第二十八話【頼まれ事】
(ピリリリリッ ピリリリリッ)
学校が終わりいつものように図書館で本を読んでいると
突然携帯電話が鳴った、音量は最小にしてるため周りを驚かせることはない。
読んでいる本を元の場所に戻し一旦外に出る。
誰からか確認すると兄の要からだった。
「もしもし、麗華?今何処にいる?」
「お兄様。私は図書館ですが・・・どうしましたの?」
「図書館か、近くで良かった。
いや雨が降りそうだからちょっと頼み事をしたくてな。
父さんが今太陽デパートにいるらしくて、傘を持っていってあげてほしいんだ」
天気予報では今日は晴れるという知らせだった。
降水確率10%で傘は必要なしだと。
だがそれが嘘を付きどんよりと雲が漂っている。
先程まで晴れていた空は一変して暗くなっていた。
本を読んでいた彼女には変化が分かっていなかったらしい。
「俺は近くのコンビニにいるからさ、頼むよ」
「分かりましたわお兄様」
ポツポツと雨が降り始めてきた、サラリーマンや生徒が急ぎ足になる。
母の珠枝が『念のため』と言って鞄の中に折りたたみ傘を入れてくれていた。
これで鞄も自転車も濡れることはない。
用事が済んだらメールでありがとうとでも伝えようか。
歩くと意外と距離があるが、自転車だとすぐだ。
コンビニには僅か3分で到着することが出来た。
外で要が手を振って待っている。
「悪いな、いつものように本を読んでたのに突然連絡して」
「もう12回も読んでいる本だったので気にすることはないですわ。
ではお兄様、傘を渡してくださいな」
コンビニで売っている100円の安い傘。
それにもう一つビニール袋を手渡した。
確認すると中にはホットコーヒーが1つ。
父に対する気遣いだろう、少しずつ気温も下がってきている。
「今日は太陽デパートで神戸ティガースのファン感謝祭がやってるんだ。
それでスポンサーである父さんも呼ばれたみたいで・・・
傘持ってないって母さんから聞いて、連絡したんだ」
「お兄様はこれからどうしますの?見たところ傘は持参していないようですけど・・・」
「合羽着てランニングする、部活自体は休みだけどな」
キャプテンだからこそ誰よりも責任感を持たなければいけない。
自分がしっかりしていなければチームワークは生まれてこない。
部活が休みでも時間があればこうして雨の中でも走り込み。
冷静ながら情熱的な心も持っている。
「では冷めない内に行きますわね、お気をつけてくださいな」
「麗華もな、よろしく頼んだぜ」
カゴにビニール袋を入れて、太陽デパートへ向かった。