お手本通りになぞるだけ
いつの間にか倫理観0
謎さ100
令嬢と言えない率100へ。
28歳、婚期スレスレ縁談なし彼氏なし。もはや仕事が恋人だと言わんばかりに、くたくたになるまで働いて、自棄酒して寝る。二日酔いに苦しみながら限界スレスレまで働いて、またストレスで自棄酒。仕事のない日は家にある紙箱を蹴って殴って、ズタズタにする。そんな毎日。
この生活習慣が定年退職の日まで続くと思っていた。
その転機は突然訪れた。私がいつものように身体に酒を流し込んで、ベッドに倒れ込んだ次の朝。目が覚めると私は二日酔い特有の倦怠感や吐き気など全く無いことに気付いた。今日はラッキーだな。そう思いながら腕をのばした。そのときに自身の目から得た情報は二日酔いが無いことよりも大きなものだった。
「こんなにかわいい柄のパジャマ着てたっけ…?というか私、昨日服着て寝たんだっけ…?そもそもこんなに部屋が広かったっけ…?」
いつもよりも壁が遠くに感じる。それにベッドがでかい。部屋の色は、なんだか趣味が悪い。なんというか、全体的にピンクっぽい。
私が寝惚けているのか疑っていると、可笑しなことが起こった。「お嬢様、お目覚めになりましたか。」という声が聞こえる。一人しか住んでいない家。且つ、一軒家の私の身にはこんなことが起こりえないのだ。
私は恐怖から身構えた。
ガチャリという音ともに扉が開く。私は叫んだ。それを聞いて、部屋に入ってきた人は私に言った。
「どうなさいましたか!お嬢様!シスウお嬢様!」
その人はアニメや漫画でしか見ないようなメイド服を着た老婆だった、その人が近づいてきたのだ。
それでも、相手は老婆だ。攻撃性は無さそう、殺意は無さそう。
そう信じて、感謝を述べた。
「御心配ありがとうございます。少しびっくりしただけです。」
すると老婆は泣き始めた。
「シスウお嬢様が、シスウお嬢様が…、敬語で…私めなんかに感謝を…。孫にも伝えなくっちゃ。あぁぁお嬢様ぁぁ、ご成長なさいましたね。それでも、私めなんかに敬いなど必要もありません。お話を聞いていただけるだけでも感激でございます…。」
この時点で、私が昨日とは全く違う状況に置かれていることはわかった。実は私はどこかの財閥のご令嬢で…、隠し子で…、あるいは、ここが異世界でチートを持ってる転生者で…。などと大きく想像を膨らませた。
またぞろぞろ多くのメイド恰好の女性が入ってくる。彼女らは私の機嫌を取りながら、私に着替えるように話した。私は言う通りに布団から立ち上がった。そして、一人によって持ってこられた姿見によって、今の状況はきっちりと分かった。
目の前に映ったのは昨日の私とはかけ離れた容姿の良い美少女だった。髪は青く、目はほんのり赤い、もちろんプロポーションはばっちり、日本人でも、海外の人でもありえない容姿だと思ったが、何故か見覚えはあった。
私はその姿見に釘付けとなった。そして数秒眺めて分かった。
シスウという名前、青髪赤目。私の過去の記憶が鮮明によみがえってきた。彼女は、私が高校の時にやり込んだゲーム、『最愛の救世主』の敵キャラだ。彼女は25ルート中の2ルートを除いて、必ず何人かの攻略対象を殺すという殺人鬼だった。そんなゲームの記憶が未だ鮮明に残っている。全ルートを回収して、何週もした。記憶上彼女が誰も殺さなかったルートは、逆ハーレムエンドと結託エンドだ。
さて、そんな悪魔が鏡の前に居る。つまり、はい。転生…したんですね、殺人鬼に。
そんなことを考えているうちに、私は着替えさせられ、そして今大扉を前にしている。
私はその部屋に入る。「おはよう。」
私の挨拶に3人が素っ気なく挨拶を返し、1人が「おぉおぉ我が愛しの娘よ…明日から寮生活だとなると寂しくなるな。今日くらいはこの父になにをねだってくれて構わん…。精一杯甘えなさい。」と長い言葉を言っていた。
私は「ホント!?」と飛びつきたい感情を抑え、「ありがとうございます、父上。」と言葉を返して座った。すぐに食事が始まった。テーブルマナーなど知らないが、体が覚えていたようで特に何かを言われることは無かった。
食事が終わり、私はメイドに席を外させて、一人集中して部屋で座って考える。
とりあえず私はゲームの悪役、シスウに転生した。このことを疑うつもりはない、非現実的とかはどうでもいい。働かなくて良さそうな状態になったから、そう信じておこう。この瞬間、私は仕事という存在を完全に頭から捨てた。
さて、これからのことを考えよう。これから私がどんな振る舞いをするのか。計25のルートがあるが、1つのルート以外はヒロインか攻略対象に殺されるのだ。その1つのルートとはヒロイン被懐柔ルート、つまり結託エンド。特殊バッドエンドの一つで、ルートへの突入条件も難解だ。クラス内親交拡大の目的で開かれる舞踏会の日までの10日間で、攻略対象者全員に一回ずつ話しかけたうえでシスウに300回話しかけるという、気付いたやつは何者なのかと言いたくなるような条件だった。
もし、私が小説や漫画の主人公なら、このルートを進むか、推しを眺めるために存在しない平和ルートへ進もうと頑張るのだろう。でも、私は主人公なんかではなく一般人だ、そんな大層なことをしようとは思わない。そもそも、私の推しはヒロインだった、いやそうではない、私はヒロインの視点が好きだった。だからこそヒロインを見ていたいなんて感情はない。
私は、私が一番心地よい方向に進む!
