第四話【終わって自宅へ】
図書館での読書が終われば、彼女はそれから自転車に乗り塾へと向かう。
学校までは徒歩で行くがそれからは駐輪場に置いてある自転車を乗る。
帰りは大抵夜になるのでしっかりとライトも付けてある。
いつも空気が抜けていないかだけを確認、時々こういったイタズラがあるからだ。
最近でも近くの自転車のタイヤに針を刺して逃げたという報告も聞いた。
それを思い出すとため息が出る。何でそんな小さな事をするんだろうと。
どこからそんな好奇心・悪戯心が湧き出るのか理解出来なかった。
自転車を漕いで数分後、通っている塾に着いた。
降りたらチェーンをしっかりと車輪に掛け、カゴから鞄を取り出す。
2つの行動を終えてようやく塾の入り口に入る。
「あ、神竜寺さん来たよー」
「こんばんはー!」
同い年なのに相手はこちらを大人として見ている。
喋り方、雰囲気、頭の違い。それらを総合して彼ら・彼女らはそう感じ取っている。
ため口で話すことがほとんどない。
「こんばんは、皆さん」
小柄で、見た目は中学生よりも下に見られてしまいそうだけど。
こうして敬語で話されるというのは少しながら神竜寺も嬉しい。
努力を重ねた結果、身体的な成長がほとんど止まってしまったからだ。
誰だって子供よりも大人として見られる方が嬉しい。
「お、全員揃ったね。それじゃあ授業に入るとしようか」
しばらくすると塾の講師がやってきて、授業が開始された。
此処でも彼女が委員長的な存在として扱われている。
「起立、礼!!着席!!」
毎日やっていることを毎日同じように繰り返すだけ。
決まっているスケジュールはその通りこなすだけでいい。
ある意味で楽な仕事だ。
台本を覚えるだけならば幼稚園児でも出来るのだから。
授業も聞かれたら予習している事を答えるだけ。
既に大学の勉強もしている彼女にしたらただの復習でしかない。
それが例えみんなからしたら今から習うことにしても。
こんな毎日を神竜寺麗華は退屈な毎日だと感じ取るようになってきた。
塾が終わるのは夜の9時頃。自宅は近いので帰りは楽だ。
再びカゴに鞄を入れてタイヤの空気が抜かれていないか確認する。
よし、大丈夫。ライトを付けて最後にチェーンを外し自転車に乗る。
細かな作業を全部終えてようやく進み出す。
夜は危険でいっぱいだ、交通事故が起きて病院に運ばれた人の数は少なくない。
たった1つの不注意で大変なことが起きてしまう。
ライトを付け忘れた・急いでしまった。そんなことを言っても取り返しは付かない。
「馬鹿ですわね」そう呟いて周りをしっかり見ながらゆっくりと帰って行った。
明かりが付いていても、それは安全の灯火ではないかも知れない。
一つの過ちを犯せばそれは命の灯火ともなる。
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「お帰りなさい、麗華」
家に帰れば、母の神竜寺 珠枝がいつもお出迎えしてくれる。
世界的有名なベストセラーは常に新作を考え出し、締め切り1週間前には完成させる。
時間に大変余裕があるのでこうして玄関の前まで来てくれることは嬉しい。
「今日はみんなが揃ってるの。
鞄は置いておくから麗華も準備が出来たら下に降りてらっしゃい」
「分かりましたわ、お母様」
父はいつも仕事で忙しく、深夜に帰宅することが多い。
兄はバスケ部に所属していて全国大会も近いため練習時間が長く帰ってくるのは遅い。
姉は美術部で文化祭に出品する絵を描くため居残ることがある。
家族が夜の9時頃に揃うというのはかなり珍しい。
すぐに洗面所へ向かい、手洗いにうがい。
制服を脱いで一通りシャワーを浴びることにした。