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第十一話【分岐点】

「ただいまですわ、お母様」



「お帰りなさい麗華。どうしたの?さっきメールを見たんだけれど・・・

ご飯の準備をしようとしたら急に来たから驚いたわよ」





「すみません。太陽デパートでタイムセールスがやっていたので・・・

お肉足りないと言っていましたわよね?ですから買ってきましたの」





「!!但馬牛じゃない!昨日言ったことを覚えていてくれたの?




買ってきてくれたなんて・・・ありがとう、麗華」






人の喜ぶ顔は何度見ても良い。自分までも嬉しくなるからだ。




『自分は良いことをした』とも思えて心の中が一杯になる。

褒められるとは小さな幸せ。

こうして頭を撫でられることもちょっと嬉しい。






いつも通り鞄を置いてくれて、一足お先に入浴を済ませる。

この間に母はみんなに但馬牛を買ってきてくれた麗華を事を話しているだろう。



早く頭も体も洗い終えて食卓へと向かいたくなってきた。





髪を乾かせるのも後にしよう、いつもより早くに終えることにした。








「おぉ麗華!高級な但馬牛を買ってきてくれたんだな。

いくら支払った?その分のお金は出すぞ」




「いいですわ、お父様。どうせ持っていても普段使うことはないですもの。

私が買いたくなったから買っただけですから」




「本当謙虚だな、貰っていて損はないだろうにさ。

じゃあ父さん俺が貰ってもいい?たまには食堂に行ってみたいんだ」






麗華が受け取らないと言うことで兄の要が受け取ることになった。




普段は2人共、珠枝が作ってくれるお弁当を食べるから寄ることはあまりない。

ただ人気者なので友人に誘われることが多い。

何回も断るわけにもいかないので次は一緒に行こうとこちらから誘ったらしい。





「じゃあ麗華、お前から要に渡してくれ」




「分かりましたわ、はいどうぞ」




「お、センキュー♪」






運動部に所属していると言うことで遠征費が必要になる。




そのためお金の消費は結構大きなものだ。

かと言って毎回毎回両親にお金のことで頼むのも辛いもので。




遠征費だけでなく自分が欲しい物も買うので。






「太陽デパートどうだった?楽しかった?」





「人が多かったですわ」




彼女らしい感想だった。











「そう言えば、麗華はもう谷岡高校を推薦で行くことが決まったんだよな?

良いよなー俺は高校大学共に筆記試験だったからさ」




「落ちる気なんてないけどやっぱり緊張するわよね・・・」




「推薦の方が無駄な時間が使われなくて助かりますの。

問題は簡単ですし復習にしかなりませんし」




相変わらず余裕の態度で。




不安という文字は彼女の頭にはないらしい。

2人も優秀だが互いに筆記試験で高校・大学に入学した。



高いレベルの高校の推薦は難しく、少しの不安があったためそちらにした。






後は春を待ち、中学を卒業するだけ。




それまでは塾も休み。





当分勉強が出来なくなるのは少し困るが・・・

家族で何処かに旅行に行くのも楽しい物かも知れない。

彼女の計画書は春休みの間だけ少し変更されるのだろうか。





「お肉が焼けたわよー」




「おー!!いただきまーす!!」






要は肉が大好きで、野菜は得意ではない。



彼が真っ先に食べれば最後に焼けた野菜などは他の者が食べる始末に。

最近では少しだけ食すようになったようだが。





「野菜を先に食べなければ肉を食べることは許さんぞ」




「う・・・父さんは厳しいなぁ・・・」





(アハハハッ)





やることが済んでいるとこうした雑談がとっても楽しい。




あの努力家の麗華もこういった場は大好きだ。

日頃自分が頑張っているために寄り道などもしない。

自分から楽しみを求めることがないために、小さな事が幸せに感じる。





高校に入学した後もまた中学のような勉強の日々が続くと思われるが

これはこれで少しの面白味として受けることも出来る気がした。







「あら、九時になったわ。テレビを付けましょうよ」



「何かニュースやってるかな?」







リモコンは麗華の近くにあった。




手を伸ばしてしっかりと持つ。

ついでに電源も入れてと言われたのでスイッチを押す。










(・・・それでは、続いてのニュースです。

本日プロ野球12球団の1つである神戸ティガースの監督である

須網(すあみ) (たけし)(62)監督が今年で勇退することを発表しました・・・)








この1つのニュースが彼女の今後を大きく変えることになるとは

まだ誰も知るよしもなかった。



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