一番心地よいルート、それは主人公にとってのバッドエンドなのではなく、白紙エンド。
ヒロインに倒されたシスウが、ヒロインとの親愛度が最も高い攻略対象を道ずれにする。最後まで曲げずに同じ態度を貫いて、自身のわがままを押し通す。初見時、私はそんな悪役に腹を立てていた。でも今、私はそんな姿を嫉妬し、憧れている。
「私は、最高に爽快な殺戮ショーを始めるのよ!!」
そう思ったはいいものの、この一日はただ考え込んでいるだけで終わってしまった。
翌日になり、私はとうとう家を発つ。寮生活なため、これは一時的な家出ではあるのだがシスウにとってはこれが今生の別れになっている。
馬車に揺られて、とうとう物語の舞台、学園へと足を踏み入れた。
夢、希望、人脈、愛。各々が各々の野望を手に、ここへ入学する。そこに現れるのはヒロイン、名前は自分で決めるタイプなので知らないが、初日に事件を起こす張本人だから簡単にわかる。
私は式が始まるので、自身の席へと座した。
「これから、歓迎の儀を…」
これから長ったらしい話が始まるのだと、皆覚悟をし始めただろう。だが、展開を知っている私は気楽だ。なぜなら…
「わぁっ!!!なんで?魔法が、暴走して…。み、皆さん、に…逃げてください!!巻き込まないためにも!!」
黒い髪を持つ少女が、式中にも関わらずに大きな声で叫び、目がくらむような明るいピンク色の巨大魔法を頭上に抱えてしまうからだ。
そしてここで現れるのが攻略対象たちだ。頼りになる先輩、強力な教師、優秀な同級生。いやぁ…いいねぇ。こんなキラッキラのステージを私が粉微塵にできちゃうんだからっ。
元の展開では一応シスウも加勢していた、なので私も微力しか出さずに協力しようか。それにしても圧巻だ。スチルでは見ていたあれがリアルで見ると、こんなにもカラフルな魔法の激しいぶつかり合いだったとは。
「まぁいい。黒色。」私は小声でつぶやき、唱えた。
その魔法は少しずつ大きくなっていく。ピンポン玉サイズになったタイミングで、詠唱を中断した。あとは簡単だ。魔法を逆手に持ち換えて投げるだけ。
「ぽいっとな。」
設定では、魔法に対してダメージを与えるとその威力を弱めることができた。私もそこをめがけて投げる、しかし肩の力が足りなかった。私の魔法はヒロイン本人に命中してしまった。その結果、彼女はバタリと倒れ、頭上の魔法は消失した。
やばい…、これで展開が変わっていたらどうしよう…。私は焦りから三歩ほど引いた位置で見守る。
…。
…。…。
ヒロインが起き上がった。お早いお目覚めだ。私は「ふぅ」と一息ついてその場を後にした。
後日、式が中断され、今年の分は正式に取りやめとなったことが詳細に話された、ひやひやしながらも、私はそれを聞き終えた。
さて、私はこれから10日間、自由時間を校庭に拘束される。これも仕方がない。これをしておかないとルート通りとはいかない。ついでにヒロインがどのルートに進むのかを見ておこう。
今日は休日、私は校庭に立って思った。
(この広い空間に全ての攻略対象が居るのは、何か面白いものがあるね。)
早速ヒロインが寮から出てきた。彼女は一目散に私の方へ走ってやってきて睨みながら言った。
「この前は、ありがとうございました。私は、ミチェ・ライソクと申します。得意な魔法は白桃色です。同学年としてこれからよろしくお願いします。」
私はさわやかな笑顔で言った。
「ミチェさん、よろしくお願いいたしますわ。私の名はシスウ・キョリストー。得意な魔法は…言った方が良いのかしら?」
彼女は大きくうなずく。私は本筋通りに嘘を吐いた。
「改めて。得意魔法は紫水晶色ですわ。」
彼女はそれを聞いて颯爽と私の元を去っていった。彼女が次に向かったのは先輩の騎士、クロス・スリッテス。彼は魔法が使えない分、剣技が最高格。
次は同学年、王道中の王道である皇太子、ステイリ・エルストロニーア。王族専用の魔法、金色が強力。
そして今度は学園最強の教師で、国最強の魔剣士、エンス・シタウオス。全魔法を並み以上の威力で放つという強力な砲台でありながら、接近戦だとしてもクロスに引けを取らないレベルの存在だ。
彼女はこの3人に話しかけてすぐ去った。なので、私も寮に戻った。そして寮内で思ったことを洗いざらい紙に書き留めてから寝た。
