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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第3章 蒼い日々
29/32

5話

 走ったせいか、初上の思考はいつもより澄んでいる。


「考え直すつもりはないの?」


「今のところは、そうですね」


「良かったわね、私が間に合って」


「はい、良かったです。来ると思っていました」


「あら」初上は微笑んだ。「タクシー代、出してくださいね」


「これを」鷹野は初上のジョークを無視して、懐から封筒を取り出した。


「遺言?」


「そうです。僕のではありませんが」


「へえ……」初上は封筒を受け取って、眺めた。『大和田事務所のみんなへ』と書かれていた。女の子らしい丸っこい筆跡は見慣れたものだった、これは黒江のだ。


「なぜ、鷹野さんが?」


「中を読んだうえで、黒江さんの部屋から持ち出しました。すみません」


「今、読んだ方がいい?」


「お好きにどうぞ」


「じゃあ待ってて」初上は封筒の口を開いた。「勝手に落ちないでね」




 ***




 大和田事務所のみんなへ。黒江里沙です。


 まずは、ごめんなさい。私がいなくなることで、みんなにはすごく迷惑をかけることになると思います。みんなの悲しい顔を想像すると、胸が痛くなります。本当にごめんなさい。私がこんなことをした理由は後に書きますが、悲観しないで読んでもらえたら嬉しいです。


 見つけてもらえるのはライブの前日だと思いますので、少し、お願いしたいことを先に書いていきます。


 まずは、白日アリアと甘姫のライブを、どうかよろしくお願いします。テーブルの上にあるポータブルSSDにライブに必要なアリアのデータを入れてあります。これがあれば、ライブは問題ないはずです。みーちゃんにはすごく迷惑をかけてしまうけれど、どうか、どうかお願いします。ライブの成功を祈っています。


 それと、アリアと甘姫のライブの日に、私がこの世から去ったというニュースが出回るようにしてあります、これは黒江里沙の名が、いち早く世間から忘れられるように、このタイミングにしていますので、当日、焦らずに、ライブを遂行してもらえればうれしいです。


 さて、私が自ら命を絶った理由ですが、これはひとえに白日アリアのためです。


 私は白日アリアでいることが大好きでした。最初は生活するために頑張っていたバーチャルストリーマーの活動が、徐々に私の人生の全てになっていきました。本当に、楽しかったんです。金髪の綺麗な女の子になって、可愛い服を着て、大勢のリスナーとお話して、ゲームをたっくさんやる生活が、楽しすぎておかしくなりそうでした。いや、おかしくなっていたのかも。それで、アリアの活動の支障になるようなことは、全部やめました。服も買わなくなったし、化粧の勉強もやめたし、甘酸っぱい恋に憧れるのだって、気付けばやめてました。そして最後に、一番邪魔な存在だった黒江里沙であることすらもやめる決断しました。


 意味がわからないわ、ってみーちゃんに怒られそうですけど、どうか怒らないでね、みーちゃん。この決断になったのは、自分が邪魔になるぐらいに、アリアでいる時が楽しかったからなんです。みんなのおかげです。みーちゃん、社長、鷹野さん、麻衣さん、萌ちゃん、川崎君、みんな本当にありがとうございました。


 私が死んでも、アリアを存続させられるシステムを作って欲しいと、望月さんにはずっと前からお願いしていました。やばいぐらいあった貯金も全部、望月さんの会社に送ってます。なので、アリアは大丈夫です。永遠に、大和田事務所のバーチャルストリーマーとして活動できるように、望月さんたちが手配してくれるはずなので! 完全に自動化するのはまだ難しいみたいですけど、いつの日か、SF映画みたいな世界が来たら、今までのアリアの配信を学習させた完全自立型バーチャルストリーマーAI? みたいなのが完成することを信じています。望月さん的には、あと10年後ぐらいを目指してるらしいですよ。楽しみですね、私も天国から見てま~す。


 ごめんなさい。書いていて、少し楽しくなってきました。遺書はお堅くあるものだって思って書き始めたんですけど、バカみたいな文章になってきてたらごめんなさい。とにかく、私は私の意思で、それもポジティブな方向で、お先に天国に行ってますっていうことが、この遺書でつよ~く伝えたいことです。


 だから、あんまり泣かないでくださいね。特にみーちゃん、意外と泣き虫なところ、私は知ってるからね。恨み節は、また今度聞くから、みーちゃんはゆっくり、初上三無姫としての人生を謳歌してから、こっちに来てください。千の夜も退屈しないぐらいのお土産話、待ってま~す。


 この辺にしておこうかなと思ったけど、お世話になったみんなに、もう一言ぐらい感謝を書きたくなったので、私、書いちゃいますぜ。暇な時に読んでね。


 まずは、鷹野さん。


 あの時、底辺配信者だった私を見つけてくれてありがとう。おかげで、最強バーチャルストリーマーの白日アリアになることが出来ました。もし鷹野さんがいなかったら、私はたぶん、もっと早く死んじゃってたと思います。うん、絶対死んでた。


 鷹野さん、私のことで責任を感じる必要はないですからね。もうさっき書いたけど、他ならない私の意思で、この選択をしたので、絶対責任を感じないで、いつもの飄々とした鷹野さんのままで、いっぱい幸せになってください。


 次は、麻衣さん! 


