第二十二話【須網復活】
「・・・それから私は1年間、ずっとリハビリを続けました。
どんなに苦しくても・辛くても・痛くても。
その度に友人や監督が待ってくれていると考えて乗り切りました」
またそれだけでなく上半身の練習が疎かになっていたため
就寝時間には握力を鍛えたりダンベルで腕を鍛えたり。
それでももう逃げだそうとは思わなかった。
最後の夏に全員で甲子園に行くという強い思いが生まれていたからだ。
それが恩返しだと思った。
半年後には、何とか松葉杖無しでも歩けるようになった。
それでもまだバランスを保つことは難しい。
しかし少しずつ治っていく自分の足を見て希望も出てきた。
夏までに完全な姿を見せようと。
先輩達も病院に来てくれた。
『これ読んで打撃のフォームチェック、想像だけでもいいからしておけ』
プロ野球選手の構え方が書いてある雑誌。
怪我をしてリハビリを続けている彼にささやかなプレゼントだった。
「試合は全部観戦しに行くからよ、絶対甲子園行けよ!!」
「・・・はい!!」
なかなか眠れない時にこの本は非常に役立った。
想像通りにいかない事も多いが大きな参考に。
そしてもう一つはビデオだ。
マネージャーがベンチから撮影してくれた試合の内容。
相手投手の癖を見抜く練習もするようになった。
監督達もずっと厳しい練習を続けながら須網の復帰を待った。
夏も秋も残念ながら敗れてしまったが
それでも全員は待ち、一つの夢を追い続ける。
守備の要が戻ってくれればと感じていた。
そして10月、須網剛は退院した。
金具を抜くまでが大きな時間を有した、結果1年と1ヶ月。
もう何も使わずに歩くことが出来る。
軽い練習から体を慣らしてまた華麗な守備をすることも出来る。
下手すれば選手生命も終わる危険性もあったが
彼は治療を続けてようやくグラウンドに再び立つことが。
「ただいま、みんな!!」
「おかえり、須網!!」
最後の夏に向けてようやく再スタートを切る。
彼の怪我がよりチームの結束が高まった。
怪我の功名とはこのことだろう。
早速グラブを持って、ペアを作ってキャッチボールから始めた。
軽いトスバッティングで更に打撃の調整を行う。
次にシート打撃で好調を持続。
長打力が付けば攻守揃った一流選手として彼も通用する。
そんな須網に足りなかった力は
病院内で一度も欠かさなかった筋肉トレーニングのお陰で解決された。
足の調子も良く、痺れが来たりなどと言った事もなく
送球も安定している。
普段の跳躍力も戻りチームの守備力は確実に上がった。
後は本番にその動きが出来るかどうかだ。