第114話新たな旅立ち
さて、魔術師試験が終わってから早くも2週間が過ぎた。
俺の家には相変わらずピーチェ、レイ、アイリスの3人が居候として住んでいる。
ちなみにもう3人は立派な魔術師としての生活がスタートしている。もう、すでに2個ほど依頼を達成している。その時は3人でチームを組むようで仲の良さもますます増しているようだ。そばで見ていて3人が相当強くなったことを感じることができる。この短時間でのここまでの成長は、なかなかないものだ。だから、俺はこの3人がもっと素晴らしい魔術師になってほしいと願う。
「ギンさーん」
1階のリビングにいるだろうピーチェが俺の名前を呼んでいる。
俺は、自分の部屋にいた。俺の目の前にはランと俺が昔撮った記念の写真が飾られていた。
「……ラン」
ランは、何かをやろうとしている。そのことを俺はあの時のランとルイの表情から読み取ることができた。しかも、そのやることというのがすべて俺のためでもあるようだ。つまりは、俺がランに迷惑をかけてしまっているみたいだ。
どうしてこんなことになったのか。その答えは何となくであったが理解することだけはできた。
そう、俺が弱いからだ。
あの時、結局のところランは生きていることは分かったが、本来であればランは死んでしまったはずだ。どうして死んでしまいかけたのか。俺が、ランを守るだけの力がなかったからだ。
そして、今回の件。
俺は、ピーチェ、レイ、アイリスの3人を本当に守ることができたのであろうか。あの3人は漆黒のモンスターを相手に生き残ることができた。俺が、駆けつけるのが間に合ったからだからかもしれない。しかし、果たして本当にそうなのか。
あの漆黒のモンスターを呼び寄せてしまったのは俺なのではないのか。あの漆黒のモンスターの元となったシュウという男はアイリスの昔の知り合いらしい。現在、彼は俺が派手な攻撃で戦闘不能にしたため重症であるが生きてはいる。病院でまだ眠っているらしいが。
それはいいとして、俺はあの時確かに3人を救ったのかもしれない。しかし、それは結果としてだ。過程としてはどうであろうか。あの3人を助けるまでの間、俺はなにをしていたんだ。
「結局のところ、俺は何一つあの時から変わっていないということか」
俺は、写真を見ながらぼっそっとつぶやく。
何1つとして変わることができていない。
こんな俺には、ピーチェもレイもアイリスも、そしてランすらも守ることなんてできない。
「ギンさーん、入りますよ」
ピーチェの声がするとすぐに扉が開いた。
「ギンさんどうしました? ご飯の時間ですよ」
「ああ、もうそんな時間か」
俺は、写真から目をそむけてピーチェの方へと体を向ける。
今日は朝早くに起きていたはずだが、知らないうちに俺が起きた時は真っ暗であったはずの外は太陽が昇ったことにより日が照らして明るくなっていた。
まあ、それだけ俺が考えていたということかな。
「どうしたんですか? 最近ギンさんいろいろと考えているみたいですが、何か悩んでいることでもあるんですか?」
「いや、大丈夫だ。悩みというよりも少しくだらないことを思っていてな」
嘘だ。
ピーチェには心配をかけないようにこんな言葉を言ってしまったが、本当のことを言えばぶっちゃけったかった。
くだらないこと。嘘だ。俺にとってはとても重要なことだ。
「……ならいいのですが」
ピーチェは、俺の態度のどこかに不審点をまだ思っているみたいで完全に納得をしてくれたみたいではないがとりあえずは俺の意見を尊重して何事もなかったかのように通してくれるみたいだ。
だが、俺はここである種の失望を抱いた。
ピーチェに心配をされたことにではなく、ピーチェにもっと俺のことを聞いてほしかったと心の奥底では思っていたことをだ。それが、ピーチェがおとなしく引いたことにより失望を抱いてしまった。
俺は、弱い。
改めてそう思ったのであった。
◇◇◇
「行ってきまーす!」
アイリスが元気よく声を出して、そのまま1人玄関を出て走り出していく。それに続いてピーチェとレイの2人も軽く俺に挨拶をして、玄関を出ていく。
今日も3人は仕事である。
アイリスに至っては玄関から勢いよく出かけていくことから、魔術師となって仕事をこなすことに充実さを感じているみたいだ。本人の顔色もものすごくよくなっているし、昔俺が奴隷市場で売られようとしていた時よりも本当にいい表情をするようになったと思う。
俺は、笑顔で3人を見送ると家の中にへと戻る。
実を言うと、俺はしばらく仕事を休むことにしたのだ。そのことは、3人にはまだ黙っているがメイリやマルクには伝えてあるし、俺の所属している課である討伐局の方にもしっかりと連絡をしてあるので問題はない。
さて、今、家の中には俺1人しかいない。つまりは、誰も俺の様子を見ていないということだ。だから、俺が今からすることは誰にもばれない。
俺は、リビングの机の上に1枚の手紙を置く。
そして、俺は自分の部屋に戻るとこっそりと以前から準備をしていたリュックを背中にしょって家を出る。
……3人には悪いがしばらくは俺は旅をしようと思う。本当に勝手な人間だと自分でも思うがそういうのだから仕方ない。
俺は、3人に黙って1人新たな旅に出たのであった。