[厨パじゃない。なによ、あの最強3人集めましたみたいなメンバー。たしかに1日に4人までの制限はあるけれど、私に話しかけたうえでのあれは宣戦布告じゃない!睨んでたし。というか、睨むって何よ!そんな機能は無かったじゃない。いつもニコニコと周りに笑顔を振りまくのがヒロインなはずでしょう?ヒロインがしていい顔じゃなかったわよ、あれは。]
翌日は普通に授業があった。久々の"授業"というものをかみしめながらも話を聞かず、私は門出で貰った経験値石をつまんで経験値を得た。
そして放課後、私のレベルは6/220から32/220へと上がっていた。そんな状態で、私は昨日の場所で立った。彼女は今日も私に話しかけ、そして昨日と同じ人間に同じ順番で話しかけている。NPC化されたヒロインがここまで効率中だったとは。私が感心しているうちに彼女は去っていった。
そこから舞踏会前日まで何も起こることなく、常に同じ行動のヒロインが私の目に映った。
しかし、その前日に私的大事件が起こってしまった。それは授業後に校庭へ行くまでのタイミングでヒロインに話しかけられたのだ。
「シスウさん、どうか変な気を起こさず平和に居てくださいね。あまり実力行使はしたくないんですよ。だって、虐めているみたいになっちゃうじゃない。」
ヒロインは、攻略対象達に見せる自然な笑みではなく、とてつもない奇妙な顔で笑っている。こんな顔を私は見たことがなく不気味に思い、すぐにでも下がりたかったが我慢して無視を貫き、いつもの場所に立った。この日、校庭で彼女が話しかけてくることは無かった。
そして舞踏会当日、何事もなく物語が進んでいくのが目に見えて分かった。ヒロインのミチェが皇太子と踊っていたため、最愛はそいつで良いだろう。
そのダンスの裏、私は最初の事件を起こす。展開通りに、攻略対象十一人のうち最も関わりの薄い一名を透明色で刺し殺した。彼は淡青色が得意魔法の騎士、クルハロストル・サーベロだった。その断末魔なく倒れ込む姿は、あまりにも趣がなかった。周りの反応も遅く、気付かれるのは彼女らのダンスが終わってからだった。
手本通りにきっちりと動いたため、私が疑われることはない。そう思っていた。
でも実際は違った。彼女が、ミチェが私に疑いの目を向けさせた。加えて残念なことに彼女が選んだ3人もそれに賛同した。彼女は私の耳元に来て、誰にも聞こえないような声で囁く。
「言ったでしょう?変な気を起こさず、平和に。と。」
こんなシーンは無かった。どのルートでも存在しない、ということは彼女はNPCではないのだろうか。それに、彼女は特別私に目を掛けている。ここから考えられることは一つ。
"ミチェは展開を知っている"
そんな予想を立てながら、私はこの場を技巧なる演技によって鎮め、結果的に私とミチェに対する弱い注意程度で閉じられた。
おそらくあのヒロインも転生者だろう、そうであるとしか思えない。ルート通りに勧めたい私からすればこれは好ましい話ではない。それでも私は殺戮を続けるしかないのだ、自分自身の悦楽のために。
私は彼女を攻略する手立てなんぞ考えてはいない。ひたすらに元の展開通りに動くだけである。展開的に次に誰かを殺すのは、6日後。この間に、4人目の下ごしらえをする、そのつもりだった。しかし現実はそう上手くいかなかった。この空白に、前触れなく黒い蝿が私の周りを常に飛び回り始めた。十中八九見張りなのだろう、邪魔くさいものだ。私はこのことを学友に話した。
「本当に、粘着的なストーカーみたいで気味が悪くて嫌になってしまいますわ。」
彼女は小声で「ストーカー、とは…?」とつぶやいた後に、それをなかったかのように「たしかに、それを気味が悪いのは同感です。いっそのこと直接言ってしまうのはいかがですの?」と提言した。
私はその言葉を参考迄と受け取り、直接に言うことは無かった。
それでも、6日目となれば無視を貫いていた私も、我慢の限界を迎えようとしていた。
そして、ストレスはボーダーを少し超えた。そのままの感情で、私は一言、彼女に発した。
「ちょっと前くらいから、こそこそと何をしていますの?ストーカーみたいで不気味ですの、健康被害が出そうで嫌になりますわ。早々に立ち去ってくださいまし。」
彼女は睨んだうえで、はしたなく声を荒げて言った。
