第六話【彼女は鉄人】
食事が済んで、彼女は洗面所へと向かった。
家族との食事を済まし、入浴も済ませた彼女が今から行うことは歯磨きだ。
誰もが憧れるような白くて綺麗な歯を持っているからこそ大切にしなければいけない。
また一度も虫歯になったことがないことが歯にしっかり出ている。
しかしそんな彼女にも食べ物で経験したことがないものがある。
それは15年間生きてきて1度も甘い物を食べたことがない。
チョコレートの味も、キャラメルの味も、カスタードプリンの味も。
あの蕩けるような甘味を彼女は知らないのだ。
『虫歯になる可能性がある』と言って自分から拒否し続けている。
才能溢れる・努力の天才である彼女だが必ず何かを犠牲にしている。
この世界にある甘さという味を知らない。
自分自身が楽しみを求めていないからではないのだろうか。
歯磨きが終わって夜の10時半。
父も母も、兄も姉も朝早いためにもう眠っている。
「大気・海洋と宇宙の構成・・・・・」
麗華だけは起きる、いや。これから後6時間半起き続けるのだ。
睡眠時間は常に5時間だけが彼女の生活スタイル。
これは小学生の時から続いている。
これより早い時間に寝ようとは考えたことがないらしい。
『眠る時間が勿体ない』たった一言で全てを片付けてしまう。
それだけではない、深夜になると外に出てジョギングもする。
普段授業を受けているからこうした時間に運動をする。
でも疲れを見せたことはないし、欠伸をしたこともない。
そう言った意味で彼女は『鉄人』なのかもしれない。
深夜5時に眠りに付き、午前10時に目が覚める。
目覚まし時計はいらない。体内時計が時間を教えてくれる。
起きた直後なら欠伸くらい出る物だが出したこともない。
疲れがないというのは本当の様子。
午前10時が彼女の起床時間。
普通なら授業がとっくに始まっている時間だが彼女は
優雅に食事を摂ってゆっくりと学校へ向かっていく。
自転車に乗ってそよ風を浴びるのは気持ちが落ち着く。
これは学校側が公認していて遅刻にはならないらしい。
普段から素晴らしい成績を残している彼女にだけ特別許されている。
『常に先を見ている姿勢は我々教師も見習わなければいけない』
どうやら給食の時間などでよく見ているようで。
ここで神竜寺麗華がどういった人物か5つに分けて紹介しておこう。
①通学中にはいつも野菜ジュースを飲む。
『体の活性化に役立つ』と言うことで麗華としては珍しく自分から好んで飲む飲み物。
(濃い味の方で砂糖などは入っていない野菜100%)
②片手には常にノートか問題集。
小説や漫画などは滅多に読むことがない(勉強の役に立たないという理由)
読書感想文の時には読まずに誰かに作品の内容を聞いて自分なりに感想を書く。
それだけで6枚以上原稿用紙を埋めるのだから凄い。
③制服を着用。私服の着用はほとんどない(休日に外出する時だけ)
自宅に帰ると入浴の後に寝間着姿になる。
④睡眠時間は常に5時間で本人曰く『どれだけ眠っても疲れは変わらない』
そのためほとんど成長速度は止まっているらしい。
⑤全教科満点で常にオール5の秀才。
才能だけに頼らず人に見せないように必死に努力してきたからこその賜物。
(しかしその努力が④のような事になってしまった)
その他にも普通の人間では経験し続けれないような出来事も行っている。
これが兵庫県西宮市公立谷岡第一中学校3年生 神竜寺麗華だ。
そして今日もまた彼女はゆっくりとした速度で学校へと通う。
彼女がどのように凄いのかはまたいずれ書き記すとしよう。
風が吹く、次第に冬が近付いてくる。
長袖の服とズボンが活躍する唯一の季節。
そして学生なら誰もが経験する事になる受験の季節と月日は流れた。