第五話【家族と食事】
お風呂から上がると、既に母が寝間着を用意してくれていた。
脱いだ制服ももう洗濯機の中に入れていてくれた。
行動が早い母だ。
この様子なら鞄も二階にある自分の部屋に置いていてくれていることだろう。
すぐに寝間着を着てドライヤーで髪を乾かせる。長髪が熱風で靡く。
扉は閉まっているが声が隙間から入ってくる。
もうご飯の準備は出来ているのだろうか、それならば急がないと。
人を待たせるという事が麗華は嫌いだった。
「すいません、遅くなりましたわ」
席にはもう家族全員が座っていて、準備も出来ている。
麗華もすぐさま椅子に腰を掛けた。
自分は身長が低いからみんなよりも椅子が少し高い。
座る度にいつもそう思う、何かと負けるのが嫌いな性格なので気になってしまう。
「よし、では全員揃ったな。では手を合わせ・・・いただきます」
『いただきます』
父 神竜寺義啓は礼儀正しい人間だ。
『マナーを守れないような人間が将来大成する訳ない』
会社内でも全員にこれを心がけるようにテーブルの下にいつも敷いてある。
常に何百人といる部下を一人一人しっかりと観察している。
そんな作法に厳しい人物だからこそ事業を成功させて有名な会社にさせたのだろう。
「久しぶりだよな、家族全員で食事するなんて。
やっぱりこうしてみんなとご飯を食べれる事って本当素晴らしい事だよ」
兄の神竜寺 要城木大学3年生でバスケ部新キャプテン。
チームワークを誰よりも重視していて、パスなどの連携プレイの合図・声かけが得意。
周りを冷静に見れるからこそリーダーに任命された実力者。
生徒会役員では会計係にも任命されている。
「一人で栄養摂取するほど寂しいことはないわ。家族・友人・・・
この言葉って簡単そうで大変深みがあるから大好き♪」
姉の神竜寺 環城木大学1年生で美術部に所属。
小・中・高とイラストコンクールで金賞を受賞する程の腕前を持つ。
自作小説も出版されていてかなりの人気を誇る。
風紀委員長で少しの乱れも許さない。
「部活に勉強って大変じゃありません?」
「確かに大変だけど楽しいぜ、特に部活はやっぱり体を動かせるのは最高だよ。
勉強も好きだけどずっと机に向かって・・・って言うのは嫌だからさ」
「夢中になれるのよ。大好きなイラストを描いたり小説を書いたりするの・・・
自分の自由時間があるのは素敵♪」
麗華は部活には所属していない。色んな部活から助っ人として呼ばれるだけ。
運動は自分の決めた時間内でやればいい・それよりも勉強に集中したい。
帰る時間が遅くなると塾に通うのも遅くなってしまうから復習する時間が少なくなる。
「麗華はどうだ?勉強の方。って言ってもお前いつも全教科満点だもんな~・・・」
「私も100点は3教科ぐらいあるけど・・・全部ってやっぱり難しいわ」
「勉強はいつもと変わらず、授業・塾で復習をしたぐらいしかありませんわ。
分かっていることをやるのはいささか退屈ですけど・・・」
やっぱりな。その答えを待っていたように要と環は笑った。
彼女に勉強のことを質問しても大体この答えが返ってくる。
『復習』予習ばかりしているからこそ言える言葉だ。
「麗華からしたら学校の勉強など退屈で仕方ないだろう。
ノートの点検があるぐらいか?それ以外は違う勉強をしてもいいんだぞ?」
「そろそろ大学の問題集を解こうと思っていたところですわ。
お兄様、お姉様。良ければ使っていた資料集などを貸していただけません?」
先の先のことを見続ける彼女。道は決まっているからだ。
城木大学に入学して卒業する。
それからは自分のやりたいことを少しずつ見つけていけばいい。
どれだけ遅かろうとも選択肢はいくらでもある、回りに転がっていることだ。
だからこそ平凡な日常を楽しむことが出来ないのではないか。
「美味しいですわ、お母様」
「一杯食べなさいね?料理はいくらでもあるんだから」
お皿に乗ってあるムニエルを食べて母にそう言った。