2話 *??視点
「……!? 大丈夫か!」
崩れ落ちた体を抱き上げた瞬間、鉄の匂いが鼻を刺した。嫌な予感が背筋を走る。
まさか──そんなはずは……。
けれど、傷口から流れ落ちる赤く鉄臭い液体と、あまりにも柔らかすぎる体が、その“まさか”を現実に変えた。
俺はすぐにマントを脱ぎ、彼女の体を覆い隠す。
顔は赤く体表温度は40度近い……このままじゃ危険だ。
自分の体温を活動限界ギリギリまで下げ、冷やすように抱き込む。
──人間種。
この地に“いるはずのない”存在。
今やこの国に百人もいないとされ、絶滅寸前の種族。俺たち機械生命種の「主」となりうる唯一の存在だ。
だが、気候変動に耐えられず数を減らし、今では保護対象とされている。
彼女の存在が信じられないまま、俺は足を動かした。友人の店なら手がある。そう思い、彼女を抱えて駆け出す。
さらりと流れた髪の隙間から、丸く柔らかい皮膚に包まれた“耳”がのぞいた。
「……嘘だろ。主の印を持っていない? ということは、まだ誰とも契約していないってことか……」
周りに誰も居ないのを確認してフードを目深に被せる
機械生命種には“リミッター”という制限がある。
それを解除できるのは人間種だけだ。
数百年前、我らはあまりにも強すぎて他種族を滅ぼしかけた。そのため神がリミッターを与えた──そう言い伝えられている。
人間種と契約し、主を得ること。それは神と契約するに等しく、我らにとって至高の喜びだ。
契約は機械生命体の血液から作られる耳輪を主の耳に着け、主から命の源を頂くことで成立する――神聖な儀式だ。
契約ありで力を100とするなら、なしでは70程度しか出せない。
主持ちは国の上位存在として君臨し、国土の半分を覆う“アンダー”に現れる変異種の駆除、他国との戦争……あらゆる場所で活躍する英雄。
人間種は水を必要とし、活動可能な温度にも限りがある弱い種族で、護らねばすぐに死んでしまう。
日差しだけで火傷する外気温60度のアンダーを、一人で生き抜くなんて──奇跡以外の何物でもない。
それに、人間は闇市場で高値で取引される。だからほとんどは王国の庇護下で厳重に囲われているのだ。
「……なぜ、そんな場所に“ひとりで”いたんだ……?」
耳輪が無かった…まだ契約者はいない。
彼女は、俺の主になってくれるだろうか?
ふとそんな考えが頭をよぎる。
いや、違う。俺のような存在ではなく、もっと上位の王族こそが相応しいのかもしれない。
でも──俺が見つけたんだ。
アンダーでの取得物は、第一発見者の手に委ねられる。それがルール。
『……』
とにかく今は処置が先だ。
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俺は東の壁の街にあるパーツ屋【星巡り】へと飛び込んだ。
「トッド!! 力を貸してくれ!!」
カウンターの奥で動いていた影が、面倒くさそうに手を振る。
「銀緑!! お前またパーツ壊したのか? 昨日の今日でありえねぇんだけど? 今手離せねぇから一時間待ってよ!」
「そんなのどうでもいい! とにかく来てくれ!」
彼女をそっとベッドに寝かせ、冷蔵庫から保冷剤を山ほど取り出して体の周囲に並べていく。
「はぁ……まったくワガママもほどほどに……って、おいおい! とんでもないもん持ち込んだな!?」
トッド──ドレッドヘアにゴーグル姿の男──が振り返った瞬間、驚愕の声を上げ、店の鍵を閉めて即座に“閉店”状態にした。
「見られてねぇだろうな? 人間種か……? こりゃひでぇ火傷と擦り傷、それに切り傷だらけじゃねぇか……アンダーに裸で散歩でもしてたのかよ。とりあえず薬取ってくる。お前はその保冷剤、首と脇と……あと脚の間にも挟んでやれ。てか、こんなにいらねぇから……」
「……見られてはいない。すまん」
銀緑と呼ばれた男は肩を落としながらも、言われた通りに彼女を冷やし続けた。
*⁂世界のカケラ2⁂*
【機械生命体】
数百年前、隕石衝突をきっかけに自我を持ったアンドロイドが“種”として独立した存在。個体によって姿や能力が異なり、戦闘特化型・医療型など多様な派生種がいる。
【リミッター】
神が課したとされる制御装置。解除されない限り機械生命体は本来の力の70%程度しか発揮できない。解除条件は“主”との契約のみ。