「ストーカーですって!?私があなたにそんな感情を得る人間に思えますか?私にとってあなたは、理想の道内の茨でしかないんです。不気味だのなんだの好き放題に言って、あんたの所為で…!あんたがいなければ、私は推し達とデートしているころだったはずだったのに。それでも、将来の旦那様が悲しまないためにはこうするしかなかったんでしょ!!!殺人なんてやめて!!平和に生きましょうよ!!」
周りの視線はここに一極集中された。皆耳を澄ませて聞く。
反論せぬなら鎮めれず。黙り込めば、認めたと受け取られて正式な人殺しとなる。私は精一杯の言葉で応戦するしかなかった。そんな状態でも、決して熱くなってはならない。大人であった私の経験談だ。
「あら、言葉遣いが少々荒れておりますわね。」
私は斯うつぶやいてから、あからさまな態度で話した。
「それにー、推し?デートしているはず?とはいったい何の話をしているのでしょうか、全くわからないのですわ。そもそも、殺人なんかやっていませんし、あなたはこの前も同じようなことをして怒られたばかりで。となればあなたがこれからすべきことは一つでしょ?そういえばー、その件、私が怒られましたねぇ。未だに納得がいっていないのですがねぇ。勝手に無実の人間を疑ってきたのはそちらだったというのに。暴論で無理を通して無罪の私を犯人に仕立て上げようとしていましたのはあなたでしたのに。いやぁ、謝るべきは貴方のみなはずでしたのに。もしかして、これを今日もまた引き起こそうというのですか!?冤罪で人を陥れるのがお好きなのでしょうか。やめた方がよくってよ。同学年からの忠告ですわよ。」
彼女は黙り込んだ。その様子を周辺にいるすべてが見守った。彼女はそれに気づき、顔を隠してスタスタと去っていった。
さーて。次の攻略対象をやりに行きますか。
私は暢気に歩いている一人を見つける。クッタフ=ロール、赤髪の熱血漢で青色を得意とする魔剣士、最終レベルになると強いがそこまではぼちぼちな大器晩成タイプ。
私は今日、こいつを殺す。嬉しいことに、彼は女性と並列して歩いている。であれば…。
私は黒装束に身を包み、素早い動きで女性を拘束し、クッタフから少し離れた。
名付けるまでもなく"人質作戦"だ。展開上、今回は殺したとしかなかったのだから、当然方法などどうだっていい。ただこの時でこいつを殺せればそれでいい。
私は少し声を低くしつつ、人質を盾に言う。
「魔剣士…だったか。将来は騎士にでもなるつもりだろうが、やめておいた方がいい。お前は隣にいた人間すら守ることができないんだからな。それで?どうする?魔剣士として私と戦うか、臆病の雑魚として逃げるか、この女を解放させてお前が死ぬか。選ばせてあげよう、吾メには優しさがあるからな。」
鋭く尖らせた魔法をじりじりと人質に近づけていく。
「早く早くぅ。殺しちゃうよ?この子。3、2、1」
彼は熱血漢ながら、冷静な判断ができる人間であることを私は知っている、何せはじめに攻略した時はこれを選んだのだから。彼はカウントに焦る様子を見せずに口を開いた。
「わかった。その人を解放してくれ。」
どうしようもない状況ならば確実に救える命を救う、それは自分自身を除いての話だけれど。私は先に彼を殺すことにした。ゆっくりと手に持っている魔法で彼の喉を突き刺す。刺されている間、彼は何も言わず、抵抗せずに私を見つめていた。
私は喉に穴が空いた彼の死体、その心臓部を刺した。心臓の鼓動は少し残っていた。
私は左の腕の力を緩めて彼女を解放した。相手が死人といえども敬意は払う、そのつもりでした行動だった。彼女は悲鳴すら上げずに顔面蒼白で走り去っていった。私も早急に現場からずらかった。
翌日、クッタフの死は学園内の多くの人に知られ、多くの人に悲しまれた。例のごとくミチェは私を疑った。しかし、証拠がない以上、話は平行線だった。
このまま展開通りに動こうと思っていたが、彼女からの疑いの目がこれ以上動けないほどに強くなったと感じた。彼女は私が手を出さないだろうと思い込み、クロス、ステイリ、エンスの3人を私の見張りにつけてきた。
焦りが私の中にこみあげてくる。4人目の下準備が終わらないからだ。本当は段々と話して仲良くなって呼び出して殺す予定だったのに、その話す時間は見張りの所為ですぐに切れてしまう。見張りの圧が強いのだ。目力はもちろんのこと、威圧感もあった。何度[こいつらを先に…]と考えたことか。
