第103話発見
私は驚いた。
まさか、シュウにそんな過去があったとは。私の過去がそういうことであったとは。でも、シュウのおかげですが私もぼんやりと過去のことを思い出すことができてきました。ただ、どこかで私の記憶が戻ることを封じ込めようとしているのです。まるで、何か封がかかっているかのように。何で封がかかっているのか? どうしてこの話を聞いてもすべてを思い出すことができないのか? 私にはすべてが分かりません。失われた記憶に一体何があるのか? そんなことをつい考えてしまいます。
「あなたは……本当に私のことを?」
私はシュウにもう一度尋ねる。シュウを疑っているのではない。ただ、シュウがもしも私のことを知っているならばもっと聞きたい。もっと私についてを。消えている過去の記憶についてを。
シュウは私の言葉を聞くと笑った。それは私が囚われてから初めて見る表情であった。
「ああ、全部教えてやるよ……君を解放したのちに。だから、今は待っててくれ」
そう言うとシュウは私の後ろの方を見つめる。それに合わせて私も後ろの方を振り向く。そこにあったものを見て私は安心した。自然と涙が流れていた。
そこにあったもの、いや、いた人は───
「「アイリス!」」
2人の女子の声が私に向かってかけられる。
「ピーチェ、レイ!」
その2人というのはもちろん、ピーチェとレイのことである。
私の大事なチームの仲間。その2人が私をついに見つけてくれたのだ。私はそのことで胸がいっぱいになる。
「ようやく来たか。ピーチェ=ギーガ、レイ」
シュウがピーチェとレイに向かって不気味な笑みを漏らす。
「シュウ?」
私はシュウの名前を呼びます。かつての自分を知るその男の名前をです。
シュウは一度私の方へと振り返ります。そして、私の近くに寄ってきます。
遠くではピーチェとレイがアイリスに近づくなと叫んでいます。
シュウは私に近づくと耳元に顔を近づけて小声でささやきます。
「安心してろ。全てを終わらせる」
「えっ!?」
すべてを終わらせる。その言葉が私の胸に一番刺さりました。全てを終わらせるとは一体どういうことをするのでしょうか。まさか、あの2人を……
「やめて! シュウ!」
私はシュウに向かって叫びますが一切聞く耳を持ってくれません。私の言葉など無視してどんどんと私から離れていきます。その逆にどんどんとピーチェとレイとの距離を狭めていきます。
ただ、そんな叫びはやはり届くことのありませんでした。
─魔の森(ピーチェ視点)
ようやくアイリスを見つけました。あの、2人─レンとユージンが守っていた先に何かがあると考えていましたがその考えは見事に当たりました。
アイリスは縛られて拘束はされていましたがまだ何かされたというわけではなさそうなのでそのあたりのことには安心しました。ですが、少し様子がおかしいです。アイリスが自分を捕えたであろう敵。ここではアイリスはシュウと呼んでいましたが彼の名前を呼んでいるとき恨みとかそういうマイナスの類の感情を読み取ることができず、逆に不安そうにそして、心配そうにしているように感じられました。
一体アイリスとそしてシュウという男の間には私達が知らない何があるのでしょうか。
「ピーチェ、気を付けて。あいつ強いよ」
レイが私に対して注意を呼び掛けます。
「ええ、私もそう思うわ」
私はレイのその言葉に同意します。ここからでもわかる。シュウが強いということは。
シュウは一歩一歩私達に向かって歩いて近づいてきます。その表情はまるで復讐する者の顔です。ですが、私達はシュウという男と会ったのは初めてであり復讐されるようなことはしていません。でしたら、あの男は何に復讐しようとしているのでしょうか。
「フハハハハ」
シュウが私達に向かって近づいている途中突然と甲高い笑い声をあげました。その様子には私達も驚いてしまいました。
「お前らごときに負ける俺ではない。お前らに勝った暁には必ずアイリスを解放するんだ!」
何やら突然声高々にシュウは叫びました。しかし、私にはそのシュウの行動よりも中身つまりは言った言葉の方に違和感を感じていました。
「解放?」
その言葉に違和感を感じました。隣りにいるレイも同様に解放とは何と小言でつぶやきました。
「そうだ解放だ。お前らがお前らがアイリスを囚われの身にしたんだ! 俺は誰も信じない! 俺をアイリスをそして町のみんなを殺した人間たちを!」
シュウは続けて叫びました。さっきの言葉から私はシュウについて何かを察する。何ていうことは聖人でも賢者でもない私にはできません。私がその言葉から考えられたことはシュウという男は人間不信。それだけでした。
ただ、それだけと言いましたがそれで充分です。シュウが人間不信。だから、私達をにらんでいた。恨んでいた。ここに先ほどの疑問に合点します。
「ピーチェ、あいつやばいよ」
レイが私に言います。
確かにやばそうです。見ている限りシュウはまるで何かに囚われているようです。でも、私達はこういう時のために修業してきたのです。相手が強かったらそれ以上に力で打ち返せばいいことです。
「大丈夫よ。レイ、フォーメーションは大丈夫」
「ええ、大丈夫よ。いつでも合図されればやれるよ」
私達はシュウに勝つためにも動き始めます。先手必勝という言葉がありますが、それこそが今私達がシュウに対してやるべきことなのだと思います。
「じゃあ、行くよレイ!」
「了解、ピーチェ!」
私はレイに合図を出すとそれぞれ左右に向かって走り始めたのでした。




