第十二話【小さな変化が】
「須網監督は、5年連続最下位と沈んでいた神戸ティガースを
わずか3年でリーグ優勝にまで導いた名将です。
その後も監督業を続け初となる日本一を達成しましたが・・・
今年になって病気が悪化してしまい、今年で勇退することを発表。
ティガースファンはもちろん、他球団からも大きな拍手が送られ・・・」
須網剛は選手としても素晴らしい活躍でチームに貢献した人物だ。
彼の守備は鉄壁で遊撃手に飛べば自動的にアウトとまで言われた。
プロ13年目で引退し、1軍の守備・走塁コーチに就任。
50歳で神戸ティガースの監督に。上記の通り素晴らしい結果を残した。
「須網監督勇退か・・・偉大な人物だったな」
「病気がなかったらもっと続けてただろうなぁ・・・
采配もっと見たかったよ・・・」
父も兄も大の野球好きで子供の頃は球場に直接応援にまで行った。
地元であるということから太陽デパートの近くにある球団。
甲子園球場が本拠地である神戸ティガースを。
グッズも持っている。特に気に入っているのは背番号『39』のシャツ。
大学生の彼だが休日を使って応援に行く時は着用して球場へと向かう。
『俺もプロ野球選手になってやる!!』とも要は思っていたが
怪我をしてしまってからはバスケットボール部に所属するようになった。
「お父さんはこの人と会ったことあるんだよね?」
「うむ。スポンサーの依頼などで時々顔を合わせる事があった。
須網監督は当時52歳だったがそうとは思えない顔付きでいたよ」
選手時代はCMに何度も出演依頼が来るほど甘いマスクの持ち主だった。
『月間ティガース特集』では活躍していたこともあり表紙に半分以上出ていた。
ファンを誰よりも大切にする球団の宝であることは間違いない。
「・・・・・・・・」
「麗華?どうした?手が止まってるぞ」
「・・・・・・・・」
家族全員が不思議そうに見る。突然彼女が箸を止めたからだ。
食事中でもテレビを見ることは当然前々からもあるが
決して口を止めることもなく、箸を止めることもなかった。
そんな彼女が今小さな変化を見せた。
テレビを見たまま動かない。
「・・・・・・はっ!!」
「あ、気付いた。どうしたの?」
「な、何でもありませんわ。ご心配なく・・・」
しばらくするとまた動き、いつものようにご飯を食べる。
但馬牛も予めお皿に入れていた量だけをタレに付けて口に入れる。
その食べる姿は日常の用に落ち着いた感じではなく少し急いでいるように思う。
食べ終わって食器を水に付けてから自分の部屋へと向かっていった。
しかし何かが起きたと言うことだけは全員感づいていた。