第十三話【深夜のニュース】
「・・・・・ふぅ・・・」
彼女、麗華は現在自分の部屋で勉強をしている最中だ。
深夜1時。当然のように起きていて当然のように勉強をする。
この15年間変わらない生活・勉学スタイル。
テスト前日でも、修学旅行の前日でも、どんな日でも。
一度たりとも止めずに集中力を切らしたことのない。
そんな彼女に小さな変化が訪れていた。
(5年連続最下位と沈んでいた神戸ティガースを3年でリーグ優勝にまで導いた・・・)
食事の時に見たテレビニュースだ。
名将である須網剛監督が勇退を発表したあの場面だ。
あの時も何か考え事をしているようだった。
何かすることを決めたら完了するまで手を止めないのがスタイル。
そんな人物が僅か1分だが目を奪われているような姿を見せた。
一度だけだが彼女は野球観戦に行ったことがある。
『助っ人として出場してくれたお礼がしたい』と同級生が言って
そのお礼とは甲子園球場本拠地である神戸ティガースの試合だった。
当時のチームも強くなかった。
貧打、投手陣の弱さと弱い部分を語れば天下一品。
セ・リーグ6球団の中で最低とも言われた球団。
しかしどんな時にでも応援してくれるファンは大勢いた。
誰もが憧れる甲子園球団、弱くても頑張っている選手達。
どれだけ負けていても最後まで全力で声を出す。
麗華の同級生もそう思い一度見て貰いたいという気持ちがあったのだろう。
そんな小さいながら大きな存在である神戸ティガース。
彼女が応援に行ったからと言って試合に勝てたわけではない。
結果から報告すると7-5で接戦だったが負けてしまった。
いつも通り投手陣が打ち込まれてしまい、惜しくも敗れた。
打線も普段よりは繋がりが良かったが後一歩足らず。
前半に大量失点を許したのが痛かった。
勝敗には拘る彼女からしたら負けたら意味がないと冷めた目だった。
開始早々失点した時には既に失望という気持ちが出た。
初めから差を付けられて勝てるわけがないと。
まるで予言者のように頭の中でシミュレーションをしていた。
それでもファンは相手チームの選手インタビューの時間であろうとも。
応援席から送られてきたのは拍手と『お疲れ様』と言う声。
どうして負けたのにこんなにも人々は盛り上がっているのか。
全くと言っていいほど理解することが出来なかった。
ただ、その気持ちが後に少し理解出来るシーンが1つあった。
9番の打順に代打を送った監督。
『今更何も変わるわけがない』と呟いて座っていた麗華だった。
相手投手は好調で例え安打が打てたとしても続かない、と。
まるで解説者のように心の中で言っていた。
だが何も変わるわけがないことはなかった。
1点追加となる代打本塁打。沈黙していたベンチが突然盛り上がった。
応援席も黄色のユニフォームを着用したファン達がその場を飛び跳ねる。
そこからティガースの反撃が始まった。
今まで2安打と貧打線だったが続く1番も右翼線を破る三塁打。
2番も一塁手のグラブを弾く強力な打球でタイムリー内野安打。
3番・4番・5番も甘い球を逃さずに外野へと弾き返した。
圧倒的に負けていたティガースの導火線に点火したあの瞬間。
珍しく彼女が感情を前に出した場面だった。
大きく自分のチームの流れを変えた。
水を得た魚のように高ぶった感情を抑えきれずその周りを飛ぶ人々。
その光景をしっかりと覚えている。
たった一つの采配で負け試合を勝ち試合にまで持ち込ませようとした。
たった一つの采配で此処にいる大勢の人の心を動かした。
世界的有名である神竜寺グループも新発明を行い、一般人から素晴らしいと言われる。
しかしそれは長く続くものの大きく心を動かせることはない。
『また発明を行って新たな品物が完成したらしいぞ』という噂話。
それはただの他人事で済む。
1つの出来事で何万人いるという観客を笑顔にさせた監督の采配。
多少忘れかけていたが、神戸ティガースと聞いて彼女はそれを食事中に思い出したのだ。
「・・・少しだけテレビを付けましょうか」
不思議と頭から離れない、野球が好きというわけでもないのに。
どちらかと言えばただ球を投げて打つだけの遊び。
助っ人として出場した時も特別な感情は持ち合わせていなかった。
プロになるわけでもない。それだけでこれから先、生きていける保証はない。
そんなことなら将来生きていく中で役に立つ勉強をした方が良いに決まっている。
(ピッ)
「深夜3時となりました。ここでニュースの時間です・・・・・」
もう深夜3時、時間が経過するのは本当に早い。
ノートを開けて・教科書を読んで・問題集を手にとって。
あっという間に2時間は既に過去の物となってしまった。
しかし今回に限ればこの時間は決して無駄では無かっただろう。
違うことを考えたという事は今後に影響するかも知れない。
悩むことは大事な事だと自分に言い聞かせる。
ニュースは明日の天気予報、その日の出来事を伝えるだけのものだった。
既に食事中に見ている物なので聞き流す。
事件があろうとも自分の日常に影響するわけではない。
二重に覚える必要はない物には目を通さずにノートに目をやる。
「それでは一旦CMに入ります。
この後、須網監督の記者会見の中継を・・・」
(ピクッ)
須網監督と聞くだけで体が反応してしまった。
明らかに今彼女はこの事に頭がいっていると確信した。