初上三無姫と甘姫
初上三無姫は、静かな朝の光の中、墓地へと向かう道を歩いていた。空は深い蒼に染まっていて、木々の隙間を通り過ぎていく風が、彼女の髪を揺らしていた。
墓地に到着した初上は、辺りを見回し、黒江の眠っている場所を探す。
見つけたそれは真新しい墓標で、『真如院慧音沙妙大姉』という、黒江の戒名が刻まれていた。
「黒ちゃん、久しぶり」と初上は小さく呟きながら、手に持っていた一輪の白いカーネーションをそっと墓前に置いた。
初上はゆっくりと膝をついて、墓石を見つめた。目を閉じると、自然と黒江との思い出の数々が脳裏に映し出された。黒江と初めて会った時のこと、一緒にディズニーランドに行った時のこと、コラボ配信でゲームをしたこと、笑い合った、楽しい思い出ばかりだった。思えば、一度も喧嘩をしなかった。こんなに早いお別れになるなら、喧嘩ぐらいしておけばよかった。
「アリアは毎日楽しそうにゲームやってるわ。黒ちゃんもそっちで、大好きなゲームを楽しんでるといいのだけど、どうかしら」初上は静かに話し続けた。「望月さんがね、もうしばらくしたら、コラボ配信もうまく出来ると思いますって、そう言ってた」
「でも私、少し怖いの。あのアリアを黒ちゃんだと思って会話するのが怖い」
「ねえ、どうしたら、今のアリアと上手にやっていけると思う? 黒ちゃんだと思えば、問題なくいけるかしら」
「ふふ……なんてね。心配かけてやろうと思ってきたわけじゃないの。大丈夫、上手くやるわ。黒ちゃんが残したアリアだもの、私と相性が悪いわけないわよね」
彼女はしばらく沈黙した。風が吹き、墓前のカーネーションが揺れる。初上は目を開け、墓石を見つめたまま言った。
「初上三無姫としても、甘姫としても、私は生き抜いてみせるから」
初上は墓石に手を触れ、温もりを感じるかのように指先で撫でた。その仕草は、黒江がまだここにいるかのような、彼女との最後の触れ合いを求めるものだった。
「それじゃあ、黒ちゃん。お土産話が出来たら、また来るわ」




