかめない。何がしたいんだ。
「じゃあ、はじめましょう」
アカネ王妃は、そう言い終えると豊満な胸の谷間から何かのスイッチを取り出してそのボタンを押す。
「がああああああああああああああああああああああ」
俺の意識はそこから先なかった。




