第112話メイリ
俺達は試験会場に戻ってきた。
先ほどまでランとルイが暴れていた会場は他の魔術師たちの迅速な対応で魔法による傷跡はなくなっていた。
「流石だな」
俺は感嘆していた。二級魔術師といっても得意不得意がある。俺は攻撃系の魔法は得意であるが再生系の魔法は苦手である。建物を直すなんてことはできない。そういう意味では同じ二級魔術師でも憧れを持つものだ。
「ギン、無事でしたか」
そんな二級魔術師の集団の中から1人の男が現れる。金髪の高身長、体型はスリムであり声は男らしさを出す渋い声、服装は白い魔装服である男だ。
で、この男が誰かというと……
「久しぶりだな、マルク」
その男の名はマルクという。年は俺と同期であることから同じであり昔は家が近かったこともあり(と、言ってもランの家の3個隣であったが)よくランとマルクと俺の3人は3人制の依頼の場合はチームを作って仕事をしたものであった。そんなマルクの得意な魔法は回復魔法や造形魔法(中でもなぜか建物を作るのがものすごい得意)であり、そのためか今では討伐局よりも普通に町の土木関係の行政にかかわっているという話を最近風のうわさで聞いていた。
「ああ、久しぶりだギン。最後に話したのはあれだったかな。確かギンがリヴァを討伐しに行く前だった気がする。あれから結構立ったがどうしたんだ?」
「まあ、いろいろあったんだよ。帰り道で何かいろんな騒動に巻き込まれた」
俺は言葉を濁しておく。ただ、俺がいかに苦労したのかが伝わればよかった。だって、説明をいちいちするのが面倒であったから。マルクは、俺の表情をどうやら読み取って何となく察してくれた。
「なるほど。それは大変だな。ところでギンの後ろにいる3人の可愛い女の子はどうしたんだ? まさか三股か?」
俺がどんなことがあったのか話したくないことを察したマルクは話の話題を変えた。その話題とは俺の後ろにいるピーチェ、レイ、アイリスのことであった。
「違う違う。この3人は俺が帰り道に巻き込まれた事件の際に会って、魔術師になるためにエイジアまでやってきたんだ」
俺は正しいことを表向き《・・・》答えておく。
「分かってる、分かってる。お前が好きなのはランだけだからな」
「!?」
マルクはそんな発言をした。俺としては事実なのだが、そのことを他に人特にピーチェ、レイ、アイリスの3人に知られたくはなかった。
「ギンさん」
ピーチェが俺に話しかけてくる。この後、何を言うのか俺には予想がつく。まあ、いつまでも隠しても仕方がないことだな。覚悟を決めた。
「何が聞きたいんだ」
ぶっきらぼうに言う。
「ラン、さんって誰ですか?」
「ピーチェ達にメイド服を与えたララさんって人が俺の家の隣にいただろ。あの人の娘で俺と同じ年で昔よく2人でコンビを結成して任務をしていた女子の名前だよ」
「そして、ギンの好きな人」
マルクが最後に余計なひと言を加えた。
「おいっ、マルク。余計なことを言うな」
俺は慌ててマルクの口を抑えようとするが、それはもう時すでに遅し。完全に音は空間に広がってしまった。それはすなわちピーチェ、レイ、アイリスの3人にランのことが知られわたってしまったということだ。
俺はおそるおそる3人の方を見る。すると、そこには俺を睨みつけている3人がいた。
アイリスはどうやら目が覚めたみたいだ、何て悠長なことを言ってられる場面じゃないな。これはどうするべきだ。マルクめ。俺は悪態をつきたいが今さら過ぎてどうにもならない。さて、3人にどんな言い訳をすればいいんだ。
俺は困ってしまった。
まずい。
まずい。
本当にまずい。
多分、3人は今の俺にたくさん言いたいことがるだろう。俺は何とかして説明をしようとした。しかし、口をパクパクさせるだけで肝心に言葉が音が出てこなかった。すなわち、俺の本音はまだランのことが……