それでも、それはできなかった。最後に三人が揃っていたほうが気持ち良いと思えたからだ。
とりあえずで私は4人目の計画を水に流した、そして3人目が死ぬ日が迫っていた。スタイリッシュな手段、果ては攻略対象さえも決まっていない。
私は何かないかと考えたが、思いつかなかった。私の頭は落ち着いていなかったのだ。それでもひねり出したのは、二人きりの状況をいかに作れるのかに重きを置こうということだった。そのことをメモに書き留め、一睡した。
その朝、驚くほど頭がはたらいた。
「教師ならば、教えてと言えば簡単に1対1になれるわ。」という考えが思いついたが、それに欠点があることにも気づけた。よく回った頭が発想の妨げとなっている。しかしそれはセーバーとしては最高格であった。
この日も結局進展はなく、経験値石をつまむことしかできることがなかった。そして気が付けばレベルは161に到達していた。普通の大人で40、戦いによって経験値を得ている大人で90程度なのだから、このレベル値の異常さは理解しやすかった。それに、通常の攻略でもここまでのレベルまで上がったことは無かった。
そして、このレベルになって新しい魔法を体得していた。それも、結託エンドでしか見られない超レアなチート技…。この魔法の存在で、3人目殺しは簡単なものとなってしまった。
私は監視の3人に魔法を放つ。当然彼らにはこの行動が直接見えてバレるだろうが、そんなことは関係ない。新しい魔法を最小の段階で3人にぶつけた。
監視3人を無視し、私はある男を4人目に定めて話しかけた。黒髪糸目のお調子者、トラン・ラットレー。橙色を得意とする先輩魔法使い。
裏切られた人間の顔を一度見てみたかったのだ。だから彼に話しかけ、仲良くなったところを殺す。仲良くなれるかは知らないが、趣味を知っているんだから偶然を装えばイケるだろう。
「こんにちは、トラン先輩…ですよね?」
「おっ、そうだよ~。俺が、大人気で優しくてモッテモテのトラン先輩だよ~。どうしたの?もしかして、俺に一目惚れしちゃった?」
「…はい。実は…、そうなのですわ。」
「えっ…ホント?罰ゲームじゃないのか。」
「罰ゲームな訳が無いでしょう!本当に好きですわ!困っている人を手伝うあなたの姿に一目惚れしましたの!!」
「…。それでも、俺のことをよく知らないだろうから仮期間を作らないか?そこで君が真に良いと思った時には、付き合おう。」
計画通り。この男、押しに弱い。押しどころか、相手の意見を尊重しようとするがあまり自分をおろそかにしがちな性格だ。だから、簡単にオトせる。
さーて、すべきことは済んだ。明日、即席の3人目をやると決めた。もはやどうあろうがチートを手にした私が気にするべきことは無くなった。
翌日、私は堂々とレステカ・ローズを今晩の食事に誘った。レステカは唯一の同性の攻略対象で紅水晶色と、鉄紐を使うトリッキーなキャラ。思い入れはない。そして、彼女は簡単にこの誘いに乗った。
その夜、見張りのいない部屋で二人っきりの食事。あとをつけられた形跡もない。
「これ美味しいね。なんていう料理?」
そう言う彼女を横目に私は唱えた。
「暗赤色」
ゆるやかに彼女の身体が崩れていく。手足、下半身、上半身。
1分経って首だけになった彼女が何かを言っていたが、そんなことは私の知ったことではない。
私は残っていた料理を平らげ、勘定して店を出た。
そして寮に戻り、布団にもぐって彼女の顔を思い出す。正直、あの顔は女の私にもかなり刺さった。死を悟りながらも生を求め、泣くあの表情が、もっと見たくてたまらなくなった。やはり、ああいう顔が私の気分をすっきりとさせてくれる。
前までは紙箱だったけど、今は人…。それらには当然ながら大きく差があり、その中に快楽度も含まれていた。
トランはどうしようか。思考が捗り、様々な方法が思いついた。
その結果、興奮が私を突き動かし、2日後程度で彼を改めた告白のためだ、と呼び出した。展開では4人目がまだずっと先だというのに。
彼はウキウキで呼び出した場所へやってきた。一目のつかない路地裏だろうとお構いなしに、だ。
「先輩、私と…、…。っても人を殴るのが好きなのですわ!」
黒色を溜め、避けられない至近距離で放つ。
「眠りなさい。」
彼の意識はパッと消えてその場に倒れた。
私は針状の魔法を彼の身体と壁に打ち付けた。そして彼が目を覚ますまで待つ。
