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第二十九話【蛙とカタツムリ】

雨が降り続けている、激しい雨。

片手で傘を持ちながらの片手運転。

前が見えなくなりそうなぐらいの痛い雨粒。

信号の光が無ければ少し危ないぐらい。

車の音が掻き消される程、強くなってきた。









「天気予報は嘘つきですわね、降水確率10%と言ったではないですの。

それを傘は必要ないぐらい晴れるなどと・・・全く・・・」






彼女も少し不機嫌でいた、傘を渡しに行くことに不満は全然ない。

晴れと言って雨が降ったことに苛立っているのだ。

中途半端が嫌いでどちらかハッキリして欲しいと言うのが理由だ。

もしこれで傘を持っていなければずぶ濡れ状態。

そう考えると余計に苛立ってきた。






数秒後落ち着いて平常心を取り戻す。

こんな所で気持ちを乱して事故とでも起こしてしまったらどうなるか。

鉄人の神竜寺麗華だが当然中身はただの人間。

車に万が一轢かれたりでもすれば無事では済まないだろう。

そう考えると余計に怖くなった。











赤から青に変わって自転車を漕ぎ始める。

最初はどうしても雨で滑りやすくなっているため、バランスを保ちにくい。

だからすぐに乗らず助走を付けて乗る。

そうして安定したバランスと体勢で安全に前に進むことが出来る。

要領良くやらなければ時間が無駄になってしまう。

この雨の中、普通の倍になってもおかしくない。





普段ならまだ図書館で本を読んでいる最中。

勉強するのは彼女の癖だ、例えそれが分かりきっていることでも。
















(ゲコゲコ ゲコゲコ)




「?」







突然何かの音がした、何の音だろう?

そう思い自転車を止めて周りを見渡した。

するとその音の正体はすぐに分かった、それは蛙の鳴き声。

葉っぱの上に乗っている3匹の小さな蛙だった。










「あなた達は私達と違って雨が好きですものね」





(ゲコゲコ ゲコゲコ)







表情一つ変えずまるで返事をしているかのように鳴き出す。

降ってくる水を飲んで、仕事をしているかのように鳴き出す。

この地域ではとても珍しい蛙がそこにはいた。

田舎などではよく見かけるこの動物。

ただし此処はアスファルト舗装されており自然はあまりない。

元いた場所にいなくなってしまっている。







子供の頃に一度見た以来の出会い。

緑色の体とその円らな瞳が不思議と魅力的。

懐かしい感じがする、この雨の日。










「もう冬ですのに・・・冬眠の準備は出来ましたの?」




(ゲコゲコ ゲコゲコ)








葉っぱの後ろを見てみるとカタツムリまでやってきた。

遅い動きで蛙に向かってきている。

蛙は逃げる素振りしない、敵意がないためか。

今まで麗華を見ていた方向の逆を向き始めた。









「仲良しですわね、あなた達」








蛙の方からカタツムリに向かって飛び跳ねた。

顔を合わせると両者の動きが止まる。

言葉を交わすことなくただジッとジッとしている。






しばらくして、背負っている貝の上に乗った。

カタツムリは動き始めて残りの蛙もそれに同行する。

これではまるでバスのようだ。












神竜寺麗華はただ、それに和んでいた。

傘を渡すという仕事を少し忘れてジッと見つめていた。




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