そのことを3人に伝えることがどれだけ残酷であるのか。3人が俺を慕っていることは分かっている。だからこそ、3人を傷つけたくはない。そして、願わくはこの関係がいつまでも続いてほしいと思う。だからこそ、一番いい言い訳というのが出てこなかった。
「ギンさん」
俺が無言でいたのに耐えられなくなったのか3人を代表して声を上げたのはピーチェであった。
「お、俺は……」
俺は言おうとした。しかし、これ以上言えない。俺の過去はまだ自分自身でもけりがついていない。未練がましい。
「まったく、ギンは何をしているんだ。こんなかわいい女の子をたぶらかして」
俺と3人の間に不穏なそして、微妙な空気が漂っている中に新たな人物の声がした。そして、その人物は俺の頭を思いっきり叩いたのであった。
「痛っ! 何をするんだよっ! メイリ!」
その人物は俺と同年代の二級魔術師であるメイリという女子であった。
「まったく、マルクとギンが何を話しているのか気になって遠くから見ていたけど、何かギンが多くの女子をたぶらかしているみたいな話の流れだったのでつい出てきちゃった」
おいおい、そもそも何で俺達の話を遠くから聞いていたんだよという突っ込みがあったがここは潔く我慢した。突っ込みたい衝動があるけど我慢だ。
「「「ギ、ギンさん?」」」
そして、さっきまで俺に対して気が気じゃない3人はおそるおそる俺に話しかける。
言いたいことは分かる。新たに表れたこの女のことが知りたいんだろ。全くメイリの奴目。俺に新たな説明をさせる羽目になるじゃねえか。
「まったく、お前はいつも俺が困ることするよな。はぁー。まあ、ピーチェとレイとアイリスにしっかり説明しないといけない雰囲気になったじゃあねえかよ」
「はいはいはい、そんな無駄口私に言っていいのかな。ギンの弱みなら私はいくらでも持っているんだよ。ギンが私に逆らいたいなら別に私はいいんだよ。ただ、ギンの隠したいあんなこととかこんなことが多くの人に出回るだけだからね」
「す、すみませんでした」
俺は即座に謝った。しかも、土下座だ。冗談抜きでやる。だって、メイリの言っていることは冗談に聞こえないというか前科がすでにある。1回あることをばらされたことがあるのだ。何をばらされたかは具体的には言いたくないが。だから、ここで何かばらされるぐらいであったら、ここで土下座をしたほうが懸命だ。
……土下座なんか、土下座で解決できるなら。
「ギ、ギンさん」
ピーチェの声が聞こえる。きっと、俺が目の前で土下座している姿を見て失望しているのだろう。師匠としては土下座によって権威が失われるのはショックであるが、恋愛面において失望してくれれば実はうれしいと思っている自分もいる。こんなこと考えている時点ですでに最悪の野郎であるからピーチェたちにはもっと別の恋をしてほしいと思う。
「まあ、いいわ。ところで、あなたたちの名前は?」
メイリからようやく俺は解放された。しかし、メイリは次にピーチェたちに声をかけるのであった。
「ちょ、メイリ余計なことをするな」
俺はこれ以上メイリに振り回されたくはないので、止めにかかる。しかし、メイリは俺の言うことを無視して会話を続ける。
「私としてはこんな最低野郎のことを思ってはほしくないのが本音だけどね。まあ、恋する乙女を助けるのは好きだし、それに面白そうだから手伝ってあげるよ」
最低野郎。
自分でさっき言ったが、ほかの人に言われると改めてへこむな。
「私はピーチェです」
「レイです」
「アイリスです」
3人はそれぞれ自分の名前を名乗った。メイリは自己紹介を聞き終わった後、まだ3人にはしていなかった自己紹介をする。
「私はメイリ。よろしくね。そこの最低野郎の同い年でチーム組んだことがある仲だよ。まあ、それ以上でもそれ以下でもないんだけどね。ねえ、ギン」
俺は、もう帰って寝たかった。