3分して、彼が起きて一番に言った。
「殴ることが得意って何!!!というか腕が動かない…。シスウ?どこに隠れているんだい?」
「ここだよ、ここ。」
私はわざわざ少し離れた位置から歩いて近づいた。そして一瞬微笑みかけた後、私は彼の腹を思いっきり殴った。続けてもう一発殴った。レベルが上がっていたからか、彼はとても痛そうにしていた。それを見て私はもう一度殴る。彼が言った。
「なんでそんな…ことを…」
「?」
私は精一杯の力で彼の肩を殴る。すると彼の力が全身から抜けていくのを感じた。絶望したのだろうか、そう考えて暗赤色を構え、そこに在った花をもぎ取って見せた。
「見て、これが花。そしてこれが私の魔法。合わせると、跡形もなく消えちゃうの。きれいでしょう?」
私はその魔法を手に、彼へ近づく。それでも彼の表情は変わらず無気力で生気の灯っていない顔だった。彼は言った。
「殺すのなら、死体は残してくれると…嬉しいかなぁ…真の初恋の終わりにして、真に人生の終わり…か。はは。もっと楽しい学園生活を、送りたかったなぁ。」
私の心が揺らぐ。同情なんて心は3人を殺した時点で無くなったと思っていた。今になって、それが私の中に戻ってきたのだ。私は彼を殺すことを躊躇った。本当にやりたいことが殺戮だったのに、彼の言葉で恋愛がしたいと思った。バーチャルだろうが、転生後だろうが、目的が何であろうが関係なしに、初恋というものを経験したくなってしまった。
私は彼を殺すことを、止めない。
単純に顔がタイプではない。性格も苦手で、なんだか浮気をしそう。
発動中の魔法を、赤色に切り替えてから彼の心臓を刺した。現場の片づけ等は何もしないでその場を後にした。
そういえば、好みの顔ってなんだろう。皆がトランの死体で騒ぐ中、一人歩いて考える。メインじゃない人、所謂モブを見ても「これだ!」と感じることはない。攻略対象達を見ても…。
その時、私の脳が"GOサイン"を出した。
(これが…好みの顔…!)
明るい茶色髪に、真っ黒のメッシュ。黄色い瞳で、少し幼い印象の顔。背は高い。
「誰?」
私の記憶上、こんな人物は攻略対象に居ない。彼はステイリと行動を共にしていた。しかしこれまでこんな人物に気付かなかったなんて、私…、節穴だな。
業務を淡々とこなす姿もかっこいい。すでに私の心は彼に射抜かれてしまっていた。
私は早速、行動に出る。トランの処理を終えた彼に私は言った。
「あの!私、シスウ・キョリスト-と申しますわ。お仕事お疲れ様でした。こちら、サンドイッチなのですが、良かったらどうぞ。」
彼は働いて少し悪くなった目つきで、そのサンドイッチを手に取り中身を確認してから食べた。
「美味しかった…ですか…?何せお料理はあまりしないので…。」
「ありがとう、美味しかったよ。丁度、私の好きな具材だったからね。」
彼の声は思っていたより高かった。しかしそれが何であろうか。私の目に映る彼の言動一つ一つがいとおしく思える。私は攻めた。
「お名前…聞いてもいいですか。」
彼は少し言い淀み、5秒程してから口を開いた。
「ミ…ミッシェル・ラ…ライ、ライソード。はい、ミッシェル・ライソードです。」
ミッシェル・ライソード…なんて甘美な響き…。その名にうっとりとしながら私は寮に帰った。
寮内で未だ余韻が残っていて、いつもに寝ている時間があっという間に来ていた。
私は寝ようとベッドに入る。そして、睡眠一歩手前で思った。
(ミチェに最近は付きまとわれていないな。嬉しい限りだから別に良いんだけど。)
こんなことをこんなタイミングで思ってしまったからこそ、私は眠ることができずに朝を迎えてしまった。この身体では睡眠不足が前よりも重い。そのため、私は今日だけ学園を休むことにした。そしてとりあえずで昼飯時まで寝ることに決めた。その時、「大丈夫ですかー?」という声がドアの外で響いた。
私はドアを開ける。
「ミッシェル…?」
別に始業はまだであるが、彼は私の寮まで心配に来ていた。
(ここ、女子寮なんだけどな…。)
そんな考えがちらついたが、どうでもよかった。私は彼を部屋に入れた。彼は置いてある椅子に座って言った。
「最近、この学園で殺人だの行方不明だのが多いから気を付けてくださいね。私、シスウさんのことが心配で心配で来たのですよ。」
彼の視線が張本人である私にはより強く刺さった。彼は追い打ちをかけるようにまた言った。