 麻衣さんは私にとってはもう気のいいお姉ちゃんみたいな存在でした。ばりばり仕事人ってイメージもあるのに、癒しキャラなところポイント高いですよ、可愛いです。鷹野さんみたいな不愛想なマネージャーには、絶対にならないでくださいね。あ、でも二人とも意外と熱血なところはもう似てきてるかもです。


 麻衣さんにもたっくさんお世話になりました、ありがとうございました! とかいいつつ、アリアのことで、これからもお世話になるかもしれませんね。もしよかったら、長くアリアのことをみていただけると嬉しいです、よろしくお願いします。


 次は萌ちゃん! 


 萌ちゃんはいつだったか、アリアみたいなバーチャルストリーマーになりたいって言ってたよね。萌ちゃんは世界一可愛いから、絶対アリアよりもすごいバーチャルストリーマーになれるよ。私が保障する! だから、頑張り過ぎないように、頑張ってね。あれ、矛盾してるか? でも、伝わるよね? 


 萌ちゃんが人気になるころには、アリアのAI配信が完成して、コラボとかもできるようになってるかも! そしたら、いっぱいアリアと遊んであげてね! 約束! あ、やっぱり約束はしなくていい! 萌ちゃんはこれからの人生を好きなように、何にも縛られずに楽しく、幸せに生きていってください! お空から応援してま~す!


 次、社長!


 社長にも、いっぱいお世話になりました! 出来立てほやほやの大和田事務所と契約を結んだときは、どうなることやら、って思ってたけど、社長の営業力? っていうんですか? わかんないけど、すごかったですよね。アリアと甘姫が全然まだ有名じゃない頃に、大型ストリーマーさんとのコラボ案件を大量に獲得してきたの、あの時は、すごくびっくりしましたよ。今思えば、あのコラボがきっかけでアリアと甘姫の人気が爆発したんですよね~。アリアと甘姫の命の恩人と言っても過言じゃないです。どうせ社長は自分で言わないだろうから、ここに書いておきますね!


 社長の包容力が、大和田事務所の柱になっていると、私は思うので! みんなをよろしくお願いします!


 次! 川崎君! っていうかレインさん!


 レインさんは安定してるタイプですよね。私、レインさんの配信を見てて、結構、羨ましく思ってました。嫌味じゃないですよ、本当に。


 カミングアウトしちゃうと、私、ファンもアンチも、どっちもたくさんいた方がいいと思ってるタイプなんですけど、レインさんを見てると、やっぱりアンチは少ない方がいいのかも……とか思ったりもしてました! まあでも? 白日アリアはファンもアンチもぜーんぶ囲い込むスーパーバーチャルストリーマーなので! 隣の芝が青くても気にしないことにしてましたよーだ!


 レインさんはどうかそのまま、平和に、インターネットの荒波を避けていってくださいまし。


 最後にみーちゃん!


 みーちゃんにはね、感謝してもしきれません。辛い時も楽しい時も、ずっとみーちゃんと一緒だったよね。


 覚えてるかな、アリアとしての活動が始まって初めのころ、私は上手に配信ができなくて、事あるごとにみーちゃんに相談したよね。みーちゃんは最初からお喋りが上手だったからさぁ。あーあ、羨ましかったなぁ。


 実はね、甘姫の真似をしてた頃もあったんだよ、気付いてた? でもみーちゃんがさ、『ありのままの黒ちゃんが一番魅力的なんだから、それをアリアに落とし込んであげたらいいじゃない』って言うもんだから、真似をするのをやめたんだよね。あの日からだよ、白日アリアが走り出したのは。覚えてないでしょ? いいもん、私がずっと覚えててあげるから。


 デビューしてからこれまでずーっと、みーちゃんがそばにいてくれたから、私はアリアでいられたんだなあ、ってしみじみ感じてます。ありがとう! アイラビューだよ、みーちゃん、アイラビュー。ということで、これからも、黒江里沙と白日アリアは、初上三無姫の幸せを願ってます!




 ***




 初上は泣いていた。黒江の葬儀の日から、涙腺が脆くなったかもしれない。子供のころから、あまり泣くことをしていなかったな、と思い出した。自分は強い人間だと思い込んで、強い人間は泣かないものだと、そう考えていた。稚拙な考えだと、今は思う。


 強さというのは、黒江里沙の持つ精神性のようなことをいうのだろう。


 でも、強くなくてもいいから、ただ生きていて欲しかった。黒江の考えを知った今でも、それは変わらない。


 正直、怒りさえあった。残された人たちが悲しむのを知っていながら、どうして死を選んだのか。これが酷い話だと思うのは、それほど異常なことではないはずだ。


 アリアなんてどうでもいいから、戻ってきて欲しい。


 アリアを残されても、黒江がいなければ意味がない。


 アリアは黒江で、黒江は黒江だ。


 そんなことを言ったら、黒江は悲しむだろうか。


 でも、もういないのだ。どうやっても、もう会えない。


 ならばせめて、黒江の選択を肯定しよう。


 黒江がこれで幸せだというのなら、私も幸せなのだ。


 そう言い聞かせて、生きていくことにする。


 今は、どう頑張っても涙は出てしまうけれど、それもやがては枯れるだろう。


 いつの日か、たくさんの土産話を持って会いにいこう。その時は笑えるように。

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