合い言葉は「コックリさん」
「コックリさん、コックリさん、おいでください」
クラスの女子五人が集まって机に置かれた十円玉に人差し指を乗せていた。
机の左側には「はい」右側には「いいえ」が書かれた紙が置かれ、中央には鳥居のマークが書かれている。
「木村亜美は弘明君と付き合うべきですか。教えてください」
少女達の指がプルプルと震えだして右側へとゆっくりと動いていく。
「いや……。そっちに行かないでよ……」
亜美は真っ青な顔をしながら小声で呟くが、無情にも「いいえ」と書かれた紙の上で十円玉は止まった。
「コックリさんの占いは絶対よ。やぶったら……あの世へ連れていかれるわよ」
山下洋子は低い声で亜美を睨む。
「いい?みんな、一人が約束をやぶれば私達みんなが犠牲になる。だから、絶対に亜美には告白させないよう目を光らせておいてね」
怯える四人を見渡して洋子は神妙にうなずいた。
放課後、亜美が弘明に話しかけられている様子を四人は無表情で眺めた。
「あのよ、よかったら一緒に帰らない?」
「えっ……」
「……急に困るよな。嫌なら断ってくれ」
顔を赤くしている弘明に亜美は口を開きかけ、彼の肩ごしに見えた洋子達の表情に短く悲鳴を上げる。
「あっ、あの……ごめんなさい」
「そうだよな。こっちこそ変なこと言ってごめん」
弘明はクラスメイトの男子に「怯えられてたな」とからかわれながら教室を出て行った。
「亜美。よく我慢したわね」
「……ねぇ、もうやめない?」
「は?そんなことしたら全員コックリさんに呪われちゃうじゃん。それとも友達やめたいってこと?」
「そ、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「ならよかったわ」
洋子は話は終わりだと教室を出ていくと残った四人はお互い顔を見合わせた。
「なんか洋子性格変わった?」
「今日の洋子怖かったよね」
「まるで何かにとりつかれているみたい」
「……心配だよね」
家へと帰った洋子は鼻歌交じりで手を洗う。
「あはは、馬鹿みたい。コックリさんなんて存在するわけないじゃん。ちょっと脅してあげるだけで弘明君を諦めるんだから笑える」
鞄からノートを取り出して洗面台の上で広げる。
そこには「はい」「いいえ」と鳥居のマークが書かれていた。
「こんなのただのお遊びだっての」
そう言って洋子は十円玉を取り出して指を乗せた。
「コックリさん、コックリさん、あなたはだれですか?」
『ワタシハコックリサン』
その瞬間、悲鳴が響き渡る。
鏡に映っていた洋子は狐の顔をしていた。