「犯人が捕まってくれれば良いのですが…。」
私の心の痛みは増加した。騙しているという罪悪感で心が破裂しそうになる。今、眠気など疾うに無く、鼓動が速く大きくなっていく。
もはや、これが恋なのか、そう思えた。そして私は寄り道しようと決めた。
私は言った。
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでしたわ。私は、大丈夫です。昨晩によく眠れていなかったので今日は休んで寝ようと思っていたのですよ。どうですか?あなたも一緒に休んでしまいませんか?」
彼はNOと答えるようなジェスチャーをして、一礼してから部屋を去ってしまった。
残念に思いながら私は眠りについた。
そして目が覚めた時には、朝であった。
あまり寝れなかったのかと疑ったが、そうではなさそうだ。私はすぐに朝食を食べて寮を出た。
教室に着くとミッシェルが待っていた。彼はすぐに私へ話しかけた。
その行動に(もうこれ脈アリでしょ!)と、私は思った。
しかし、これですぐに告白するほど私は馬鹿ではない。5日間は告白をしない、そう決心した。
話が終わり、室内で経験値石をつまみ続けていると、あっという間に始業時間が過ぎた。
そこで、私はおかしなことに気付く。あの口うるさいミチェが室内にいないのだ。私には、ああいう人間がサボったり、病気になったりしているとは考えられない。まぁ、いないに越したことはないか。
今日も経験値石をつまみ続ける。授業なんぞここに来てからまだ一度も聞いていない。
退屈な時間が終わり、私は彼に話しかけに行った。私が校庭に出ると、探すまでもなくミッシェルはベンチに座っていた。
彼は私に座るよう、ポンポンとベンチを優しく叩いてこちらを見つめた。私の中の彼は、展開通りに遂行することよりも優先度が高くなっていた。彼のためなら何でもできる、そう思えた。
私は従い座る。すると彼は朝と同じように話しかけてきた。
「どうも、そう言えば私の性格を教えていなかったね。私、嘘と隠し事が大っ嫌いなんだよね。それで、聞きたいんだけど、今って何レベルとか分かる?」
私は彼の言動を怪しむことなく頷いて答えた。
「今は…えっと、あ。172レベルですね。」
彼は驚いた表情を見せた。そして彼はまた私に質問をした。
「すごいね…。レベルを上げる秘訣があったら聞いてもいいかな?」
私は経験値石のことを話したが、信じていない様子だった。それも仕方がない。経験値石はキョリストーの秘蔵アイテムで、他にはどの人間も持っていない。私はその石を試しで彼に渡した。
彼はその石を私の指示通りに弄った。そして言った。
「おお!本当に力が湧いてきますね。レベルが上がっている感じがするよ。これ、一週間ほど借りてもいいかい?」
私は快く承諾した。
この会話から一週間が過ぎて、私は次に殺す攻略対象をフェン・シフタッキに決めた。
彼は同学年の背が低い童顔の男で、とてつもなく性格が悪い。自身より親愛度が高い人間が居れば、主人公に嫌がらせをする。その嫌がらせも質が悪いものが多く、夜に部屋をノックするという地味なものから、別の攻略対象にデバフを掛けたり、けがをさせて行動不能にしたりと、ゲーム攻略に支障が出るものまであった。
彼を殺す理由はシンプルだ。ちょうどいいし、攻略上でもうざかったからである。
私は、彼がひとりになるまであとをつけ、そのタイミングで彼を拘束した。
彼を殴ろうと私が拳を振り上げた時、私の腕は誰かに掴まれた。
「それ、やめた方がいいよ。」
私が心酔した声、ずっと聴いていた声。聞き間違える訳がない。彼は私の手首を強く握る。痛みなど通用しないほどにレベルが上がった私には意味がない。そう思っていた。
じわじわと痛みが来る。振りほどこうにもできない。
「放して!!!!」
私は叫んだが、彼には通じなかった。が、その時、後方から声が聞こえた。
「淡青色、最大出力!発射!!!」
(助かった…。)とホッとしていると、その魔法は私目掛けて飛んできた。彼に手首をつかまれている以上、避けることはできない。
魔法が私の腹に直撃した。
痛覚が異常事態だ。痛みをこれまでより大きく感じている。
「痛い。痛い。痛い。」
その言葉を聞いて彼は言った。
