表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき私が"主"として歩む世界  作者: 餅屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第6話 *トッド視点


──コン、コン。

軽く叩く音が、静かな地下にまで響いた。


「来やがったな……」

思わず口の中で悪態をつく。

聞き間違いようもない、あの足音。王国直属の“検査隊”ってやつだ。


「ルチル、息を潜めろ。絶対に声を出すな。動くのも最小限だ」

小声で階段の下に呼びかけると、彼女はこくりと頷いてベッドの影に身を沈めた。

この街じゃ“人間”は噂だけでも充分な騒ぎになる。見つかったら、ただじゃ済まない。


「“星巡り”だな。開けろ」


金属のこすれるような声が階段の上から響く。


「はいはい、今行くっての」


できるだけ間延びした声で返しながら、俺は心臓を落ち着かせた。

扉を開けると、案の定だ。銀色の外殻、無駄のない肢体、青白い瞳──新世代の機械生命体たちが三体、無機質な光を放ちながら立っていた。


やれやれ、こいつらは本当に趣がない。

表情の一つも動かさねぇし、話してても歯車と会話してるみたいだ。


「このあたりから“人間種”の反応があった。店を改めさせてもらう」

「“人間”ねぇ……それはまたご立派なご指名で」

俺は肩をすくめて両手を広げる。

「好きに見ていきな。ただし、壊したら倍請求するからな」


やつらは無言のまま店内へと入ってきた。

床を踏むたび、金属の足音が“地面”そのものを殴ってるみたいに響く。


「ふん……ここはパーツ屋だな。反応源は……」


一体が鼻先のセンサーを動かす。くそ、噂どおり“嗅覚ユニット”付きか。

“人間の匂い”はこいつらにとって、珍味みたいなもんだ。


「……下にも空間があるな。見せてもらおう」


心臓が一瞬だけ止まった気がした。

階段を降りられたら終わりだ。地下にはルチルがいる。

一体でも降りてきたら、どんな嘘を並べたって通じやしない。


──だから、こっちが先に“嘘”を出す。

「おっと、待ちな」

俺は机の引き出しからひと束の髪を取り出して見せつけた。


「ほらよ、これが“噂の人間”の遺留品だ。昨日、裏ルートからここに持ち込まれた。まだ湿ってるだろ? 本体はいねぇよ。これだけだったんだ」 


検査隊のひとりが青い光を走らせ、スキャンを始めた。

「……確かに“人間種”の生体データだ」

「だろ? 本物だ。けど、俺の店に来たときには“髪だけ”だった。

本体は──足の速い連中がさらってったんじゃねぇか? 闇市なら桁違いの値がつくからな」


沈黙。


三体の機械生命体が、電子信号を交わすような短い光を瞬かせ合う。


「……この件は報告する。次は“調査”では済まない」

「好きにしな」

俺は軽く笑って肩をすくめる。

「店を壊さなかっただけでも感謝するよ」


数秒後、足音が遠ざかり、扉が閉まった。

その瞬間、肺の奥から空気が一気に抜けた。


「……ふぅ。まったく、肝が冷えるわ」 


階段の下から、そろりとルチルが顔をのぞかせた。

怯えた金色の瞳が、こっちをじっと見つめている。

「た、助かったの……?」


「あぁ、今回はな」

俺は机にもたれかかって、深く息を吐いた。


「だが次は通用しねぇ。“未契約の人間”なんざ、王国が放っとくわけがねぇんだ」

言ってから、自分でもわかってる。

あの新世代の目は、“疑っていない”目じゃなかった。“探している”目だ。


「怖ぇだろ?」

冗談めかして言ってみたが、ルチルは答えずに小さく頷いた。


「でもな、怖いってのは“生きたい”って証拠だ。生きたいなら、今は息を潜めてやり過ごせ。……それが一番の生き延び方だ」


ゴーグルの奥で目を細める。

あの青白い瞳──あれが本気を出してくる前に、手を打たねぇといけねぇ。


「……銀緑、急げよ」

いない相棒の名を、独り言みたいに吐き出す。


ルチルはまだ知らない。

本当の脅威は、今の一件で終わりじゃないってことを。


次は“確認”じゃ済まない。

次は、“捕獲”が来る。

──それでも、守ると決めたんだ。

俺はこの手で、“運命の子”を渡さねぇ。

☆世界のかけら☆

・“新世代”機械生命体【"ニュー"オートマタ】は、王国直属の管理兵として設計され、感知能力や嗅覚センサーを持つ個体もいる。


・“未契約の人間”は国家資源とされ、保護と称して実質的な管理下に置かれることが多い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