第115話次なる目標
俺は、1人新たな旅に出た。
それは、俺がピーチェと出会うことになるリヴァ討伐の任務の時以来である。あの時は、1人でいることが当然であると思っていた。ランを失ってから俺は極力2人以上のチームで任務に出ることは避けてきた節があるからだ。
しかし、今は1人で旅に出ることを覚悟したはずなのにどこかさびしさがある。1人がさびしい。そんな風に思ってしまうようになっていた。この感情は決して悪いことではないことはわかる。でも、今の俺は少し1人でいたいんだ。誰かといたいとは思ってはいけないんだ。自分の心さえも騙さなければならない。
「はあ~」
ため息をついてしまう。
まあ、ぐちぐち考えたところで何にもならない。俺は、ポジティブに生きるしかないんだ。
そんな風に気持ちを新たに俺は、エイジアの町から少し遠いところまで来たところである小さな村に寄った。その村の名前はモーゴ村という。
モーゴ村。
この村をどんな場所であるかと説明するとなると一言で片づけると何もないだ。
では、俺はどうしてこの村に立ち寄ったのか。それにはきちんとした理由が存在している。
俺は、モーゴ村の中央にある家から慎重に歩数を数えながら町の奥の方へと歩いていく。そして、歩数を丁度500数えたところで立ち止まる。近くには大きなモモンの木が2本ほどたっており、その木には何かで削った跡が残っていた。
「……ここか」
俺は、その木の下まで近づくと、魔法でスコップを作り出し必死に地面を掘り進める。地面をスコップの先が土で被るぐらいまで掘り進めるとカキンという甲高い音がした。どうやら何かにあたったみたいだ。俺は、その何かを探すためにスコップをさらに掘り進める。そして、さらに時間が経過するとスコップにあたっていたものの正体があらわになった。それは、金属でできた小さな箱であった。
「見つけたぜ」
俺が、モーゴ村に立ち寄った理由はこれを掘り出すためであった。
以前にランと一緒にこの村に寄ったことがある。その際に思い出として埋めた品がこの箱の中に入っている。俺達はあの時確かに手紙を埋めた。俺は、ランに手紙の中身を聞いたが、ランは内緒と言ってまったくといってもいいほどその中身を教えてはくれなかった。
あの時のランの様子はおかしいと感じることはなかった。しかし、今のランがどうして漆黒のモンスターとかかわりのある組織に入っているのかその答えに少しでも近づけることが書いてあればいいと思う。俺は、そんなかすかな希望を胸にここまで来たのであった。
さて、俺は箱の中身をまず確認する。
手紙が2枚入っている。1枚は俺の手紙でもう1枚がランの手紙である。
俺の手紙のことはこの際どうでもいいとして、肝心なのはランの手紙の中身である。どのようなことが書いてあるのだろうか。全くのヒントとならないのかもしれない。どうでもいいことなのかもしれない。でも、俺はランが死ぬ直前にあの時はまだなるとは思ってもいなかったが、最後の任務の1か月前のこの手紙の中身が気になる。
俺は、覚悟を決めて手紙の中身を読み始めた。
ギンへ
この手紙を読んでいるころはすでに私達は身も心も成長して大きくなっているでしょう。この手紙を埋めた日からいろいろな出来事があったでしょう。
さて、私達と私は言いましたがもしかしたら私はこの世にいないかもしれないし、ギンがこの世にいないのかもしれません。あっ、でも、ギンがこの世にいないのであればこの手紙は読まれることはないよね。
ギンはこの手紙を読んでいるということは埋めたことを覚えてくれたという喜びよりも別の感情で読んでいるのかもしれません。私が敵になる。そんな未来があるのかもしれません。
俺は、ここまで読んで1回深呼吸をした。
俺は、この文章のある部分に注目した。それが最後の部分の私が敵になるという言葉だ。まるで、ランはこの時すでにいつか俺の敵になるということを予期していたかのようだ。どうして予期できたのか。それともこの時から本当は裏でずっと俺の敵であったのか。謎が増えた。その謎もこの後を読めば解けるということを信じるしかない。
俺は勇気を入れて再び手紙の続きを読み始めた。
私が敵になる。その言葉にギンは違和感を覚えているのかもしれない。でも、これは私がギンの敵になるのは必然であると予感しているからなの。まず、この手紙を読んでいるころには敵になっていたとしたらこの手紙の先を読んで、そうでなかったらこの手紙を今すぐしまってここに書いてあったことを忘れなさい。
じゃあ、敵になっていた場合の話をするね。
もうギンは気づいているのかもしれないけれどもギンの中には漆黒のモンスターと呼ばれている伝説上の禍々しい魔力を持った化け物が眠っているの。私が敵対する理由はその漆黒のモンスターを持っているギンを倒すためよ。では、なんで私がそのことを知っているかというと実を言うと、私はギンのお父さんキンさんがギンの前から失踪した後に1回だけ会っているの。その時にその話を聞かされたわ。私は最初はまったく現実感を味わうことができなかったけどあなたの出自を聞いて理解できたわ。
まず、あなたがこの手紙を読んでいるということは私を探す手掛かりにしようとしているのだと思う。それもいいと思うわ。でも、まず最初にギンにやってもらいたいことはあなた自身の過去、出自について調べることからだと思う。あなたにはどうしてお母さんがいないのか。そのことをしっかりと調べてみなさい。そうすれば、私へと近づくことができるわよ。
あなたが頑張るのを期待してみているから。
最後に、ギんぴしゃだ。ランはここまで予想することができていたのか。俺は、ランのことを正直見くびっていたのかもしれない。いつもランと一緒に旅をするときにランが俺を見る目はたまに悲壮であった。その正体がようやく分かった。
俺は、ランを探さないといけない。
でも、ひとまずはランの言うとおりに俺の出自について調べ上げることにしよう。
俺の母さんは、俺が物事を覚える前に亡くなったそうだ。そう、親父は言っていた。この話からすると母さんには何かあると読み取れる。そこに何かが答えがあるのかもしれない。
俺は、手紙をくしゃっと握りつぶして覚悟を決める。
俺の当面の目的は、母さんについての情報を調べることだ。
俺は、手紙をバッグにしまうと再びエイジアとは逆の報告に向かって歩き始めるのであった。