「その痛みを覚えておきなさい。私の楽園を破損させてくれた報い、これだけで済むと思ったら大間違いだ!そうだ、そうだなぁ。お前の。いや、あんたの絶望した顔を拝んでいなかったな。」
「よぉ。あの時はよくもやってくれたな。」と殺したはずのクルハロストルが物陰から顔を出して言った。
「なっ、なんで…?どうして…?」
驚いた私を横目に彼は勝ち誇るように言った。
「驚くのはまだ早いよね。」
すると、彼の身体が白い光でキラキラと輝き始めた。そしてその光が解けた時、私の心はぐしゃぐしゃになってしまった。
光が消えるまでは彼のシルエットが段々と小さく、髪が長くなっているのが見えた。数秒後、彼はあの女と同じ姿になってその光の中から出てきたように見えた。そしてそれは私に言った。
「残念でしたー、あなたがラブだったのは男に魔法で変装した私でしたぁ!!!アッハハハハハハハハ!!!ばっかじゃないのぉ??NPCだと思ってたら人が入ってたんだもんねぇ!何?悪役で恋ができると思った?正常な脳のぉ、自分の意思でぇ、何人も殺しておいてイケメン高身長の男と付き合えると思っちゃったぁ?無理に決まってんじゃん!!簡単に騙されてぇ、大事なもの貢いでぇ!挙句の果てに正体は別でした!!なんてオチ、恋愛としては0点!コメディとしては100点!!いいじゃない、いいじゃない。そんなあんたでも夢が見れたんだからさ!!アッハハ!!!滑稽、滑稽。笑いすぎてお腹痛いわぁ!もしかしてぇ、転生したから何をやっても許されると思っちゃった?感じちゃったのね!主人公っぽいセリフであなたを誅してあげるわ。なんたって、私が主人公で、転生者なんだから!」
彼女は息を吸って大きく声を上げた。
「あなたみたいな悪い人!私達が、成敗してあげるわ!!!私に力を貸して!虹色」
彼女は慢心していた。彼女の手元でカラフルな魔法の球が大きくなっていく。
禍々しくどす黒い感情が私の中を蠢く。目の前で大きく、より強くなっていく球への絶望。彼女の挑発への怒り。
その負の感情が私に悪しき考えを芽生えさせた。そして、その考えに呼応するように幸運が私に起こっていた。私は腕をつかまれているだけで口が抑えられていない。
「暗赤色…」
私をつかんでいた方の彼女の手と、魔法を構えている手の両方が消え、私は手が自由になった。もう一度唱える。
「暗赤色…」
私の手にある魔法の球は以前よりも黒くなっている。
私はそれを蚊帳の外だったフェンに軽く放る。結果、その球は彼の右半身を抉り取った。私は続けて言った。
「奴隷。来なさい。」
その言葉をトリガーのように、男三人が私の目の前に現れた。私は彼らに言う。
「あの女の前で自殺なさい。」
「仰せのままに」そう言って彼らは首を切った。そして私は死体を暗赤色で消した。
「ミチェ、どうかしら?私の暗赤色は。黒色と赤色で出血したなのよ?何を泣いているの。ヒロインである主人公は全てを肯定しないと。ほら、笑って笑って?これから悪役が死んで主人公が生き残るのよ、仲間とともに。さん、はい。にっこり!」
彼女は笑わずに泣き続けている。
「ねぇ?笑わないと、『わたしが笑わなくちゃあの人が浮かばれないものっ!』って。言ってもいいのよ?そう言いながら私に虹色を打ってきなさい。あ、犠牲が足りないのね!」
私はクルハロストルの膝を鋭い黄桃色で刺した。彼女は魔法を打たない。
私は肩を刺した。彼の悶える声が聞こえる。それでも彼女は魔法を打たない。
私は暗赤色を構えた。その時、彼女は憎しむ顔で巨大な虹色を手の断面で構えた。
「蘇生や回復はできても、消滅はどうにもならないのね。」
彼女は黙って魔法を大きくさせる。それを見て私は続けて喋った。
「私は重罪人でしょ?殺しなさいよ。殺してもあなたのハーレムの人数は少ないままだけどね。」
彼女は魔法を私に放った。
「はーい、よくできました。」
私は最後にそう言う。
薄れた意識の中、今度は聞きなじみのない声が聞こえた。
「悪役転生コース、お疲れ様でした。このプログラムはここで終了となります。人生、お疲れ様でした。」
「人生?」
最後まで読んだ人は居るのだろうか。
そんな方へ。読んでいただき、ありがとうございます。
文句、文章下手だよー、という言葉をお待ちしています。
最後に、私が書いた諸々は全て自由に使ってくれて構いません。アイデアなんてありふれたものだと思っています。(被っていたら申し訳ないです…)




