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二級魔術師のギン  作者: 騎士星水波
第8章 エードとの再会編
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第118話王都へ

 俺は、ミーサを連れてだいぶ離れた場所まで逃げた。

 このあたりであれば大丈夫だろう。

 俺はそう思うと、近くに村がないかどうか見渡してみた。しかし、どこまで逃げたかどうかがわからないので、今俺達はどこにいるのかわからなかった。


 「ん、んん」


 そんなことを考えているとミーサが目を覚ました。


 「大丈夫か?」


 俺は、ミーサのことを気遣って背中に背負っていた状態から近くにあった木のそばにミーサの体をゆっくりとおろす。

 ミーサは、目をこすって徐々に今の状況を理解していこうとする。そして、完全に意識が正常になったのか俺に質問をしてくる。


 「エードはどうしたの?」


 ミーサが何を言ってくるのかは想定の範囲内であった。エードがどこにいるのか。その質問が来ることは最初から理解できていた。しかしながら、俺はその質問に関して答えることができなかったのだ。必死になんて言い訳をしようか考えたのにだ。ミーサには本当のことを言った方がいいような気がした。

 嘘をついてはいけない。

 エードをミーサがどれだけ愛しているかどうかはわからないが、目を覚まして一番最初に言う言葉がエードを気遣う言葉であるということはそれだけ思っているということだ。俺もランのことでいろいろとあった。だからせめてミーサにはきちんと伝えてあげたいと思った。


 「エードは、暗部と戦っている。あとから追いつくといったが……」


 俺は後半の言葉を濁した。

 それ以上は言えなかった。無理だ。この先のことは言えない。エードは暗部には勝てない。このままでは処刑されるいや、もうすでに処刑されているのかもしれない。


 「……そうなのね。私はエードにまた助けられてしまったのね」


 ミーサは俺が言葉を濁したことから察してしまったみたいだ。そして、自分に対してどこか自嘲的な言葉をつぶやく。

 そして、俺も後悔した。もう少し自信を持ってこのことに対して答えていればミーサに無駄な心配をかけることなどなかったというのに。


 「すまない。ミーサ」


 「そうね。もう起きた以上仕方ない。でも、まだエードを助ける手は残っている」


 ミーサはそう言った。

 まだ、エードを助ける手が残っている? それは一体どういうことだ。


 「どういうことだ?」


 驚きのあまりそのまま俺は自分が思っていたことだけを言葉として発してしまった。


 「おそらくエードはその場では殺されないはずよ。不死アンデッド・宝石カラットは王国内でも最悪と言ってもいい方の盗賊集団だった。そこに所属していた者しかも元二級魔術師となれば見せしめが必要になる。だから、エードは国王の前で王都の民衆の前で絶対に公開処刑されるはずだわ。狙うならそこよ」


 公開処刑。

 嫌な言葉だ。しかし、ミーサの言うことはよくわかる。エードを殺すなら王都か。よく、考えているものだ。俺みたいなやつじゃそこまで知恵が回ることはない。

 俺は、そうとなったら行動するしかない。


 「王都か。さっそく向かいたいが……」


 俺は、途中で口を濁した。

 その理由というのはミーサをどうするかということだ。せっかくエードが犠牲になってまでも助けたのであるのだからわざわざ王都まで連れて行ってしまったら意味がない。ミーサにはどこか安全な場所にいてもらいたい。安全な場所がないとしても俺がエードを無事に救うことができるまでの時間だけ隠れることができる場所にいてもらいたい。


 「ギン。それなら大丈夫よ。私も行くわ。むしろ私が行かなくてどうするの」


 俺の考えていることはミーサにはすべてお見通しであったみたいだ。

 ミーサを俺は見る。

 その眼には覚悟が見えた。瞳の奥には揺らぎことのない覚悟があった。

 強いな。

 俺は素直にそう思った。俺よりもずっとずっと強い。俺ももっと強ければランを救うことができたのに。どうしても自分のことを考えてしまう。エードお前は本当にいい彼女を持った。俺はエードがうらやましかった。


 「本当にいい彼女を持ったな、エード」


 俺は素直にそうほめたたえる。

 俺は小さくぼそっとつぶやいたつもりであったがどうやら俺の声はミーサの耳にまで聞こえていたみたいでミーサの顔は真っ赤であった。しかしながら、その表情はまんざらでもないかのように見えた。


 「じゃあ、行くか。ここから王都カゲロウまでは結構の時間がかかる。早めに出ないといつ処刑されるのかわからないことを考えると少々急がなくてはならない」


 ミーサは俺の言葉に同意した。

 

 「ええ、私もそう思うよ。ただ、あまり大きな通りを使うのはきついかな。相手が王国の暗部だとすると王国の上層部も今回の件に関与しているはずだからね。だから、山道を通ったりしなければならない……はぁ」


 ミーサが自分でこれからのことを言っている間に大きなため息をつく。一体どうしたのかと思ったら、それがどういうことなのか俺はすぐに分かった。

 やっぱり女子か。

 山道を通ればいろいろと汚れる。服とか顔とか手とか足とか。だから、女子としてはあまり汚れたくはないというのが本音であるのだろう。

 

 「仕方ないだろ。さあ、行くぞ」


 俺は、ミーサを無理やり連れて行く。


 「わかってるよ! エードのためなら何でもするから別に汚れぐらい気にしてないしっ!」


 いや、気にしているだろう。俺はそう思ったが口には出さないでおく。

 さあ、エードよ。待ってろよ。俺が、俺らが絶対に助けてやるんだから。

 俺達は王都カゲロウに向かって急いで歩き始めたのだった。


           最終章 漆黒のモンスター編へ続く

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